兄さんの部屋の匂いが染み付いてるモノが欲しいみたいだよ

竜田川高架線

クソデカ鮫さんぬいぐるみの処理に困っている。

 処分に困っている。

 勢いで買ったは良いが、結局はベッドの上で萎れるこのクソデカ鮫さんぬいぐるみの処理に困っている。

 以前、同じように買ったクソデカ熊さんは妹の友達が貰ってくれたが……今回もとは言い難い。

 

「おう! オナってんのか!?」

 

 と言って唐突に扉を蹴り開けたのは妹である。こいつはいかにもデリカシーがない。

 隣には、妹のクラスメイトの女子も居る。

 うるせえ、帰れ、出ていけ、と一蹴するも完全無視。ズカズカと部屋の中に入り込んで「これこれ」とクソデカ鮫さんをボフボフし始めた。

 

「なんだよ。欲しいなら持ってけよ」

「私は要らないけど、この子が欲しいってさ」

「ああ、うん、持っていきなよ」

 

 そして、2人は嵐のように去っていった。

 

 妹のクラスメートが帰宅していった後の夕飯時、ふと妹に聞いてみた。

「そういや、あの子、前にも熊さん貰ってくれたけど……ぬいぐるみとか好きなのか?」

「んや? そういうわけじゃないよ」

「じゃあどうして」

「兄さんの部屋の匂いが染み付いてるモノが欲しいみたいだよ」

「いや、どういうことだよ。別にいい匂いなんかしないだろう」

「んー? 秘密ー。自分で確かめなよ」

「はあ?」

 

 確かめるも何も、確かめようが無い。

 深く考えても仕方がないので、あまり気にしないでおこう。

 

 後日。学校から帰る途中に妹から連絡があった。

『わけあってクラスメートを家に泊めることになりもうした。しかしながら愚妹は野暮用があり暫く不在に致す。つきましてはクラスメートの接待のほどよろしくお願いする所存』

 いや急だなしかし。

 家に客人が居るとなれば、夕飯のことを考え直さなくては。いや、妹が帰ってきたら、小遣いを渡して適当に外に食べさせに行っても良いか。

 そこは追々考えるとして。

 

 ひとまず家に帰り着き、何にも考えず、自室の扉を開いた。

 

 すると、そこにいた。不審者……ではなく、妹のクラスメートが。ベッドの上で、掛け布団に包まりながら、枕を抱きしめている、あられもない姿のその子が。

 

「あ……」

「え……」

「あ……お、お邪魔……してます……」

「あ、うん、えっと、何してるの、そこで……」

「……秘密です……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兄さんの部屋の匂いが染み付いてるモノが欲しいみたいだよ 竜田川高架線 @koukasen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ