第10話 ぼくと花子さんとコックリさん
放課後、ぼくは旧校舎3階の女子トイレ前に居た。完全に習慣になっていた。ドアを開けると花子さんの他に先客が…
「やっほ~少年♪」
「口裂け女さん、来てたんですね」
相変わらず物騒な怪談とは正反対なくらい愛想がいい。
「こいつ、最低でも週に1回は来るわよ」
「花ちゃん、なんかトゲのある言い方しないでよ~」
口裂け女は花子さんに抱きつく。
「もう、いちいち抱きつくな!」
ぼくは2人のじゃれあいをぼーっと眺めてる。
「ふっ、羨ましいかしら?」
「いえ、そうじゃないです」
「じゃあ、なに見てんのよ?」
「ごめんね、少年。仲間ハズレにしちゃって」
口裂け女は四つん這いでぼくに近づき謝る。
「あんたはあんたであざといのよ!」
花子さんは口裂け女のお尻を叩く。
「ひゃん」
「それです!」
「なにがそれよ!あんた、そういう趣味なの!?」
「違いますってば!」
ぼくは咳払いをし、仕切り直す。
「幽霊同士だと触ったりできるんだなぁて思ったんですよ」
「やっぱり羨ましいんじゃない」
「しつこいです」
「はいはい、わかったわかった」
「気になったんですけど幽霊と妖怪だとどうなるんですか?」
ぼくは最近、あの有名な妖怪カッパと話をする機会があったのだが、その際に花子さんから妖怪の特性などを教わった。それは幽霊と同様に姿を消したりする能力とそれぞれ固有の能力を有しているなどだが、ぼくが気になったのは物理的接触が出来るという点だ。妖怪は幽霊に触れるのか、幽霊は妖怪に触れるのか。
「ちゃんと殴れるわよ」
花子さんはシャドーボクシングをしながら答えた。
「花ちゃん、殴る必要はないと思うよ」
シャドーボクシングをやめ座る。
「だいたい、あいつら妖怪はずるいのよ!物理的に物に触れる上に幽霊の私たちにも触れるのよ。それ以外にも私たちとほぼ同じことできるし」
「羨ましいんですか?」
「……あんた仕返しのつもり?」
「いえ……まぁそうですね」
「残念だったわね!私は幽霊としての誇りがある限り妖怪を羨ましいなんて思ったりしないわ!」
花子さんは立ち上がりぼくを見下ろす。
「おお」
隣の口裂け女は拍手をしている。
「あんたも私がライバルって認めてるんだから少しは幽霊としての誇りを持ちなさいよ」
花子さんは口裂け女を指差す。
「ええ、私はそういうの興味ないよ~。それに花ちゃんはライバルじゃなくて親友だも~ん」
花子さんに抱きつく。
「だぁぁぁ、あんたはまた………」
花子さんはぼくをチラッと見て
「羨ましいでしょ?」
「ソーデスネ」
面倒になり適当に答えた。
「そうだ!」
ぼくはポケットからスマホを取り出し、ある記事を検索。
「花子さん、こういうの見つけたんですけど…」
花子さんにスマホの画面を見せる。
「なによ…これ?あいつ、そんなに有名になってたわけ!!!」
その記事には日本で大ヒットしたホラー映画に出てくる幽霊が世界が尊敬する日本人に選ばれたという記事である。花子さんにとって知名度は戦闘力、いくらトイレの花子さんの怪談が有名といっても日本国内での話。世界が尊敬する日本人に選ばれたとなれば、言い換えれば世界デビュー。花子さんは自分が井の中の蛙であることを自覚することになった。
「花ちゃん、大丈夫?」
天を仰ぐ花子さんを心配する。
「なんなのよ…あいつ……前々から私の地位を揺るがすんじゃないかって警戒はしてたわ。映画のキャラクターだからって油断してた」
すると花子さんはポンッと手を叩きなにか閃いたようだ。
「そうよ!あれは映画!フィクションなのよ!でもって私はここにいる!実在する!だから私は負けてないわ」
自信を取り戻したようだ。
「そうだね!花ちゃんは日本一、ううん世界も取れるよ♪よっ!花ちゃん、サイコー♪」
「なによ?急にヨイショしだして気持ち悪い」
「気持ち悪いってひどい!」
「頼み事でもあるわけ?」
「えとね、コックリちゃんを…」
モジモジする口裂け女。
「またなの?それとモジモジすんな!気持ち悪い」
「気持ち悪いはやめてよ~」
「勝手にやんなさい」
花子さんはスカートのポケットから五円玉を取り出し口裂け女に投げる。口裂け女はうまくキャッチできず額でキャッチ。
「花ちゃんも手伝って!1人じゃできないよ~」
「あんた、一緒にやってあげなさい」
花子さんはぼくを見て言う。
「コックリさんを呼ぶつもりですよね」
「うん♪察しがいいね」
「危なくないですか?」
「大丈夫!ここにいる限りは花ちゃんが守ってくれるから。ね?」
「はいはい、大丈夫よ」
不安を拭いきれないが渋々コックリさんの儀式をすることに。
口裂け女は紙を持ってきた。紙には中心の上部に鳥居が描かれてあり、その左右に『はい』と『いいえ』と書いてある。その下にはひらがなの五十音と数字。
紙をカーペットの上に置き、五円玉を鳥居の絵の上に置き、五円玉に指を置く。
「なんかカーペットの上だと不安定ですね」
「花ちゃん、テレビの台使うね~」
「どうぞー」
ぼくはテレビをどかしテレビ台の上に紙を置き鳥居の絵の上に五円玉を置きぼくと口裂け女は五円玉の上に指を置いた。
「じゃあ、始めるよ」
「ちょっと待ってください!」
「どうしたの?少年?」
「なんで五円玉に触れるんですか?それにこの紙にも」
物理的な接触が出来ないはずの幽霊である口裂け女が五円玉を額キャッチしたり儀式用の紙を持って来たりと説明された幽霊の体質とは異なる事が起きている。
「あ~これはね、コックリちゃんが直接霊力を注いだ特注品なの♪」
「なんで、そんなものがあるんですか?」
「コックリちゃんは優しいから花ちゃんのために作ったの。いつでも花ちゃんの話相手になれるようにね」
「そうなんですか」
ぼくは花子さんに尋ねる。
「でも私以外に私的で使われてちゃ世話ないわよね」
花子さんは肩をすくめる。
「質問は終わり?」
「はい」
「じゃあ、いくよ」
「…はい」
ぼくは緊張気味に答えた。
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