第38話 かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを

【冬香side】


「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月の頃 」


 制服を受け取った帰り道に兄さん恭介が呟いた。

 お姉ちゃん春香も含めて皆が、キョトンとしていたけど……やはり、兄さんは私と同じ転生者なのだと確信した。

 西行法師の歌なんて、私達みたいな子供は興味がなければ知らないでしょうからね。

 歌人であり僧侶であった彼は釈迦しゃかに強い憧れを抱いていたという。

 如月の望月というのは二月十五日の釈迦の命日のことで、同じ日に逝きたい……という釈迦へのがれる想いを歌ったものだと言われている。

 しかし、残念なことに西行法師が亡くなったのは二月十六日……


 私も兄さんも転生者、それも二人共がブラック企業に勤めていた上でしての転生だというのが分かっている。

 兄さんとの情報交換の際に、いつしか二人で誓ったのだ。

 今度こそ、ホワイトな人生を歩もうと !



 かくとだに えやは伊吹の さしも草

 さしも知らじな 燃ゆる思ひを ※


 今、私の秘めた想いは隠しておこう。

 せっかくの第二の人生、青春を大切にして欲しいから……










※あなたのことを、これほど好きだというのに言えないでいます

言えないから、あなたはそうとも知らないでしょうね

ちょうど伊吹山のさしも草のように燃えているこの思いを ……


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