なろうへの投稿を、息子にカミングアウトした話

古森 遊

いつ、話そうか。

 いきなりカクヨムでこんな質問、失礼いたします。


 『ネトコン』をご存知でしょうか。


 数年前までは、なろうコンと呼んでいたような気もしますが、要するに『小説家になろう』という投稿サイトで行われる最大規模のコンテスト、言わばなろう版カクヨムコンみたいなものです。


 私は、そのネトコンに、毎年複数作品で応募してきました。下手な鉄砲も数撃ちゃ、という感じですね。

 そして、去年は運良くそのうちの一発が当たりました。流れ弾とも言うべき、エッセイでの一次選考通過。本命作品は他にあったのですが、まあ、ここでは割愛いたします。


 さて、私が書いたエッセイは、リアルな親子のやり取りにちょっと親としての思い入れを加えたもの。

 正直なところ、一次通過するとは全く考えていなかったので、割とストレートに息子(当時大学生)への想いを、恥ずかしげもなく綴っておりました。

 ちょっと照れくさーな内容だけど、息子本人に読まれるはずはない。何しろ、うちの息子は若干パリピ風味な若者です。あの金髪が、まさかなろうで小説をちまちまとブクマしたりしてるとは思えません。

 まず大丈夫なはず(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)そんな油断から書いたエッセイでした。


 ともあれ、数多くの一次通過作品の中では、地味なつぶやきエッセイです。そのうちニ次選考の結果が出ればサラッと流れてしまうはず。一次通過したあとも、私はそんな気持ちでいました。


 けれど、 息子のおかげで書いたエッセイは、思わぬ出会いを私に運んでくれたのです。

 

 まず、エッセイでのネトコン一次通過は珍しかったらしく、それ自体をエッセイ化してくだっている方が現れました(感謝!)

 そして、私の書いたエッセイが、一次通過作品の中で最少文字数だったと載せて下さった方も(感激!)


 結果的には、ニ次選考は通過出来ませんでした。

 でも、あのエッセイのおかげで、新たなお知り合いが増え、新たな作品との出会いがあり、とても楽しい時間を過ごすことが出来たのです。



 そして、この年末年始、そのエッセイのネタ元となった息子が、何も知らず帰省して来ました。


 私は、今回のエッセイが一次通過してから、そのことを息子に話すかどうか、ずっと悩んでいました。

 だって、やはり息子とのやり取りがなければ、あのエッセイは書けなかった。

 当然、一次通過することも無かったでしょう。そこから広がった楽しい時間も。


 その楽しさを息子に話したい気もする。


 でも、もし話して

「ええ〜っ、俺とのやり取り書いたの!?」とか

「……個人情報保護法って知ってる?」

 とか

「え、その年でファンタジー小説とか、本気?」

 などと突っ込まれたら、(メンタル的に)致命傷になりそうな気もして躊躇してました。


 言うべきか、

 言わざるべきか。


 内心悶々としながら、年越しそばをすすっていた時に、向かいに座る息子が急に話しだしました。



『金が無いってことは大変だよね。

 その中で、ここまで大きくしてもらえたってことは、ありがたいことだと思う』


 要約してる風ですが、ほぼ原文ままです。  いきなりの語りにちょっと戸惑いつつ、相槌を打ちながら、私は数年前のことを思い出していました。




 我が家では、息子が進学する時、経済的な事情でどうしても近隣の国公立大学以外には行かせてやれない状況にありました。

 そんなわけで、進路については親子で揉めに揉めました。夢と希望と無茶な願望を振り回す息子と、ひたすら現実だけを並べる私と。

 実際は、センター試験前のわずかな期間だったと思うのですが、すごく長く感じた数週間でした。

 結果的に息子は近隣の国立大学を受験し、そこに進学を決め「二度と戻るか!」って感じの捨て台詞を吐いて家から出ていきました。




 その大学の卒業を控え、就職先も決まり、この先の人生を考えた時に、ふと親に伝えておきたくなったのかもしれません。


 私の作った年越しそばの、つゆまで飲みきってから、息子は続けました。


『大学に入って、一人暮らしをして得た一番の財産は、親のありがたみがわかったこと』


(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)


 泣かすなよ、問題児だったくせに。


 あの、高校時代に黒歴史を量産していた、反抗期真っ盛りの息子と、本当に同一人物か?!なーんて、おちゃらける『古森 遊』と別に、感動して泣いてしまいそうな、素の自分がいました。



 春からの息子の 就職先は、車で四〜五時間ほどかかる、近隣とは言えない地域です。学生時代と違って、これからはそうそう身軽に帰っては来られないでしょう。


 彼の人生の、ひとつの大きな分岐点。


 それを目前にして、あらためて親への感謝を言葉にしてくれたのだと思いました。


 これは、私からも息子へ感謝の言葉を告げるべきだろうか?


 頭の中で様々な想いがぐるぐるとしました。


『良い子に育ってくれてありがとう』?


 いやあ、なんか違う気がする。


 そういうキャラじゃない、お互いに。


 だから、そこでネトコンの話をしました。 嬉しい想いに押されて、ポロッと出てきました。


「小説家になろうって知ってる?」


「ああ、なんか聞いたことある」


「あそこでさーコンテストみたいなのがあってさー、けっこうたくさん集まるんだけど、お前とのラインのやり取りをエッセイにしたやつが一次通過したんだ」


「へー、すごいじゃん!」


「エッセイはすごく少ない通過数だったんで、注目集めちゃってさー(すみません、盛ってます) 」


「へーっ!」


「しかも最少文字数での通過作品とか、調べてくれる人がいて、またちょっとだけ話題になっちゃったりしてさー (すみません、息子の手前、かなり盛ってます) 」


「えへへ〜、すごいじゃんか!」


「まあ、でも一次通過だけだったんだけどね」


「それでもすごいじゃん!」


 ちょっと残念な小ボケネタみたいに語ったけれど、一緒に喜んでもらえて、内心はすごく嬉しかった。


 だって、息子と積み上げてきた親子の時間が、あのエッセイを生んだのは、間違いないから。



 ちなみに、一昨年一次通過した長編にも、息子がモデルになったキャラが登場してます。

 そちらは黒歴史量産時代の息子へのストレス解消が主な目的だったので、色々辛い目にあってもらいました(笑)



 年越しそばを食べながら、他にも親として嬉しい言葉を贈られたのですが、それはまだ、私の胸の中にしまっておきたいと思います。


 それこそ、『秘密』


 はい。息子へのカミングアウトも、お題の回収も無事に済みましたね。ホッと胸をなでおろしつつ、このエッセイのことはいつ話そう。


 いつか、話せるかな――



 カクヨムコンのおかげで、楽しみがまたひとつ増えました。



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