もすぽぽふ、またはとある秘密の連鎖
いおにあ
秘密
「もすぽぽふ」のことは秘密。いやこう表現するべきか。秘密事項は「もすぽぽふ」。単なる言い換えではない。
「『もすぽぽふ』のことは秘密」という文章は、もすぽぽふという存在があることを前提にして、そのことは秘密だといっている。一方「秘密事項は『もすぽぽふ』」という文章だと、「もすぽぽふ」とはなんなのか、それは個物なのか事象なのか、それとも観念なのか、そもそも存在するのかしないのか、一切が秘密にされている。
さて、肝心の「もすぽぽふ」とは何だろうか。私は、このことを去る友人から聞いた。その友人もまた、その友人から聞いて・・・・・・という風に、数珠つなぎに噂が回り回って、私の所までやってきたのだ。
おっと、話が逸れてしまった。あなたが知りたいのは「もすぽぽふ」がいかなる存在(あるいは非存在)なのか 、だろう。
私の友人に寄れば「もすぽぽふ」とはこの宇宙にあまねく存在する、神のごとき存在だという。厳密には、我々人類の言語では表現が不可能なほど高度な存在なので、もっとも適当な単語が「神」ぐらいなのだそう。だが「神」と直裁に表現してしまうと、色々と誤解が生じてしまうので「もすぽぽふ」という胡乱な単語に落ち着いているのだという。
ここで私のもう一人の友人Bにご登場願おう。新たに友人が出てきたので、先程の「もすぽぽふ=神」論者の友人はAとしておこう。
で、友人Bの語るところによると「もすぽぽふ」とは、単なる都市伝説的なキャラクターだという。とある小さな会社が創り出したが、大して売れることもなく終わったキャラ。だが、その後じわじわとカルト的に、静かに人気が再燃して、今に至るという。
絵の得意な友人Bは、ノートに鉛筆で「もすぽぽふ」を描いてくれた。熊と猫を足し合わせたような、丸っこい、よくある可愛いキャラクター。これが、もすぽぽふなのかと妙に納得してしまった。
しかしながら、友人Cは「もすぽぽふ」について、まったく異なった見解を述べた。
しょうもない陰謀論だと、一笑に付すだろうか。それでも構わないと思う。さすがにこの説は信憑性が低いと感じる。だが、敢えて信じるというのも否定はしない。そもそも「もすぽぽふ」についての公式な見解も、確固たる研究も、何もない状態なのだ。絶対に違う、とは言い切れないだろう。
最後に友人Dの説について。Dによると「もすぽぽふ」とは、私たち人間自身の中にあるもう一人の自分のことらしい。私たちの表面意識には、決して出てこないもうひとりの自分。だが、心の奥底に確かに存在していて、私たちのすべてを観察してただじっと記録している。いわば、私たちの秘密をすべて知る者。だからこそ、私たちが「もすぽぽふ」についての情報を伝達するとき、こっそりとなにかの秘密を打ち明けるような口調になるのだ。
この説には一定の説得力があるように思える。というのも「もすぽぽふ」について語るとき、私の友人たちはAもBもCもDも、皆ひっそりと小声で話してきたからだ。まるで、人に聞かれたくない秘密を語り聞かせるように。
最後に、私の見解を述べて終わりにしよう。「もすぽぽふ」とは、「秘密」という概念そのものなのではないだろうか。目に見えない神秘的な存在、都市伝説的な人の口から口へと伝えられ変容していく噂話、この世界を裏で動かすという陰謀論、私たちの心の奥底、或いはそれ以外のあらゆる秘密。それら一切合切をひっくるめたのが「もすぽぽふ」なのではないか。
もちろん、他の意見があっても構わない。いずれにせよ、私はこの私なりの見解をひっそりと秘密裏に伝えたい。そして、あなたなりの「もすぽぽふ」論を、これまた誰かにこっそりと教えてくれたら嬉しい。ひょっとしたら「もすぽぽふ」とは、こうやって皆が自分なりの考えを伝えていくその過程のことを呼び示すのかもしれない。
さあ、あなたも一緒にこの「もすぽぽふ」の輪に加わろう。
もすぽぽふ、またはとある秘密の連鎖 いおにあ @hantarei
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