☆ちょめちょめ☆
放課後になる。
今日もいつものように教室でだらーんと居座る。
けれど、心の中は穏やかではなかった。
心臓がバクバクで今にも張り裂けそうになる。
このまま爆散して私はちりちりになってしまうかもしれない。
と、冗談ではなく本気で思った。
「放課後だね」
「うん、放課後だね」
「暇だね」
「うん、暇だね」
「なにしよっか」
「うん、なにしようね」
「今日は静かだね」
「うん、今日は静かだね」
「しんみりしちゃうね」
「うん、しちゃうね」
気持ちの良いリズムで唯華は答えてくれる。
そしてくすくすと笑う。
寄り道すれば、この妙な緊張感も落ち着くなぁと思ったのだけれど、そう甘くはなかった。
時間が解決してくれるわけじゃないらしい。
こうなったらもうしょうがない。
さっさとしてしまおうと思う。
時間をかけたところでなにも変わらない。
どうせキスはすることになるんだし、それならさっさと済ませてこの心労を減らすべきだ。
そうだ。
それが良い。
ガッと音を立てて立ち上がる。
唯華はビクッと体を震わせた。
「どうした」
「……」
「怒った?」
「ううん、怒ってない」
「そっか」
机に手を置きながら、不思議そうに私のことを見つめる。
しばらく、ジーッと私の瞳を凝視する。
顔を突き出して、見つめている。
警戒心の欠片もない。
これってもしかしてチャンスなのでは。
唇を奪うチャンスなのでは。
絶対にそうだ。
「唯華」
名前を呼んだ。
そして、顔を唯華の元へと近付けて、唇に唇を重ねる。
深く考えることをやめた。
思考放棄とでもなんでも言えば良い。
あながち間違ってもいないし。
心の中に足りなかったものがゆっくりと満たされていく。
世間一般的にはこういうのを幸せと言うのだろうなぁなんてことを考える。
唇を離す。
舌を入れる勇気はなかったのだけれど、唇を重ねることはできた。
「な……」
唯華は目をぱちくりとさせる。
そして私のことを見つめる。
凝視だ。
ジーっと見つめ、手も足も口も動かさない。
茫然としているという感じである。
動揺よりも茫然の方がしっくりくる。
ハッと我に返ったような感じで口を大きく開けた。
そしてそっと唇に手を持ってくる。
唇を指で撫でて、指の腹を見つめた。
と思えば、今度は私のことを見つめる。
こちらに目線を向けているはずなのに、なぜが目が合わない。
目線は私の唇へと向けられている。
「え」
唇から目を逸らし、今度こそしっかりと目を合わせる。
唯華からは困惑が感じられた。
「なんでキスしたの」
「なんでって……」
試しに、とは言えないし。
かと言って、キスしたかったからと嘘を吐けば私が変態扱いされてしまう。
まぁ、嘘ではないのだけれど。
嘘じゃないからこそ、変態扱いされるのは心に来る。
「唯華がして欲しそうな顔していたから?」
それっぽいことを言ってみる。
行動原理を考えてみれば、嘘を言っているわけでもない。
我ながら上手いこと言ったなぁと感心する。
「え、嘘……」
唯華は驚きの表情を見せる。
そして頬を紅潮させた。
ふぅとこちらにもわかるような溜息を洩らすと、頬をつまんで揉む。
むにもにと揉んで、押して、引っ張る。
「してた?」
「してたよ」
「キスしたがってた?」
「したがっていたね」
して欲しそうな顔をしていたが正解なのだけれど、まぁ細かいことはどうだって良いだろう。
「本当に?」
「本当」
「そっかぁ」
唯華は机から降りる。
そして、困ったように笑う。
頬を指で撫でるように触って、はにかむ。
どことなくぎこちなさを感じるような笑い方である。
「したくなかった?」
今回の根幹になる部分を問う。
さっきまで死ぬんじゃないかってくらい緊張していたのに、今は名残すらない。
キスを拒絶されなかったという安心感か、はたまたキスによる満足感か、唯華の焦りを見て冷静になってしまっているだけか。
どれかわからない……。
どれもありえるのかもしれないし、ありえないのかもしれない。
「キス」
私は促すように問う。
唯華は俯いて、私を見てから、教室の天井を見上げる。
「したかった……」
唯華はぽつりと呟く。
さっき頬を赤らめていたのに、それ以上に顔を赤らめる。
アルコールでも体内に入れてしまったのかなってくらい顔は真っ赤だ。
お酒とか私たちは飲まないし、法律的に飲めないのだが。
とにかく、こんな唯華を私は見たことがない。
見たことはなくて、新鮮だ。
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