第11話 ぼくと花子さんとコックリさん②


「コックリさん、コックリさん、おいでませ」


 儀式を行うとすぐに異変が起きた。目の前に鳥居が出現しポンッと煙と共に巫女服を着たケモミミ少女が現れた。短い金色の髪は触らなくても毛並みの良さがわかる。腰辺りからはふわふわもふもふな尻尾。背丈はぼくや花子さんと同じくらい。


「コックリちゃ~ん♪」


 口裂け女は五円玉から指を離しコックリさんに抱きつく。


「んあぁぁぁ、またあんたなの!」


「コックリちゃ~ん、ひさしぶり♪もふもふ可愛いよ~♪」


 花子さんにも何度か抱きついてたが、これはレベルが違う。


「呼んだなら質問しーろー」


 口裂け女の腕の中で暴れ、なんとか脱出。


「うんうん♪」


「それと私は愛玩動物じゃないんだぞ!」


「うんうん♪」


「私の話聞いてる?」


「うんうん♪」


「バカ」


「うんうん♪」


 相槌を打つだけになってしまった口裂け女。コックリさんの動き一つ一つが可愛くて仕方ないのだろう。


「花子って性格悪いわよね」


「うんうん♪」


 花子さんはすかさずコックリさんへ石鹸を飛ばす。


「あだっ」


 コックリさんの額に直撃。


「うんうん♪」


「はーなーしーをーきーけー」


 コックリさんは激しく地団駄。


「うんう…」


「あんた話が進まないでしょー!」


 パシーンッ


 その流れに見かねて、花子さんは口裂け女のお尻を強く叩く。その音は何度もトイレ中に反響した。


「いった~い!花ちゃん、なんでお尻ばかり叩くの?」


 お尻を擦りながら花子さんに聞く。


「そこにあんたのお尻があるからよ」


「あの……口裂け女さん、五円玉から指を離してしまってるんですけどいいんですか?」


 ぼくは五円玉から指を離さず一連の流れを見守っていた。


「君はルールを守ってて偉いね、ルールを破った人がどうなるか見せてあげる」


 緊張が走った……だが、それはぼくだけだった。


「花ちゃん!」


「冷蔵庫にストックあるわよ」


 細かく話さなくても2人は通じあってるようだ。幽霊パワーを使って冷蔵庫を開けるとタッパーを取り出し、その中からあるものを取り出した。


「コックリちゃん、これな~んだ?」


 コックリさんの目の前で取り出した物を浮遊させる。


「ほぉぉぉ♪」


 コックリさんはそれを見て恍惚な表情を浮かべる。


「油揚げ♪油揚げ♪」


 コックリさんはピョンピョン飛び跳ねる。そうコックリさんの心を奪ったのは油揚げである。


「これあげるから許してくれる?」


「許す!許すぅ!」


「それじゃあ、はい自分で取って」


 口裂け女はわざわざ自分の目の高さに油揚げ移動させる。


「んんん」


 コックリさんは口裂け女の前で必死に油揚げを取ろうとつま先立ちで両手を伸ばすが届かない。それを幸せそうな顔で見つめる口裂け女。


 我慢できなかったのか口裂け女はコックリさんの両脇に手を入れ持ち上げる。持ち上げられたことで油揚げに手が届く距離に。コックリさんはすかさず油揚げを手に取り夢中で頬張る。


 幼い女の子を抱き上げる大人の女性。端から見るとすごく微笑ましい光景だ。


「油揚げに夢中ですね」


「うん♪食べてるのを邪魔さえしなければ…こんなことや」


 口裂け女はコックリさんを抱き締める。


「こんなことも!」


 続いて頬擦り。


「さらにこう!」


 コックリさんを自分の頭の上に座らせた。


「私にもやらせなさい」


 口裂け女は頭のコックリさんを床に降ろす。すると花子さんは目にも止まらぬ速さでコックリさんと組体操のサボテンを披露。


「どうよ!」


 サボテンよりコックリさんが油揚げを口に咥えたまま腕を水平に上げポーズを決めてることの方が気になる。


「次いくわよ!」


 花子さんと口裂け女はアイコンタクト。またもや早業で出来上がったのは…


「どうよ?これが私達のピラミッドよ!」


 口裂け女は下段の土台、花子さんは中段で上段にコックリさんが直立しサボテンと同様にポーズを決めてる。


「どうって言われましても、なんか…ブレーメンの音楽隊みたいです」


「仕方ないでしょ!私とコックリが土台になってごらんなさい。ただの虐待よ」


(想像すると見た目のインパクトすごい)


 ぼくは四つん這いで土台になる花子さんとコックリさんの上に直立する口裂け女を想像してしまった。


「それにしてもホントに嫌がらないんですね。ポーズまで決めてるし」


「それは私の躾の成果ね!ちなみに今のこいつはこんなこともしても怒らないわ」


 花子さんの上でポーズを決めてるコックリさんを宙に浮かべる。花子さんは口裂け女の背中の上であぐらをかきながらコックリさんを180度回転し逆さまにした。それでもなお油揚げを笑顔で食べ続ける。


「イジワル禁止ぃ!」


 いままで土台に徹してた口裂け女が立ち上がる。花子さんはなんとか着地。


「なによ!あんたが引き出せないこいつの可愛さを引き出そうとしてあげてるんじゃない」


「可哀想でしょ!」


「可哀想?顔を見なさいよ」


 相変わらず幸せそうに油揚げを食べ続ける。口裂け女はその顔を見て目尻が下がる。


「でもダメ!」


 奪い取るようにコックリさんを抱き寄せる。コックリさんは口裂け女の腕の中で油揚げを食べ終え指を舐めてる。


「はっ!なぜこんなことに!?」


 最後まで油揚げを堪能したコックリさんは我に返り、身をよじり口裂け女の腕の中からスポーンと抜け出す。


「帰る!」


 不機嫌そうに背を向けるコックリさん。


「待って~まだ質問してないよ~」


「……さっさとしてよね!」


 だいぶ寄り道したが、ようやくコックリさんの儀式の続きをするようだ。


 テレビ台の上に置いた儀式用の紙にぼくと口裂け女とコックリさんが集まる。ぼくと口裂け女は五円玉に指を置いた。


「質問は私に任せて♪」


 そう言って口裂け女はぼくにウィンク。


「コックリさん、コックリさん、抱っこさせてください」


 するとコックリさんはゆっくり五円玉に指を伸ばす。そして五円玉を動かした。指で!!


(これ、見えない人からしたら怪奇現象に見えるんだろうなぁ。でも、ぼく見えちゃってるんだよなぁ。シュールだなぁ)


 コックリさんへの質問の返答は『いいえ』だった。


「コックリさん、コックリさん、抱っこさせてください」


 五円玉を鳥居の絵の上に戻し間を置かず同じ質問。


 先程と同じようにコックリさんは五円玉を動かす。『い』『や』 返答は『いや』だった。


「コックリさん、コックリさん、抱っこさせてください」


 またもや間髪入れずに同じ質問。


 次は『た』『め』 『ため』だった。


「ため?」


 言葉の意味が理解出来ずぼくは思わず声が出た。


「は、花子!ペンある?」


「ん?その台の引き出しにあると思うわよ」


 コックリさんは引き出しを開けペンを見つけた。ペンを持ち儀式用の紙の右端に『゛』と『゜』を追加。コックリさんの顔を見ると顔が真っ赤だった。


(今のコックリさんを見たら口裂け女さんはデレデレが止まらないだろうなぁ)


 ぼくは口裂け女をチラッと見ると、ひたすら返答待ちで紙を凝視。


(なんか怖い…)


 ぼくは少し恐怖を感じたが、再びコックリさんは五円玉に指を置き動かす。『た』『゛』『め』 返答は『だめ』だった。


(そのために『゛』を追加したのか)


「コックリさん、コックリさん、抱っこさせてください」


 いつの間にか五円玉は鳥居の絵の上に戻され口裂け女は同じ質問をした。


(いつ終わるんだろう…)


 すると次は展開が変わった。五円玉…いや、コックリさんの様子がおかしい。五円玉に指を置き腕はぷるぷる震えている。必死に動かそうとしてるが動かないようだ。その理由はすぐにわかった。なぜなら五円玉は少しずつだが動いているのだ。『はい』へ向かって


「ちょっと力を入れないでよ!」


 コックリさんは口裂け女に注意。


「君も手伝って!」


 コックリさんはぼくに助けを求める。


「少年は私を手伝ってくれるよね?」


 普段から可愛らしい口裂け女だがヤバイ!目が据わってる。ぼくは無言でうつむく。謝罪の意味を込めて


 数秒後、五円玉は『はい』の上にあった。口裂け女は満面の笑みで膝の上にコックリさんを乗せる。


「わーたーしーはーえーらーいーんーだーぞー」


 膝の上で暴れるコックリさんを口裂け女はバックハグからの顔をスリスリ。だが、和やかな雰囲気に水を差すように廊下側のドアがバタンッと開く。

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