第38話 ソリアの街 その2
エイラムとアリシアは二人並んで街中を歩いていた。ソリアの街に入って、最初に出会った気さくな女性に宿屋を尋ね、オススメの店が近くにあるだという。教えられた通り、曲がり角を右へと曲がった。すると視線の先にオレンジ色の屋根の木造建築が見えた。看板にはブローニング亭と書かれている。
「確かに曲がってすぐだな」
「そのようですね」
探すのに苦労するかと思いきや、すぐに見つかったことに少し驚いてしまう。どこから賑やかな声が聞こえてきた。そこへと視線を向ける。どうやら、市場が近くにあるようで、中央にある噴水に囲うように出店が並んでいる。そして、多くの買い物客が買い物をしているようだった。子供が走り回り、笑い声がする。噴水の近くに備えられているベンチには老人が腰を下ろし、居眠りをしていた。一見、よく見かける平和な街の様子だったが、エイラムは少し違和感を覚えた。エイラムは小声でアリシアに耳打ちする。
「ソリアの街についてだが、住民の数はどれくらいなんだ?」
「えっと、そうですね……」
その問いにアリシアは慌てることなく、懐から手帳を取り出し、パラパラとページをめくった。付箋がそこに貼られており、メモしたことを確認しているようだった。アリシアの手帳にはソリアの街の成り立ちや歴史、そして、特産品や主な産業などが書かれている。
「えっと、ここはロレッス男爵が最初の統治者として、街を納め、それからアンジュ子爵へと代替わりしていますね。ロレッス男爵の評判はあまりよくなく、それに比べてアンジュ子爵は住民の声をしっかりと聞き入れてくれる方で、住民からの評判は良かったようです。ただ、反帝国主義を掲げたことにより、街の経済は悪化。さらには王都より派遣された代官を斬りつけたとか」
それを聞いて、エイラムは呆れてしまった。そりゃあ、代官を斬りつければ、帝国から目をつけられるのも当たり前だし、反乱者と思われるのも無理はない。
「俺が聞きたいのはそれじゃない。ここの人口だ」
「あ、失礼しましたー。えっと人口は約千人程ですね」
「うむ。千人か。それにしては住民が住むための住居が少なすぎる気がするな。その割に年齢比率も、若者が多いような気がする」
そういわれてみれば、とアリシアが手帳から視線を上げて、周囲を見渡した。
(――――おかしい……)
何かが引っ掛かる。しかし、それが何なのか分からない。すれ違う住民たちの顔をひとりひとり見ながら、思考する。今はとにかく、情報が欲しい。そう考えたエイラムは人が集まる場所である酒場兼宿屋のブローニング亭に入店することにした。ドアを開けるとカランコロンという鈴の音が鳴る。店内はカウンター席と四人掛けのテーブルが三つ並べられていた。どこか、こじんまりとしている。
時間帯的にはまだ昼前なので、お客はいないようだ。店員もいなさそうな雰囲気で、勝手に入って良いのかと思ったが、奥の部屋から大きな体躯の男がノソノソとした足取りで出てきた。身長百九十センチを超える大男だ。口元には髭を生やし、スキンヘッドの頭にはバンダナを巻き付けている。服装は薄汚れたシャツを着ており、ズボンも丈があっていない。
「……らっしゃい」
男はぶっきらぼうな態度で言う。それになんとも思わなないエイラムたちは礼儀正しく、挨拶をして、適当なテーブルに座った。大男はカウンターで何かの作業をしているようで、チラリと見え上げたあと視線を手元に戻した。
「ここじゃあ、見かけねぇ顔だなあんた」
大男の質問に対して、アリシアが答えた。
「私たちはあてのない旅をしているんです。疲れたなーっと思ったらちょうど、この街が目に留まったんで寄ってみました」
その言葉に大男は「そうか」と短く答えた。アリシアの言葉遣いが丁寧だったので、怪しまれなかったようだ。エイラムも続くように言う。
「この土地についてはまだ全くわからないんだけど、よかったら教えてくれないか?」
そう尋ねると、大男は顔を上げた。
「何が聞きたい?」
そう言って、顎をしゃくる。どうやら話を聞く気はあるらしい。エイラムは早速、情報を得るために会話することにした。まずは自己紹介からとエイラムとアリシアは名前を明かした。とくに当たり障りのない名前だ。気になることもなく、大男は自分の名を告げた。
大男の名はオドという。年齢は30後半らしく、オド自身も最近になって、この街に移り住んだようで、街のことはあまり詳しくないという。 店も数日前にオープンさせたばかりだそうだ。どうりで、店内がまだ真新しいものばかりだ。テーブルの木目もきれいで触るとツルツルと滑らかで粗がない。そして、新築特有のヒノキの匂いが店内を包んでいた。オドの店は宿屋も兼ねており、一階は食堂、二階は宿泊部屋となっているそうだ。
「もしかして、最初のお客だったりしますか??」
アリシアが興味津々といった様子で聞いた。その問いにオドは首を振る。
「あーやったー!私が初めてのお客なんてすごく感度です!嬉しいです!!」
アリシアは両手を上げて喜んだ。その姿を見て、エイラムは思わず苦笑いする。すると、アリシアが思い出したようにハッとして、すぐに恥ずかしそうにして、頬を赤く染めながら椅子に座り直す。アリシアのテンションについていけない。すると店の奥から小さな足音が聞こえ、女の子が出てきた。ピンクのワンピースに身を包み、背中まで伸ばした茶髪がとても可愛らしい。
「あぁ~お客さん~だ~いらっしゃ~い~♪」
少女は大きな声を出しながら、元気よく駆け寄ってくる。最初、エイラムのところへと行ったがプイッと顔を背け、アリシアの元へといった。
「え? 何今の?」
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