第39話 ソリアの街 その3
エイラムが呆気に取られていると、アリシアは困った表情を浮かべていた。そして、アリシアのことが気にったのか、膝の上に乗っかってきた。それに反応して、アリシアは優しく頭を撫でてあげる。
「えへへ」
「ちょーかわいい~」
どうやら、この子が店の看板娘でユイという名前らしい。話を聞くと親は流行り病で死んでしまったそうだ。死んだ親の代わりにオドが育ての親として、引き取ったらしく、ユイにとっては実の父親のような存在なのだとか。顔が似てない理由はそういうことだった。
(―――強面の顔をして、意外にいいやつじゃんか)
とオドを見ながら心の中で思いつつ、エイラムはとりあえず、何か頼みたいと思ったのでメニュー表がないか探す。するとユイはアリシアの膝の上から飛び降りるとメニュー表を取って来て、渡してくれた。そこには軽食からデザート、飲み物に至るまで幅広く書かれており、その数は数十種類にも及ぶ。どれも美味しそうなのだが、エイラムはフェレン聖騎士として、街の調査をするために派遣されている身だ。くつろいでいる場合ではない。それに無駄遣いはできない。しかし、小腹がすいてしまったので、ここは一番安いサンドイッチを頼むことにした。
アリシアは数分間、悩みに悩んだ結果、同じものを頼むことになった。ビールを頼もうとしたので、そこは却下。あくまでも職務中だぞ、と目で、無言の圧力をかける。オドは「少し待て」と言って、厨房へと向かっていった。背中かが見えなくなったあたりから、奥の方で、料理をする音が聞こえてくる。包丁で何かを切っているのか。何をしているのかは見えないが、エイラムは店の奥へと視線を送ったあと、アリシアを見る。サンドイッチが来るのを楽しみにしているような顔をしていた。
椅子に座っているアリシアは足をブラブラとさせながら、頼んだサンドイッチがまだかと待っている。しばらくしてから、お待ちかねのサンドイッチを持ってオドが出てきた。
「ほら、当店自慢の一品だ」
そう言って出されたのは、焼いて焦げ目がついた四角いパンに野菜と肉などの具材を挟んでいた。そして、頼んでもいないのに目玉焼き一つとソーセージ3つずつ添えられていた。
「これは頼んではいないんだが?」
エイラムが指さして、そういうとオドは鼻で笑ったあと言う。
「そいつは俺様からのサービスだ」
「サービス?」
エイラムは眉を寄せる。
「おぉ! よっ、大将ッ! 太っ腹~」
その言葉を聞いて、アリシアは嬉しそうな声を上げた。それを聞いたオドは照れくさそうにしていた。
「お父さんはとっても優しいんだよぉー!」
ユイが自慢のお父さんだ、と言わんばかりに胸を張っていた。
アリシアがまずは一口、サンドイッチを頬張る。すると、満面な笑顔を浮かべた。
どうやら美味しかったようだ。それを見ていたオドは満足した様子だった。
その後、エイラムも同じようにサンドイッチを食べてみた。食べてみると、確かにとても美味しいものだった。ただ挟んでいるだけのものではなく、しっかりと味付けされており、絶妙のバランスであった。あっという間にサンドイッチを食べ終えてしまった。
食べ終わった後、本題に入ろうとしたその時だった。また新しい来客がやってきた。振り向くとそこには見たことのある顔ぶれが二人。一人は赤髪ロングヘアに、茶色の瞳の女性、もう一人は白髪のガタイのいい茶色髪、オールバックの男が立っていた。
二人は立派な剣をぶら下げている。見てすぐにわかる。それが対魔物専用の銀の剣だと。現れた二人は先客に気が付くと驚いたような目をしたあと、慌てて駆け寄ると頭を下げた。
「エイラム殿!! お久しぶりです!」
「君たちは確か……」
「自分たちはフェレン聖騎士団第三十部隊の騎士長マーガレットと副官のギリオンであります」
エイラムはマーガレットという名前に聞き覚えがあった。赤髪のマーガレット。それはフェレン聖騎士団の中で、有名な女性騎士の名前である。数々の難事件を解決に導いたことで彼女は英雄扱いされていた。その彼女の隣にいる男にも見覚えがある。 ギリオン。彼はマーガレットの副官として同じく、多くの問題を解決する手助けをしていた。彼もまた優秀な騎士として有名だ。そんな二人がどうしてここに? その疑問にアリシアが尋ねる。
「なぜここにマーガレットさんたちの部隊が?」
それに対して、マーガレットはオドへ視線を向けた。何か伺っているような感じがした。マーガレットは妙に作り笑いする。ギリオンも口を紡いでいた。まるで余計なことを言わないように。
エイラムの目が細まる。何かオドと関係があるのではないかと。マーガレットが答える。
「我々第三十部隊はこの街に魔物が出現したという報告が入りましたので、調査の為にやってまいりました」
フェレン聖騎士団は今や巨大な組織となっている。魔物に対しては即応部隊が派遣され、その対処に当たることになっている。即応部隊は少数の部隊から構成されており、精鋭の中の精鋭で個の能力は並みの騎士団では到底真似できないものだと言われている。マーガレット部隊の管轄地域だったのか、とここで思い出した。
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