☆一人反省会☆
唯華と別れ、暗い自宅へ到着する。
「ただいまー」
と声を出しても返事はない。
仮に「おかえり」という一言があったとしても、まぁ、困っちゃうんだけれど。
だって両親は不在だから。
それなのに声が聞こえてくるって、幻聴か、ストーカーか。
なににしろ安心なんてできやしない。
あ、ちなみに放置されているとか、仲違いしているとか、険悪だとかそういうことではない。
両親との関係は至って良好。
むしろその辺の親子よりも仲は良いんじゃないかと本気で思っている。
両親のことは好きだ。
私のことを気にかけてくれるし、遠く離れていても私のことを考えてくれる。
家に居ないのは両親は海外赴任中なだけ。
一年という期間海外に行っている。
大きなプロジェクトがあるとかなんとかで家を留守にしているのだ。
私は家に取り残された。
というか、残ることを自ら選択した。
一年間だけ海外に行って、三年生になって日本に戻って来たって不都合だらけだし。
これが小学生とか、中学生なら話は大きく変わるのだろうけれど、私は高校生だ。
身の回りの世話くらい自分でできる。
一年だけなら尚のこと。
なにかあっても、月岡家に助けを乞えばどうにかなる。
その結果がこの現状となる。
電気を点けたりすることなく、私は自分の部屋へと向かう。
自分の部屋にやってきたら早速、一人反省会を始める。
私は勇気が出せなかった。
唯華に中途半端なことをしてしまった。
あそこまで踏み出しておいて、足を引いてしまうのならば、最初からなにもしない方が良かったな、と思う。
本当は「同性の恋愛ってありだと思う?」と聞くつもりだった。
唯華の考え方を一度理解し、把握もし、その上で私の今後の行動を決めよう。
そう思っていたのだ。
だからそのための一歩を踏み出したのだけれど。
真逆の方向に突き進めてしまった。
勇気がなくて、拒否されるのが怖くて、私の方から否定してしまった。
耐えられなくて「人間の本能的に考えたらさ、おかしいよねぇ」と言ってしまったのだ。
これじゃあ、もうどうしようもない。
私はとんでもない臆病者だなぁと嘲笑さえしてしまう。
それに唯華の意見をどれだけ都合良く捉えたとしても、同性愛に対して肯定的である……という風には捉えられない。
余計なことはしない方が良いよ。
今までの関係を維持するためにすべて否定して、見て見ぬふりをするべきだという神のお告げなのかもしれない。
実際問題、神のお告げとか抜きにしても、余計なことをしないに越したことはないかなぁと思う。
なにもしなければ進展することはないが、同時に後退することもないのだ。
私にとって大事なのはなにか。
関係を進展させることなのか。
いいや、そうではない。
同性愛に肯定的な意見を持っていない唯華が相手である以上、関係を進展させることはそもそも不可能なのだ。
であるならば、関係を後退させない努力をするべきである。
とするのならば、なにもしない。
臆病で逃げのような選択に見えるかもしれないが、私はこれが唯一の正解であるた考える。
それはそれとして、少しだけ不思議に思うこともある。唯華の反応だ。
どこか残念がるような反応を見せていた。
私がそう思っていて欲しいと思っているから、そう見えただけなのかもしれないけれど。
けれど、やっぱりこうやって振り返ってみても、唯華はどことなく寂しそうな反応をしていたなぁと感じる。
ただ唯華は同性愛に対して肯定的な意見を持っていないらしい。
同性カップルを普通じゃないと言っていたから。
肯定的な意見を持つ人のする発言ではない。
じゃあ、なぜあのタイミングで虚無感のある反応を見せたのか。
たまたま。そう考えることもできなくはないけれど……。
いいや、無理だなぁ。
こうやってあれこれ考えていると一つの答えに辿り着く。
その答えは若干、私にとって都合の良い答えかもしれないけれど、たまたまあの表情をしていた……というよりは可能性があるんじゃないかと思う。
明日試してみよう。
そんな結論を出して、一人反省会を終えた。
閉廷、解散。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます