第5話 ぼくと花子さんと首なしライダー②

 バイクで登場した人物はヘルメットを被りツナギを着た男性だった。男性はヘルメットを被ったまま女子トイレに入って来た。


「あの、はじめまし……」


 挨拶をしようとしたが男性はぼくの横を素通りし花子さんが破壊した物の片付けを始める。


「この人がさっきの電話相手ですか?」


 男性に話しかける雰囲気ではなくなったので花子さんに質問する。


「ええそうよ、私が呼んだらすぐ来るヤツ」


 カランカランと音を立て男性が被ってたヘルメットが落ちる。だが男性は集中しすぎて気づかない。


「あ、落ちましたよ」


「いいのよ、それ飾りだから。だって、そいつ…」


 ぼくはヘルメットを拾い顔を上げると


「頭が無いんだから」


 花子さんの言葉通り頭が無い、首から上が無い。ぼくは念のためヘルメットの中を確認。空っぽだった。


「こいつはその見た目から首なしライダーって呼ばれてるわ」


「へぇ」


「反応薄いわね」


「腕だけのなにかを見た後ですし」


 首なしライダーは2人には目もくれず黙々と作業する。気づけば片付けの段階は終わり床の修繕に取りかかってた。なにをしてるかわからないが廊下に工具や資材を取りに何度もトイレと廊下を往復してる。


 ぼくは廊下に出た。廊下には修繕に必要な資材が3列で並べられてる。首なしライダーは手前1列目の一番右の資材を運んで行った。また資材を取りに戻って来ると次も手前1列目の一番右の資材を運んで行った。


(もしかして)


 ぼくは手前1列目の一番右の資材を手に取りトイレ内で作業する首なしライダーのもとへ。首なしライダーが手を止め立ち上がるタイミングを見計らい


「これですか?」


 ぼくは持っていた資材を首なしライダーに差し出す。首なしライダーは親指を立て、その拳を突き出しグッドサイン。


(やっぱりだ!手前の列の右から順に使っていくんだ)


 ぼくは廊下へ戻り資材を取りに行き自然と手伝っていた。役割ができた事でぼくは活き活きしてる。その光景を腕組みしながら見ている花子さん。


(なにかしら、このモヤモヤした気持ちは……)


 そうこうしている内にトイレは元のキレイなトイレに戻った。

首なしライダーは頭が無いのに額の汗を拭う仕草をする。


「お疲れ様です」


 ぼくの言葉に首なしライダーは手のひらを向ける。ぼくはその手にハイタッチ。


「元のキレイなトイレに戻りましたよ!花子さん!すごいなぁ、首なしライダーさん」


 興奮気味に話す。その顔は笑顔だ。


「なによ!その顔!いままでそんな顔しなかったじゃない!」


「いままでって…ぼくと花子さんの付き合いって今日で2日目ですよ?」


「それにしてもよ、あの笑顔……私だってドキドキする様なすごいことしたつもりなのに……ゴニョゴニョ」


「なにか言いました?」


「なんでもないわよ!あんたも仕事が終わったなら帰りなさい!」


 花子さんに指を差された首なしライダーはビクッとなる。


「ひどいですよ、花子さん。トイレを直してもらったのに…それに、ちゃんと紹介してください」


「ふん…わかったわよ。こいつは首なしライダーって呼ばれてるけど正体はデュラハンよ。これでいい?」


「それは聞きましたよ………て?え?デュラハン!?」


 ぼくは首なしライダーの方を見た。首なしライダーは頷く。そして花子さんの方へ視線を戻す。


「なぁに?知りたいの?」


 マウントを取るための材料を手に入れた花子さんはニヤニヤとぼくを見る。


『花子さんの言う通り、俺はデュラハンなんだ』


 突然、ぼくと花子さんの間に入ってきたのは首なしライダー……ではなくスマホだった。


「いまの声って」


『あ、うん。スマホに入力した文字を音声に変換できるんだ』


「でも、その声って」


 ぼくが困惑するのもムリもない。その声は可愛らしい少女の声なのだから。


『ちがうちがう!この声の元になったのは別の人物だから俺の声ってわけじゃないんだ。あ、でもスマホは俺が組み上げたんだよ。花子さんのも』


「スマホを自分で!すごいですね!」


 尊敬の視線を首なしライダーに向ける。


「もう!なによ!せっかく私のターンが来たと思ったのに!」


 花子さんは悔しそうに空中でジタバタ。


「そうだ♪こいつの情けない話を聞かせてあげる♪」


「花子さん……」


「まぁ、聞きなさい」


 呆れるぼくを気にも留めず話を続ける。


「あんたはデュラハンに関してどれだけ知識がある?」


「え~と、首なしの騎士ってくらいしか」


「じゃあ、こいつを見てなんか足りないと思わない?」


「んーー、あ!馬じゃなくてバイク!」


「それもあるわね。ほかには?」


 花子さんは幽霊パワーを使って首なしライダーのヘルメットをぼくの目の前へ。


「頭が無い!」


「そうなのよ!こいつは頭を無くした上に愛馬に見捨てられたポンコツデュラハンなのよ」


 ぼくは首なしライダーを見るとスマホを向け画面には『……シュン↓↓』と書いてあった。その直後にスマホの音声で


『……シュンシタヤジルシシタヤジルシ』


 頭を無くした事や愛馬に見捨てられた事も残念だが『↓↓』を『シタヤジルシシタヤジルシ』と変換された事も残念さに拍車がかかる。


「落ち込まないでください。頭が無くても馬がいなくてもトイレを直したりスマホを組み立てたりすごいですよ!尊敬します!」


『そう言ってくれると嬉しいよ』


「もしかして廊下に停めてるバイクも自分でですか?」


『そう!そうなんだよ!俺の唯一の癒しでもあるんだ!』


「ぼく、てっきり馬がバイクに変身してるのかと思いましたよ」


『ははは、だったらよかったんだけど…』


「どうしました?」


『少年は俺たちが普通の人に姿を見えるようにしたり姿を消したり出来ることは知ってる?』


「はい。でも、ぼく霊感あるみたいで消えてても見えちゃうんですけど」


『そうなんだ、俺のバイクは廃材とかで作ったから普通の人にも見えるんだよ』


 ぼくの霊感体質は軽くスルー。


「じゃあぼくが乗ることも?」


『うん、乗れるよ。俺ね、ツーリングが趣味なんだけど姿を消したまま走るとバイクだけが走ってて大騒ぎになるんだ。だからバイクに乗るときは常に見える状態にしてるから疲れるんだよね』


「花子さんも似たようなこと言ってましたね。どういう疲れなんですか?」


「そうね、あの疲れは説明が難しいわね。生きてた時には感じたことないわね」


「そうですか……」


「な~に~?仲間はずれになったみたいでさみちぃのかなぁ?」


 花子さんはしょんぼりするぼくをからかう。


『花子さんやめなよ』


「ふん!あんたは知らなくていいのよ!あんたは生きてるんだから」


 後半の言葉はどこか優しさを感じる。


『花子さん……ウルウル』


 表情で感情を表現出来ない首なしライダーなりの表現らしい。


「う、うっさいわね!いいかげん帰んないとバイク解体するわよ!」


 偶然なのかわざとなのか花子さんはぼくに背を向けてしまったため、どんな顔をしてたのかはわからなかった。


『バイクは勘弁してよー』


 そんなひどいことはしないとわかっているのか首なしライダーは慌てることなくバイクへ。


『じゃあ、少年また会おう!』


「はい!」


 バイクは走り出し首なしライダーはトイレすぐ隣の階段を通り過ぎ廊下の突き当たりの壁に姿を消した。


「花子さん!首なしライダーさん壁に消えちゃいました」


 実体があるはずのバイクも壁に消えたことに不思議がる。


「旧校舎の出入りがしやすいように廊下もいじってあるのよ。毎回堂々とグラウンド突っ切ってたら正体バレなくても騒ぎになるでしょ」


「ホントにすごいなぁ、便器や床だけでもすごいのに」


「あんた、気づいてないのかしら?ここにある全部あいつが作ったのよ」


 ぼくは昨日、このトイレに来た時のことを思い出す。男子トイレとの差、トイレのドアを開けた時の異様な光景、その謎が解けてトリハダが立ち感動した。


「ほんっっっとにすごいですね!」


 目を大きく見開きその感動を顔全体で表現する。


「はいはい、感動したのはわかったわよ。暑苦しい」


「花子さんはちゃんと感謝しないとダメです!」


「ちゃんと感謝してるわよ。私をなんだと思ってるのよ」


「感謝してるようには見えませんけど」


 疑いの目を花子さんに向ける。


(あんな陰鬱な空間をこんなに居心地よくしてくれたんだもの。感謝しきれないわよ)



【おまけ】


「ねぇ結局、昨日のあれはなんだったんだろう」


「知るかよ!それを確かめに行くんじゃねーか」


 取り巻きの質問を高圧的に返すのはガキ大将。


 2人はグラウンドで話している。グラウンドといっても端っこである。そして2人の目の前には旧校舎へと続く階段があるのだが、足取りが重いようだ。


 旧校舎に行くにはグラウンドから以外に新校舎から伸びる渡り廊下からも往き来できる。むしろ新校舎の渡り廊下からの方が往き来しやすいのだが2人はわざわざグラウンド側から旧校舎へ目指すようだ。階段は旧校舎の正面にあり上る時は旧校舎の圧倒的な雰囲気に足がすくむ人が多い。


「おら!行くぞ」


「なんでボクが先にぃ」


「うっせぇ、さっさと行け!」


 背中を押され取り巻きは嫌々前を進む。


「あ~れ~」


「ん?なんだろう?」


 遠くから聞こえる“なにか”の声に気づいた取り巻きが見上げると“なにか”が取り巻きの顔を目掛けて飛んできて顔に張り付いた。


「ふう、うまく着地できた」


 “なにか”は腕の姿をしていた。取り巻きの顔を鷲掴みする形で着地したようだ。


「ひぃぃ」


「おい!止まんじゃねぇよ!」


 ガキ大将は前を歩かせてた取り巻きの様子がわからず背中を小突く。取り巻きは無言で方向転換。全速力で走り出す。


「おい!どうした?逃げんじゃねー」


 ガキ大将の言葉が耳に届かなかったのか、それとも余裕がないのか走り続ける取り巻き。ガキ大将は状況が理解できないままその後を追いかける。


「おお!少年、元気だねー。ちなみに赤い紙と青い紙どっちがいい?」


 窮鼠猫を噛むという言葉がある。取り巻きは余程追い詰められていたのだろう。走りながら顔に張り付いた“なにか”を掴み地面に叩きつけた。


「へヴぇ」


 取り巻きを追いかけていたガキ大将は地面に叩きつけられた“なにか”に気づく。


「なんだよ!これ?うわああぁぁぁ」


 ガキ大将はスピードを上げ取り巻きと共に逃げた。



≪次回予告≫


 「あたし、きれい?」 彼女のセリフはあまりにも有名だ 彼女の顔は特徴的だ 彼女の有名なセリフを聞いたら誰もが彼女の顔を見てしまうだろう 彼女の服が記憶に残ってる人はいるだろうか? 彼女が褒めてほしいのはファッションなのかもしれない 彼女は誰よりもオシャレ好きなのかもしれない 彼女に遭ったら伝えてみたら? きれいです……と

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