二、善'

「おー、コウじゃんか。久しいね」


校門近くで、大陽先輩は一目で不良とわかる男たちと話していた。


「ウチ学校の女子ねらっても、コウたちにはつまらんと思うよ。万引き一つしたことのない、する必要もなかったような嬢ちゃんばかりだし」

「それがいいんじゃないッスカ。バカ女に飽きたんスよ、オレたち」

「ヤるまで2年はかかるよ、コウには長すぎるだろ?」


コウと呼ばれる男は黄色いガタガタの歯を見せて「はっ」と笑った。


「頭いい女って、どんな喘ぎ方すんの? x、y、zとか数式言う感じっスか?」

「馬鹿だな……コウは。口もと隠して声を殺すんだよ、賢い女の子は」

「うえー、つまんねぇ」


その後、少し笑い合うと不良たちは帰っていった。


「おお、善'。そこにいたのか。悪いな、待たせて」

「いえ、一緒に帰りたいって言ったのはおれですから」


おれと大陽先輩はすぐに仲良くなった。大枠でいえば不良、あまり素行の良くない生徒に括られているから一緒にいて心地がよかった。不良とはいっても、進学校で許される範囲の、それこそ、高校デビューレベルだから可愛いものだと思うけれど。


「アイツら中学が同じでね。となりの己龍高校でよくウチの女子たちにちょっかいだそうとしてくるんだよ」

「大陽先輩が守ってるんですか?」

「守るは大げさだよ。別に助けを求められてるわけじゃないしね。ただ、なんとなく、つまらないことが起こらないように……。俺の単なるわがままだよ」


のんびりとした口調で、そう言っていたけれど、たぶん、大陽先輩はこうしてずっとこの学校を守って来たのだと思う。


「おれはいいんですか?」

「……なにが?」

「おれも女子にちょっかい出すかも」


大陽先輩は撫でるというよりも、揉むような手つきでおれの頭をワシャワシャと触った。


「善'はかわいいことを言うね」

「カッコイイことも言いますよ」

「聞かせておくれよ」


先輩はピタリと足を止めて、例のごとく、おれの目を見つめた。何も思いつかない。


「ん?」


大陽先輩の視線がおれの位置まで下がり、顔が近づく。


「うわぁ」


おれが仰け反ると大陽先輩は「なはは」と力を込めずに笑った。


「……ちゅうでもされるかと思いましたよ」

「今度してやるよ」


大陽先輩はたまに、嘘だか本当だかわからない声色で、とんでもないことを言う。


「されたら舌、噛みちぎります」

「舌入れる想像までしてたの?」


大陽先輩のふくらはぎをおれは思いきり蹴飛ばした。






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