第4話 ぼくと花子さんと首なしライダー


 いま、ぼくは旧校舎の階段を上ってる。昨日、とある人に放課後は旧校舎3階の女子トイレに来るようにと言われたからだ。


 ぼくは2階と3階の間の踊り場で立ち止まり少し考える。


(どうしよう…強制ではない感じだけど、行かない理由がないんだよなぁ。雑談がしたいって言ってたっけ、旧校舎ってこともあって近寄る人も少ないだろうし寂しいのかな。悪い人じゃないみたいだし……まぁいいか!)


 ぼくは考えるのを止め再び3階へ歩みを進める。3階に着き女子トイレ前で深呼吸。


「約束通りに来ましたよ」


 女子トイレのドアを開けると花子さんの姿は入ってすぐ右側にあるテレビの前にあった。床に寝転がりながらテレビを見ていた花子さんは慌てて立ち上がる。


「な、なによ!来るなら来るって連絡しなさいよ」


 心なしか嬉しそう。


「花子さんの連絡先知りませんし」


「それもそうね、あんた!スマホの番号教えなさい!」


(昨日の今日であんた呼び……昨日、名前を教えたと思うんだけど忘れたのかな?)


 ぼくは多少気にしつつもポケットからスマホを取り出し花子さんにスマホの画面を見せる。


「これです」


「ちょっと待ってて」


 そう言うと幽霊パワーでテレビ台の引き出しを開けると中からスマホが出てきた。


「えーと、ぜろきゅうぜろの………」


 花子さんはぼくのスマホと自分のスマホを交互に見て入力する。


「はい!電話帳登録完了よ」


 そう言うとスマホをテレビ台の引き出しに戻す。


「あの、ぼくに電話かけないんですか?」


「なんでわざわざ目の前に居るヤツに電話するのよ?」


 花子さんの言う事はもっともだ。だが


「これだと、ぼくは花子さんの番号を知らないままなんですけど……」


 ニヤリと花子さんは笑う。


「そうね、どうしても私のスマホの番号知りたいなら教えてあげてもいいわよぉ?」


「どうしても知りたいわけじゃないからいいです」


「なんですぐ諦めるのよ!もう少し私を楽しませなさいよ!」


 理不尽に不満をぶつける。


「だって絶対めんどうな流れになりそうでしたし」


「出会って2日目でこんな態度とるヤツはあんたが初めてよ」


「その言葉そのまま返します」


「……まぁいいわ、私はここから出られないんだから、ここに来たらいつでも話できるでしょ。だから私の番号をいま知っておく必要はないってこと。必要な時に電話するから、その時にでも登録しなさい」


「でも、登録した番号がちゃんと合ってるか確認もしといた方が……」


「この私が番号を間違えて登録してるって言うの?」


「なんですか?その自信は」


 話は平行線のまま。


「……わかりました。花子さんが電話してきた時に登録します。寂しくてどうしてもぼくと話したくなった時には電話してください」


 ぼくの些細な反撃。


「残念だけど私が寂しいと思う事はないわ!」


「そうですか。それじゃあ雑談もしましたしぼくは帰りますね」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 慌ててぼくを引き止める。


「なんですか?」


「もう少しここに居なさいよ」


「えーーー」


 ぼくは嫌がる。


「そうだ!冷蔵庫にジュースがあるわよ。好きなの飲みなさい」


 小学生にとってジュースの誘惑は魅力的だ。ぼくも例外ではなかった。


「仕方ないですね」


 冷蔵庫を開けると炭酸や紅茶やスポーツドリンクなどの缶ジュースが数本置いてあり、その他にタッパーが置いてある。気になったぼくはタッパーを取り出す。


「これってなんですか?中身は油揚げかな?」


 花子さんに尋ねる。


「ん?ああ、たまにめんどくさくなった時に使うのよ」


「何に使うんです?」


「………気になるならこれから先もここに来ることね」


 今は教える気はないようだ。


「はいはい、わかりました」


 タッパーを冷蔵庫に戻しぼくは炭酸を手に取り冷蔵庫を閉め花子さんのもとへ。


「それで、あんたはなにしに来たの?」


「……やっぱ帰ります」


「ジョーダンよ、ジョーダン!」


「はぁ」


「ほら、座って座って」


「だから、トイレの床は……」


 ぼくはトイレ床には座りたくない事を伝えようとしたが昨日とは少し床の雰囲気が違う事に気づく。


「あれ?カーペット?」


 テレビの周辺にはカーペットが敷いてある。昨日は無かった物だ。


「ええ!昨日、急いで調達したわ!まぁ、もてなす側としては当然よ」


「ぼくのために?」


「か、勘違いしないでよね!今後、あんたみたいなのが来た時めんどうだからよ!間違ってもあんたのためじゃないんだから!」


「気になったんですけど、どうやってカーペットを調達したんですか?花子さんトイレから出られないじゃないですか」


 ツンデレセリフをスルーし疑問をぶつける。


「あー、まぁ私にもいろいろコネがあんのよ。人徳ってやつよ!」


「その人徳があれば、わざわざぼくを雑談相手にする必要ないんじゃないですか?」


「あんた、言うわねぇ。でも私に会いに来るやつ結構いるのよ。呼んだら来るやつ、頻繁に来るやつ、気まぐれで来るやつ様々ね」


「へぇ」


 ぼくは半信半疑。


「そうだ!昨日は会ったばかりだったし、まだ聞き足りないことあるんじゃない?遠慮なく聞きなさい」


「んー」


 考える。


「そうだ!昨日はちゃんと見れなかったのでちゃんと見たいです!」


「なにを見る気よ!!!」


 花子さんは咄嗟にスカートを抑える。


「便器です」


「あ・ん・た・ねー、主語を言いなさいよ!」


 花子さんは人差し指でぼくの額を小突くような仕草をする。


「いいわ、見なさい」


 ぼくは個室トイレを覗き込む。


「ここも他と同じで最新の設備なんですね」


「当然よ!私のトイレなんだから!」


「音声案内もあるんですね!」


「もちろん………え?そんなの無いわよ。流水音ならあるけど」


「え?でも聞こえますよ」


 ぼくと花子さんは耳を澄ませる。すると聞こえてきた。


(赤い紙、青い紙どっちがいい?)


「ほら!聞こえましたよ」


「あいつぅぅぅ」


 花子さんは急に幽霊パワーを使いぼくを個室から追い出した。


「花子さん!?」


「こんのぉぉお!!」


 困惑するぼくの目の前で便器は木っ端微塵に破壊された。


「諦めてって…言ったでしょ?」


 花子さんはなにかを捕まえたようだ。その“なにか”は右腕の姿をしている。


「それってなにかの体の一部ですか?」


「体の一部じゃないわ。赤紙青紙って言って、この腕が本体よ」


「や、やぁ久しぶりだね。花子さん」


 口らしき部位は見当たらないが言葉を発した。


「なにが久しぶりよ!私のナワバリなんだから諦めなさいって言ったわよね?」


 花子さんは赤紙青紙の手首を握りさらに強く握る。


「は、花子さん、くルしィ……首を絞めないで」


(首…手首が首なんだ)


「ふぅん、そこが首ならここらへんが目かしら?」


 花子さんは赤紙青紙の手のひらを指でなぞる。


「ヒイィィィ、もう来ない来ないからー」


「あんた、廊下の窓を開けてきて」


 ぼくは指示通り廊下の窓を開けた。


「これでいいですか?」


「ありがと。そして、あんたは二度と来るんじゃないわよ!」


 花子さんは廊下の窓に赤紙青紙を投げた。


「あ~れ~」


 ものすごい勢いで赤紙青紙は飛んでいった。見かけによらず花子さんは豪腕なのだ。いや、恐らく幽霊パワーだろう。


「ちょっとやり過ぎじゃないですか?」


「あいつ、何度も私のトイレを汚していくのよ!許せないでしょ!」


(花子さんにも非があるような気がする)


 見事に粉砕された便器を見てぼくはそう思った。


「これどうするんですか?せっかくの自慢のトイレなんですよね?」


「どうってことないわよ。」


 花子さんは幽霊パワーを使いテレビ台の引き出しの中にあるスマホを取り出し操作する。誰かに電話をかけてるようだ。


「あんた、今すぐ来なさい。便器1つ…いえ2つかしら、床のタイルに個室の壁は全部ね」


 通話は終了したようだ。


「だれに電話したんですか?」


「電話の相手?すぐ来るわよ」


 すると廊下側からブロロロと音が聞こえてきた。その音は次第にこちらに近づいていき女子トイレの前にバイクに乗った人物が現れた。音はバイクのエンジン音だったようだ。

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