第6話 リハーサル(転)
マ「そんなときは僕に任せなはれ。ええ氷があるんや。夏になるとホテルのロビーなんかで、よう氷の彫刻が飾ってあるやろ」
シ「氷の彫刻? ああ、よう、白鳥なんかを氷で作ってるやつやな」
マ「そうや。君、知らんやろけど、あの氷は硬いんやで。硬い氷はすぐに溶けへんねん。それで、ホテルのロビーに何日も飾ることが出来るわけや。君、あの氷を作らんかい!」
シ「へ~。そうなんか。で、あの氷、どないして作んねん?」
マ「ええか、よう聞いときや。あの作り方はな、まず水をゆっくり凍らせるんや。そうすると、氷ができてへんところに不純物が集まる。そしたら、その不純物を含んだ水を捨てて、新しい水を入れてまたゆっくり凍らせるんや。これを繰り返したらええねん。2リットルの水やったら、冷蔵庫に入れて、だいたい2日で氷になるで。その氷には不純物が一切ないわけや。すると、氷がものすごく硬くなるんや」
シ「えっ、そんなんで、硬い氷が出来んのんかいな」
マ「そうや、出来るんや。これで、硬い氷の出来上がりや」
シ「なんや。マナブ君。今日だけは、君、えらい賢いんやな」
マ「今日だけちゃうわ。いつも、賢いわ」
シ「そんなら、それでできた氷を削ったらちゃんと凶器ができるがな。その凶器で備品倉庫に呼び出したA子を背中からズブリとやる(マナブの背中に突き刺すふり)」
マ「(背中に手を当てて)うわ~。やられた~」
シ「これでお前も終わりじゃあ~。うらみ、思い知ったかあ~」
マ「おい、おい、待たんかい。君、血はどないすんねん?」
シ「えっ、血?」
マ「そや、血が飛び散るやろ。シタイ君の服に血がついとったら、いっぺんで君が犯人やて分かるがな」
シ「A子は冷血な人間や。血なんてあらへんわ」
マ「人間に血が無いちゅうことがあるかい」
シ「ほんなら、魚屋さんが使うゴムの前かけがあるやろ。あれを着とくんや」
マ「周りはどうすんのや? 周りにも血が飛び散るやろ。その血が、君の服についてしまうがな」
シ「周りはビニールシートを掛けとくんや」
マ「不自然やなあ。ほな、何かい。A子が君に呼び出されて備品倉庫に行ったら、周りにビニールシートが掛けてあって、ゴムの前掛けをしたシタイ君がおるんかい。そんなん、不自然やろ。いくらなんでも、そら、A子は警戒すんで」
シ「あかんか?・・・そや、魚屋でA子を刺すちゅうのんはどうや? それやったら、ゴムの前掛けをしてても自然やで。魚屋はいつも周りに水を撒いてるから、血が飛んでも水で流したらしまいや。それに、あんた、魚屋やったら、氷がいっぱいあるがな」
マ「君の会社は魚屋か。どないして勤務中にA子を魚屋に呼び出すんや」
シ「いっしょに魚をさばかへんかと言うて」
マ「そんなアホな。なんで、仕事ちゅうに魚をさばくねん」
シ「あかんか?・・・ほな、どないしたらええねん」
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