第6話 ぼくと花子さんと口裂け女

 放課後……ぼくは旧校舎3階の女子トイレに居た。


(なんか、習慣になりつつあるなぁ。まぁやることないからいいや)


 花子さんも特に話題が無いのか宙を漂ってる。


「そうだ!花子さん、聞きたいことあるんですけど」


「なにかしら?」


「トイレの花子さんの正しいルールってなんですか?」


「なによそれ?」


 ぼくはスマホ取り出し操作する。


「えっと、花子さんの怪談を調べてたら、いろんなバリエーションがあったんですよ」


 スマホを見ながら喋り続ける。


「例えば手前の個室トイレから順にノックして3番目の個室で現れるとか、3番目の個室トイレに3回ノックすると現れるとか他にもいろいろあるんですよ」


「ふぅん、ヒマな時も私のことを考えてたんだぁ」


「あーはい、そうです。花子さんのことを考えてました」


 ぼくはめんどくさそうに答える。


「せっかく本人が居るんだから知りたいのは当然よねぇ いいわ、教えてあげる」


 ゴクリッ


 ぼくは唾を呑んだ。


「そんなものはない!!」


 断言した。


「へ?」


「だから、ないのよ。そんなの」


「こんなに有名な怪談なのにですか?」


「むしろ有名だからでしょ、伝言ゲームの要領で伝わっていく内にうまく伝わらなかったり話を盛ったりする人がいたりとかで、いろんなパターンの怪談が広まったのよ」


「でも、どの怪談でも3階の女子トイレの3番目の個室トイレってのはほぼ共通してますよね」


「私の過去の話はしたわよね?あの時、はじめて私を目撃した子が入ったのが一番奥、つまり3番目の個室だったのよ。それにいろいろ尾ひれがついていったってわけね」


「へぇ」


「ていうか、あんたと出会った時はなにもしなくても登場したじゃない」


「あ、そうでした!」


「ぶっちゃけ、3番目の個室じゃなくても出てきてあげるわよ」


「でも、律儀に3番目の個室から出てくるんですね」


 花子さんは少し考えると


「そうねぇ、例えるなら芸能人みたいなもんよ」


「芸能人ですか」


「そう、あの人達ってイメージってもんがあるじゃない?清楚キャラとか毒舌キャラとかクズキャラとか、でも実際はテレビでのイメージを守るために演じてる人が多いと思うのよ!なぜだと思う?」


「それは、そのキャラだから人気があるからですか?」


「そうよ!キャラクター性、個性が重要なのよ!だから私は私の怪談を演じてるってわけ。結構いるわよ、自分の怪談のイメージを守ろうとするヤツ、怪談を自分の仕事だと思ってるヤツとかもね」


「怪談なしにしても花子さんの見た目は花子さんだってわかりますよ」


「あんた、褒めるの上手いわね」


「いや褒めたわけじゃないです」


「花ちゃ~ん、最近の子供ひどいんだよぉ 私のこと『ブス』だって~」


 滅多に人が来ないこの女子トイレに女性の声が。女性は廊下からトイレに入って来た。


「よかったじゃない」


 女性が呼んだ『花ちゃ~ん』とは花子さんのようだ。


「よくないよ~」


 長い黒髪で赤いコートを着た女性は花子さんに泣きついた。ぼくはその女性から目が離せなかった。


「あんた、もしかしてこいつに見惚れちゃった?」


 その視線に気づいた花子さんはからかうような口調で言った。


「いえ、そうじゃないです」


 からかおうとする花子さんに空返事。それでも女性から目が離せない。いや顔から…もっと細かく言うなら口から、その口にはマスクが


「あれ?君は新しい花ちゃんのお友だち?」


 女性はぼくに気づき問いかける。


「う~~ん、どうなんでしょ?」


「花ちゃんのお喋り相手ができたの久しぶりだね♪」


「まぁね、それにこいつ霊感あるから楽に会話できるのよ」


「花ちゃんのお気に入りってわけだ♪」


「そんなんじゃないわよ……べつに」


「うんうん♪」


 女子トークが目の前で繰り広げられてるが、やはりぼくは女性のマスクをした口から目が離せなかった。


「こいつ、あんたに質問したいみたいよ」


 なかなか会話に入れないぼくを見て花子さんは助け船を出す。


「なにかな少年?」


 女性はしゃがんでぼくに目線の高さを合わせる。


「花子さんの知り合いでそのマスクって、もしかして…」


「少年は賢いねぇ」


 女性の言葉からしてぼくの予想は当たってるようだ。トイレの花子さんにも負けないくらい有名な怪談の主……

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