第44話 一人芝居

【冬香side】


 転生者、多すぎ !

 今川幕府、何それ美味しいの !?

 吉良大和先輩が、吉良きら上野介こうずのすけ義央よしひさの転生者。

 それも中身が女性だって、ド底辺作者、盛り過ぎでしょう !

 その他の生徒会メンバーも平行世界からの転生者だった。


 そんなことを、愚痴りながら兄さんと一緒に家に向かった。

 兄さんは何も言わずに黙って私の愚痴に付き合ってくれている。

 普通なら反論したり相槌をして口を挟むのだろうけど、私が兄さんに意見を求めない限りは余計な事は話すつもりが無いのだろう。


 だからこそ、油断していた。

 私の愚痴を黙って聞いて追いて来ていると思っていた兄さんは、いつの間にか消え失せていた。


「嘘、兄さん居るんでしょう……本当は、何処かに隠れているんでしょう ?

 今直ぐに出て来たら怒りませんから、出て来てくださいよ、兄さん !」


 しかし、兄さんが出て来るどころか、何の物音さえもしなかった……と云う冗談は、ここまでにしよう。

 なにしろ、転生してから前世の趣味だったミュージカルの鑑賞が出来ていないのだから……


 どうせ、兄さんのことだから帰り道の途中で、可愛いコでも見つけて夢中に成っているのでしょうね。

 ほっとくと、可愛いコの後を追いかけてしまうのですから。



 ◇◇◇


 もと来た道を戻ると道の端でしゃがんでいる兄さんを発見しました。

 兄さんの後ろから、ソッと覗き込むと兄さんが黒猫にチュ◌ルをあげていました。

 動物好きな兄さんは、常にポケットに犬猫用のオヤツをしまっています。


「美味しいかい、カワイ子ちゃん。

 首輪をしているから飼い猫なんだろうけど、名前は何かな ?

 五右衛門、キキ、ルナ、ウィズ、フィガロ、ジタン ……」


 兄さん……は人、女の子の名前ですよ。

 と間違えているようです。

 まあ、私は空気が読めるので黙っていますけどね。


 やがて、黒猫は食べ終わり満足したのか、兄さんの元から離れて歩き出してしまいました。

 犬と違って、猫は自由ですからね。

『食い逃げ』なんて責められないですよね。

 そんな私の思いに反応するように黒猫がふり返り、


「ごちそうさま。 残念ながら全部ハズレだったね。

 ボクの名前は、サファイアだよ !

 黒猫の可愛い女の子だから、はないよね。

 今日は、この後に仕事があるから失礼するね、優しいお兄さん。

 See you……またねぇ~ ♬」


 ニヤリと笑っていた黒猫の尻尾が二股に別れ、悠然と去って行った。


 もしかして、あの黒猫もド底辺作者のキャラなのかしら ?

 本当に見境無しですよ、ド底辺作者 !








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る