ちがう、おなじひみつ

サカモト

ちがう、おなじひみつ

 ことの起因は、交際するふたりの誕生日が、同日であったことに、ほかならない。 ふたりとも、生まれは冬の日だった。

 彼女。

 彼女は、思った。今日は、自分であり、かつ、交際している彼の誕生日。

 しかし、彼はこのところ仕事が異様に忙しく、誕生日である今日もまた、帰宅は深夜になる可能性が大だという。

 対して、彼の方も事前に彼女から聞いていた、彼女の方も今日は、用事があり夜は忙しく、余裕がない。そこで両者の間で取り決めが締結された。誕生日は、同じ日なので、翌日へずらして、祝うシステムに、切り替えようと。

 二人は、互いに一人暮らしであり、鍵を渡し合い、家を行き来する間柄のステージであった。

 しかし、彼女は目論んでいた。サプライズ、この横文字を、実行することを。

 そこで彼女は、プレゼントおよび、ケーキを用意して、彼の家で、待機した。むろん、彼には、無通達。

 夜、彼女は彼の家の居間に鎮座し、明かりも消して、音も絶ち、彼の帰宅を待った

 そして、彼。

 同日、同時刻、彼の方は、彼女の部屋にいた。プレゼントおよび、ケーキを用意して、彼の家で、待機していた。

 むろん、彼女には、無通達。

 サプライズだった。

 ふたりは似ていた。ゆえに、似たような計画をたて、そして互いに待ち合う。サプライズを、爆ぜさせるために。

 しかし、両者ともに、いくら待っても相手が帰ってこない。無理もなかった。どちらも、互いの自宅に待機している。明かりを消し、息をひそめつつ。

 そのうち、外界では雪が降り始めた。瞬く間に積もり出す。

 すると、彼女の待機する彼の家の窓の向こうで、気配がした。窓をあけると、そこに赤い首輪をつけた白い猫がいた、猫はそのまま、するりと家の中へ入り込む。

 この部屋は賃貸であり、動物を連れ込むことは、御法度である。しかも、彼の家だった。しかし、彼女は、猫の震えに憐れを覚え、追い出すことができない。

 同じころ、彼がいる彼女の部屋の窓の向こうで、気配がした。窓をあけると、青い首輪をつけた白い猫がいた。猫は、そのままするりと家の中へ入り込む。そして、部屋の中で、ぶるぶると震えていた。ここは彼女の家であり、賃貸でだった。ペットを飼うのは禁止されている。ましてや、しかし、彼は、あまりに猫の寒そうな様子を目にし、追い出すことができない。

 こうして、互いに猫とともに、一晩があけた。雪は夜の間、案外積もることもなく、朝から快晴だった。

 彼女が光に誘われ、窓をあけると猫は、すぽん、と外へ出ていった。

 彼が光に誘われ、窓をあけると猫は、すぽん、と外へ出ていった。

 ニュースによれば、昨夜は雪の影響で、電車がとまっていた。それで、お互い、相手が家へ帰ってこなかったのは、そのせいだろうと思いつつ、帰り支度をする。部屋に落ちた猫の白い毛も掃除した。

 しかし、部屋には掃除しきれない白い猫の毛が残っていた。

 だが、お互い部屋に戻って、白い毛をみつけても、自分の衣服に付着していたものとしか、考えなかった。

 そして、その日、ふたりは一日ズレの誕生日を祝った。

 相手の部屋へ猫を入れたことは、お互い、秘密にしたものの、生涯バレることはなかった。

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