第35話 春休み ①

【茨城恭介side】


 あの日、真弓ちゃんをかばって頭にボールが当たった時に思い出してしまった。

 前世の記憶と云う物を……


「何処のラノベだよ !」


 記憶は、まだら。穴だらけだけど知識はあるようだ。

 しかし、いい加減、使い古された出来事に反応したのが、冬香だった。


「兄さん、記憶が……」


 どうやら、冬香も転生者らしく情報を持っていた。


「ラノベでもギャルゲームでも無く、乙女ゲームでも無い、底辺作者のデビュー作品の中だと !? 」


「ええ、それもタイトルが『茨城くんと恋する乙女たち』で、ラストはんですよ 」


 なっ、何と言う頭の悪い展開だよ !

 その作者の顔を見て見たいわ !

 しかし、これで迂闊な行動は取れなく成ったな。

 原作補正で何があるかわからないからな。

 しかし、駄作……原作とこの世界との違いを冬香が教えてくれた。


 まず、原作では俺には親友が居て名前を『栃木秀樹とちぎ ひでき』と云うらしいが、現実は栃木兄弟こと栃木雄仁とちぎ ゆうじ栃木孝司とちぎ こうじ、前世で見たお笑いコンビのような二人だった。

 他にも原作では登場しなかった人物が現実には居たり、物語後半に出てくるヒロインが最初から居たりと齟齬そごがある。


 何よりも恐ろしいのは、とは限らないことだ。


 そう、ド底辺作者が、新たに書き直しした小説の可能性もあるからだ。

 あまりにも読まれ無い地獄で精神を病んでないか心配だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る