2.ジュニアチームに入団

「え!? 野球!」


「高史君から小学校入ったらやらないかって誘われたんだけど、ママはどう思う?」


「司はどうなの?」


「俺は・・・ちょっとやりたいかも」


「千恵、あれを渡す時だと思うぞ」


夕飯を食べた後、俺は父さんと母さんに野球をやりたいと伝えた。野球に関して正直俺がどこまでやれるのかは興味があった。公園での投球から野球チートはかなりすごいものだと言うのがわかったからだ。ただ野球にはお金もかかるため、あまり家に負担はかけたくなかった。


「ママ嬉しいわ! 司が野球やりたいって言ってくれて! ちょっと待っていてね」


そう言うと母さんは席を立ち、夫婦の部屋へと向かった。父さんは何事もなかったようにご飯を食べ進めていた。


「じゃーん! こんなこともあろうかと子供用のグローブを買っておいたのよ!」


箱から出てきたのは右利き用の投手用グローブだった。なぜこんなものが家にあるのかわからないので俺は母さんに聞いた。


「どうしてグローブが家にあるの?」


「司、お母さんは元女子プロ野球選手何だよ」


「・・・え!?」


まさかの事実だった。母さんが女子プロ野球選手だったとは。昔野球やっていた感じはしたが、そこの頂点に立っているとは思わなかった。父さんの話曰く、父さんと母さんは幼馴染で父さんも昔野球をやっていたそうだ。高校で野球はやめ、当時から付き合っていた母さんのサポートに回ることを決意したらしい。母さんは高卒ドラフト4位のピッチャーで入団し、22歳の時に父さんと結婚。29歳で怪我と俺の妊娠をきっかけに引退したという。一軍でも活躍した結構な実力者だと教えられた。


「ってドラフトとか言っても分からないわよ、パパ! ともかく、ママとパパは司が野球やりたいっていうのを待っていたのよ!」


母さんはニコニコだった。本当に息子の俺が野球やりたいと言うのを待っていたらしい。


「よし! 明日はお休みだから公園でパパとママとキャッチボールしようか!」


■■


「司! 行くよ!」


「うん!」


俺は母さんと近くの公園でチャッチボールをした。使うボールは小学生が使用する硬球だった。いきなり硬球かよと思ったが、母さんいわく、高校まで野球やるのなら今のうちに触れておいたほうがいいとのことだった。俺が高校まで野球やるのはなぜか確定事項らしい。


「上手いよ! 司! 流石は私の子供だね!」


「行くよ! パパ!」


「良いボールだ! 司!」


俺はいつも高史君と遊んでいる感覚でボールを投げた。家族三人でキャッチボールなんとも和やかな光景だった。


「司! もう少し距離を取るからね! 思いっきりママのところまで投げてみて!」


その後さっきよりも距離を取ってキャッチボールを始めた。俺はいつも高史君達と一緒にやっている感覚でキャッチボールをしていたのだが、母さんはなぜか段々と真剣な顔つきになっていったのが分かった。父さんも少し驚いており、ボールを受け取った母さんは俺の元へ来た。


「司、投球フォームって分かる? 分かるのなら次もう少し距離を取るからそれで投げてみて、もちろん本気で!」


そう言うと母さんは距離を取り、キャッチャーの構えを取った。距離は高史君とやった距離ぐらい離れていた。俺は母さんに言われた通りに見様見真似のオーバースローをしてボールを投げた。そのボールはしっかりと母さんのグローブに届いた。母さんはそのボールをキャッチした後、俺の元へと走って来た。


「すごいわ司! 5歳でもうここまで投げられるのね! 小学校に入ったらすぐにジュニアチームに入ろうか! この才能を無駄にはさせないわ!」


母さんの目はキラキラしていた。どうやら母さんのプロ野球選手魂に火をつけたらしい。その日以降、俺は母さんの指導元で走り込みやキャッチボールをすることになった。高史君も俺の母さんがプロ野球選手だと知って、一緒にトレーニングをすることになった。母さんいわく、今は身体づくりに専念しろとのことだった。


(俺、公務員になりたんだけどな・・・)


そんなことを思いながら俺は走り込みをしていた。


■■


 卒園式の少し前に俺と高史君と莉子ちゃんは近くのリトルリーグチーム、正確にはその傘下であるジュニアチームに所属するために小学校で開かれる説明会を聞いていた。この世界ではリトルリーグの前に小学校1~3年生までが所属するジュニアチームというものがあるらしい。なんとなく聞いていて分かったのは俺の所属する仙道せんどうリトルはかなり強いということであった。そして小学校に入学したらジュニアチームの練習が始まるのだという。


(プロ野球選手も排出しているのか。てか近藤選手ってここのチーム出身だったのか!)


高史君はその情報を聞いてとても嬉しそうにしていた。憧れの選手と同じチームに所属できるとは思っていなかったらしい。俺達はすぐに入団届を出して仙道ジュニアに所属した。


「司! ちょっと練習見ていこうぜ!」


「ちょっと! 高史君!」


俺は高史君に引っ張られてジュニアの選手が練習しているグラウンドへと向かった。高史君と同じ考えを持っていたのか、結構な子供が練習を見学していた。


(ていうか、この子供って俺と同い年かよ! 上手くないか!)


ジュニアの選手達はみんな上手かった。この世界の野球のレベルだと普通なのだろうか。


「やっぱりみんな上手いな! 俺も早く練習してプロ野球選手になりたいな!」


司が興味津々で練習を見ていた。どうやら俺の感覚は正しかったらしい。こんなところでやっていけるのかなと思った。


カキーン!


(・・・それにしてもさっきからホームランゾーンに飛ばしているあの子、すごいな。全部飛ばしている)


一人だけ異次元に上手い子供がいた。体格も一回りも大きく、顔の雰囲気も大人で小学生なのかなと思っていしまった。


「あいつって確か、滝上剛たきのうえつよしだよな。俺達の一個上のやつで、キャッチャーの」


「え!? 一個上なの!」


ホームランを飛ばしていた子供は俺の一個上らしい。しかもキャッチャーでジュニアチームでは有名みたいだった。言われてみればあの子の周りだけ大人が結構いる。小学生にして早くも注目選手なのが伺えた。その後、母さん達に呼ばれ俺達は家に帰宅した。


■■


 卒園式が終わり、俺と高史は走り込みを行っていた。子供のうちは筋トレよりもこうした走り込みをしたほうがいいと言われたので、毎日欠かさずにしていた。


「いよいよ明日だな!」


「そうだね、高史君。緊張するな・・・」


「大丈夫だって! 俺達ですぐにジュニアのレギュラー取ろうぜ! それに高史でいいよ!」


俺達はキャッチボールをしながら明日のジュニアチームの練習のことを話していた。高史はいきなりレギュラーを取ると言っていたが、それは無理だろう。ジュニア大会では基本小3しか出られない。理由は体格に差がありすぎるからだ。


「いや無理だろ。小3まで大人しく体作りをしようぜ」


「気持ちの問題だよ、気持ち」


その後、遅れてきた莉子ちゃんも混ぜて三人で仲良くキャッチボールを行った。


「司。本気で投げていいよ」


ボールを掴んだ高史がそう言って、キャッチャーの構えをしてミットを構えた。俺は頷き、オーバースローでボールを投げた。何度も投げているため、段々と様になっていると思った。


(なんやかんやで俺の野球人生が始まるのか。ちょっと楽しみだな!)


俺はそんなことを思いながら今日の練習を終えた。

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