第42話 街の違和感 その2
エイラムはロウコウに向かって言い放つ。ロウコウは不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
「さっきも言っただろう。ただの年老いた老人じゃよ」
「ただの老人にしてはバチバチに殺意を飛ばしてくれるじゃないか」
「ほっほっほ、バレてしまったかの」
「ずっと付け回してたのはお前だろ爺さん」
「ほぉ、やはり気がついておったか。流石はフェレン聖騎士というところかのぉ」
ロウコウはそう言って笑う。その笑顔には余裕があった。エイラムはその態度に苛立ちを覚える。ずっこけているアリシアを一瞥したあと視線をロウコウへ戻した。
「アリシア、このジイさんは魔族だ。それも相当強い」
エイラムの言葉にアリシアは驚きつつも武器を構え、エイラムに並ぶ。それにロウコウは持っていた杖を地面にコンと叩いた瞬間、杖が変形していき、一本の細身の剣になる。
それを手に持ち構えると静かに構えた。熟練の、いや、鍛え上げられた戦士のような静かな構えだ。どこにも隙がなく、それでいて力強さを感じる。エイラムも同じように剣を構えた。しかしロウコウと違いこちらは構えからわかるほど力が入っていない。リラックスしているようだ。
「ほう……これは驚いたわい。お主は剣士なのか?」
「さぁな。まぁ、どうでもいいことだろう? それよりも、どうして俺らを付けていたのか答えてもらおうか!」
エイラムはロウコウに向かって叫ぶように言うとロウコウはニヤッとした表情を浮かべる。そして手に持っている剣をクルっと回転させたあと構え直す。
「ほっほっほ! そんなもの決まっておろうて! 我らが至高なるお方の邪魔をする人間どもを排除しに来たんじゃよ!」
「至高なるお方……なるほど。それで俺たちを始末しに来たってわけか」
「その通りじゃ」
「なら捜す手間が省けたぜ……。ジイさん、その至高なるお方とやらが誰なのかを言え。そうしたら楽に死なせてやる」
「ほっほっほ、それは出来ん相談じゃのう」
ロウコウはそう言いながらゆっくりとエイラムたちに近づく。
「わしらが仕えるのは唯一無二、あの御方だけじゃ」
「それだけ忠誠を誓うってことは、誰なのか大体の想像がつく」
「……ふむ、そういうことにしておくかの。だが、あまり詮はしない方が身のためじゃぞ? 下手なことを口にすれば……」
ロウコウはそこまで口にすると一気に間合いを詰めてくる。そして素早い動きで剣を振るった。エイラムは剣で防ぐ。火花が散り、金属音が鳴り響く。
(――――くそ、はえぇ)
エイラムはロウコウの剣刃を目視できなかった。それよりも早く、それでいて重い一撃だった。まるで空気の壁を突き破ってくるような感覚に襲われる。一瞬でも反応が遅れれば確実に首が落ちていただろう。
振り上げの一撃のあと、ロウコウはすぐに切り返し、上から振り下ろす。エイラムはそれをなんとか受け止めるが勢いまでは殺しきれず後ろへ吹き飛ぶ。アリシアがそれを見てすぐにフォローに入り、横薙ぎの一閃を放った。
しかしロウコウは後ろへとバク転しながら回避し、着地と同時に再び距離を縮めようと走る。アリシアは左手を突き出す。
「ぬ?」
『―――ライトニング―――』
詠唱短縮による魔法を唱える。アリシアの手から放たれたのは電撃を帯びた雷球だ。ロウコウはそれを見ると足を止めて横に避ける。避けながらも手に持った剣を振り上げた。アリシアは咄嵯の判断で別の魔法を唱えた。
『―――マジック・シールド―――』
アリシアの左手の前に薄い光の膜のようなものが現れ盾の形となった。そこにロウコウの斬撃がぶつかり、弾かれる。衝撃の余波が周囲に広がり地面を揺らした。
「ほう、面白いことをするのう」
ロウコウは感心するように言った。その表情からは余裕があるように見える。その側面からエイラムが剣を振り下ろす。ロウコウはそれに気づき、後ろに下がる。虚空を切り裂く音だけがした。エイラムの一撃がよけられ、隙ができたところをロウコウは狙おうとするとそこにすかさず、アリシアが魔法を唱える。
『――ファイア・ボール―――』
今度は炎の玉だ。しかしロウコウはその攻撃を右手に持つ細身の剣で斬り裂いた。二つに分かれた火の玉は左右に飛んでいく。ロウコウの背後にある立木に当たり、燃え上がる。それにロウコウは振り返り、燃え上がる木に向かって、手を向けた。
『――アイスストーム――』
氷柱のように鋭い風がロウコウから放たれる。それは木々を次々と倒していき、やがて炎も消してしまった。それにエイラムは違和感を覚えた。燃え上がる木をわざわざ消火したのだ。しかも敵を前にして、それをそっちのけにだ。エイラムはその行動に疑問を抱きつつも攻撃を仕掛ける。
「はぁあああ!!」
エイラムは叫び声を上げながら突きを放つ。ロウコウは冷静な顔つきでエイラムを見据える。そして剣を突き出してきたエイラムの剣を自分の剣で滑らせるように受け流すと反撃しようとした。それを許さないとエイラムの背後から隠れるように近づいていたアリシアが横にずれて、下から上へ剣を振る。ロウコウは一瞬驚いた様子だったが、剣を弾き返したあと、バックステップで距離を取った。
「やれやれ、面倒な二人じゃな」
「どうだ。俺たちの連携技は?」
「見事じゃ。しかしまだまだ青い。一撃一撃が軽いのう」
「……ちっ、言うじゃないか爺さん!」
エイラムはそう言うと走り出し、ロウコウに向かって剣を振ろうとする。しかしロウコウは落ち着いた表情のまま剣を構えず、ただ立っているだけだ。エイラムが近づくにつれ、ロウコウの表情がどんどん変わっていき、そしてニヤりと笑う。剣が触れる寸前のところで、体を横にして、紙一重でかわす。カチンと石畳みの地面に当たる音が響いた。ロウコウが剣を振り上げる。エイラムは魔法を唱えた。
『――マジック・シールド―――』
エイラムの前に薄い光の膜のような盾が現れる。ロウコウの攻撃を防いだ。そのままエイラムは前転して、距離を取り、アリシアが連続の突き攻撃を繰り出した。
「お主らにわしは倒せぬ。諦めよ」
ロウコウはそう言いながら、アリシアの攻撃をすべて避けていく。
そしてアリシアの懐に入ると掌底を打ち込んだ。アリシアは後方に吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「ぐぅ!?」
「アリシア?!!」
エイラムが叫ぶ。アリシアは起き上がり、剣を構える。
「ほっほっほ、若いのう。だが、これで終わりじゃ」
ロウコウは左手の指を鳴らす。すると右手に持っている剣の分身があらわて、二刀流になった。
「なんだ……それは……?」
「これがわしの能力の幻影術の一つ。『幻影剣』幻を作り出すことができるんじゃよ」
ロウコウは笑いながら答える。その能力を聞いたエイラムとアリシアの顔には焦りの色が出ていた。ロウコウは右手を前に左手を上にして、腰を低くして構えた。その構え方、そして、幻影術を使う魔物について、エイラムは心当たりがあった。
それはフェレン聖騎士教会の古い書物の中に載っていたものだ。
「お前、魔王軍の将軍の一人、ロウコウか」
「ふむ、知っておったのか」
「あぁ、知っているとも。お前は有名だからな。特に勇者殺しのロウコウといえば、俺でも聞いたことがあるぜ……」
エイラムはそう言いながら顔を引きつらせていた。
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