第12話 ぼくと花子さんとコックリさん③

「ここかえ?花子とやらの住処は」


 現れたのは着物を着た古風な女性。頭には高価そうな髪飾りを着けており、上品に後ろで纏められた長い黒髪は艶やかで昔の身分の高い女性を思わせる。目鼻立ちが整っており、この人は歯を見せて笑う事はないだろうと思うくらい気品と上品さを感じる。真っ赤な唇は良いアクセントになっている。


「なに?私に用?」


「お前が花子かえ?妾は玉藻前。長い間、岩に封じられていたが封印が解け久しぶりに人の世に出てみれば花子とやらが我が物顔で人々を震え上がらせてるというではないか。妾は思った、人々が怯えるわりには今の世は平和過ぎる。妾の時代では考えられぬ。つまり花子とやらは名前だけが一人歩きしただけの小物にすぎない…」


「なにあいつ?ずっと喋ってるんだけど」


「ちゃんと話を聞いてあげようよ。たぶん、すごい年上だよ。ね、コックリちゃん♪」


 口裂け女はコックリさんの腕を持ちバンザイをさせる。コックリさんは諦めたようで無抵抗。


「誰に聞いても花子さんと“さん”をつけよる。だが、あれほど名を馳せたはずの妾はそのように呼ばれたことはない。なんたる屈辱!妾が花子とやらの小物より劣るはずがない。ならば、妾は力で花子とやらを服従させることに決めたのじゃ!そして、妾に“さん”をつけて呼ばせるのじゃ。それならば人々も認めようぞ。わらばがっ」


 花子さんは喋り続ける玉藻前に石鹸を飛ばし額に直撃。


「なにをする!?妾はまだ喋っておるのに!」


「なぁがい」


「妾の話が長いと!小物にわかるように話してるというのに……」


 玉藻前はふと口裂け女の方を見る。無抵抗に腕をぐるぐる回したり頬をムニムニされたりするコックリさんを見て驚愕。


「妾の同胞にこのような仕打ちを…許せぬ!」


 玉藻前は手をかざすと衝撃波を放つ。床のタイルが剥がれるほどの威力。衝撃波は目には見えないが剥がれるタイルがぼくの方に向かってくる……だがなにかに止められたかのようにタイルの破壊が止まった。


「あんた達、私の後ろに下がりなさい」


「は~い」


 口裂け女はあまり緊張感がないが、はじめて見る花子さんの真面目な顔にぼくはなにも言えず花子さんの後ろへ。


「妾の攻撃を防いだか、小物相手だが仕方あるまい。妾の真の姿を見せようぞ」


 そう言うと、みるみる内に姿を変えていく。


「どうじゃ!これが妾の真の姿!この姿であれば妾の名を知らぬ者はおらぬであろう!」


 玉藻前はきつねの姿に変わっていた、尾が九本ある。


「あれって…九尾の狐」


 ぼくは思わず後ずさる。


「へぇ、とんだ大物だったってわけね。私の名前も売れたものね」


「愚かよのう、その余裕いつまで続くか」


 九尾の狐は九本の尾の先から火の玉を出す。


「これで終わりじゃ!」


 九つの火の玉は真っ直ぐ花子さんへ。しかし、火の玉は花子さん目の前でピタッと止まった。


「そうねぇ、ただ勝つだけじゃ学習しそうにないし圧倒的な力を見せましょうか。踊りなさい」


 九つの火の玉は九尾の狐に目掛けて飛んでいく。


「なにをした!?」


 九つの火の玉は一つ一つ順番に九尾の狐の足元に飛んでいく。


「ひぃっ」


 ステップを踏むように火の玉を避ける。


「おのれぇ、ならば本気を見せてやろう!もうどうなっても知らぬぞ」


 九尾の狐は口を大きく開ける。口内に光の玉のようなものがあり、それは徐々に大きくなる。


「これ以上あれこれ壊されるのは面倒ね」


 花子さんは右手を前に出し手を開いたかと思ったら、なにもない空を握る。


「むぐぐ!?」


 九尾の狐は急に口を閉じ慌ててる。本人もなにが起きてるかわからない様子。


「あらぁ、どうしたのかしら?本気を見せるんじゃなかったの?」


 花子さんは嫌みっぽく言い、九尾の狐にゆっくり近づく。


「あんたの尻尾って九本もあるし邪魔じゃない?」


「んんん!」


 九尾の狐は花子さんを睨みつける。


「なに?その反抗的な目は?立場を理解できてないみたいね」


 花子さんはオーケストラの指揮者のように左手を縦や横に振る。すると九尾の狐の尻尾が一斉に動き出し尻尾の三つ編みが三本出来上がった。


「すごくオシャレになったじゃない?」


「………」


「だいぶ大人しくなったわね。もう暴れないわよね?」


 九尾の狐は小さく頷く。


「解放してあげるわ」


 花子さんは握りしめてた右手をパッと開く。


「馬鹿め!妾の攻撃は続いておるぞ!」


 先程の光の玉は口の中で維持されていたようだ。


「今度こそ、終わりじゃ、ぐむむ」


 またしても九尾の狐の口は閉じてしまう。


「あんた、学習しないわけ?」


「んんん!んん!んん!」


「なに言ってるかわかんないわよ。そうだ!こんなに尻尾があるんだから何本か抜いても問題ないわよね」


「んんんんんん!!!」


 九尾の狐は必死に首を横に振る。


「あんた、散々暴れといてなにもなく帰れると思ってんの?」


「んんん!んんん!」


 必死になにかを訴えてる。


「わかったわよ、尻尾はやめてあげる」


「んん」


 九尾の狐はホッとした表情。


「それじゃあ、口の中のものを飲み込みなさい」


「!!!?!?」


 口の中のもの……先程から九尾の狐が花子さんに向けて飛ばそうとしてたものである。


「んんん!んんん!んんんんんん!」


 九尾の狐はいままで以上に慌て必死に首を横に振る。


「それも嫌なわけ?じゃあ、せめて口の中のものを迷惑にならない所に吐き出しなさい」


 九尾の狐は廊下に出ようとしたがドアが閉ざされている。


「あっちの窓からにしなさい」


 花子さんはトイレの突き当たりの窓を指を差す。


 九尾の狐はトボトボ歩き窓から顔を出し空に向けて口の中の光の玉を放った。光の玉はぐんぐん上昇すると


 ドカーン


 眩しく光った後に大爆発。爆風で旧校舎はガタガタ音を立てる。


「あんた、なんてものを室内で放とうとしてんのよ!」


「妾を侮辱するからであろう」


「なにか言ったかしら?」


 再び九尾の狐の口が閉じる。


「これはもう尻尾を全部引っこ抜くしかないようね」


「んんん!んん!」


「そういえば、私にあんたを“さん”付けで呼ばせるとか言ってたわよね?いまもそのつもりなのかしら?」


「んんん!」


 首を横に振る。


「じゃあ、この拘束を解いたらあんたは素直に帰る。いいわね?」


「んん!んん!」


「それと、この花子“さん”に言いたいことある?この花子“さん”に」


 “さん”をやたら強調し九尾の狐の拘束を解いた。


「もう、そなたの前には現れぬ!許しておくれ!花子“さん”」


「はい、よくできました♪」


 花子さんは笑顔で拍手。九尾の狐は一目散に逃げていった。


「花ちゃんは強いね~」


 コックリさんに頬擦りする口裂け女。まるで結果がわかってたような緊張感の無さ。


「ホントに驚きました。花子さんってすごいんですね」


「ふふん♪崇め奉りなさい!」


 誇らしげに胸を張る。


「それにしても、この惨状…」


 ぼくは辺りを見渡す。


「今日はお開きね、首なしに修繕頼まなきゃ」


「だね~、コックリちゃんも一緒に帰ろ♪」


「うん………はっ!私はいままでなにを?………って、なにがあったのよ!?」


「あんた、今ごろ気づいたわけ?」


「この女に弄ばれてる時は感情も記憶も捨ててるのよ」


(だから、いままで無言だったのか)


「もう、おうちかえる!」


 口裂け女の手から逃れ来た時と同様に鳥居が出現。コックリさんは逃げるように消えた。


「カムバーック、コックリちゃ~ん」


 鳥居は消え口裂け女の声は届かない。


「私も帰る」


 肩を落とし退室する口裂け女。


「それじゃ、ぼくも帰ります!また明日」


「また明日…ね」


 花子さんの嬉しそうな笑顔に気づくことなくぼくは退室した。




【おまけ】


「くっそぉ、あいつ毎日のように旧校舎に行ってやがる」


 悔しそうに喋るガキ大将。


「旧校舎でなにしてるんだろう?」


「俺が怖くて旧校舎に逃げ込んでるだけだろ!行くぞ!」


 ガキ大将と取り巻きはグラウンド側から旧校舎に足を進める。


「ねぇ?あれなに?」


 取り巻きは空を指差した。


「ん?なんだあれ?」


 2人が見たのは光の玉だった。光の玉はどんどん空高く飛んでいきピカッと光り大爆発。2人はその爆風で転ぶ。


「………」

「………」


 2人はあまりの出来事にあっけにとられてしまう。


「帰るぞ」


「うん」



 ≪次回予告≫


 彼は勉強熱心 勉強に励みながら親の手伝いをする姿はまさに好青年 彼に落ち度はない 大人たちが彼を貶めたのだ 全国から彼の姿をほとんど見なくなったが彼は気にしない 彼は怒ったりしない 好青年だから 彼と喧嘩するのならば素手では絶対に勝てない なぜなら…

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