第23話 ランナウェイ〜愛する幼馴染みのために~

【茨城恭介side】


 ピローン ♬


 スマホを見ると、栞ちゃんからメールが入った。

 珍しいこともあるな、と思って確認すると……


〖 ごめんなさい、みんなにバレちゃった !〗


 急いで打ったのだろう、主語が抜けている。

 しかし、栞ちゃんの言いたいことは判った。


 ……よし、逃げよう !


 この後、幼馴染み達からの追究が始まるに決まっている。

 おそらく、玄関と裏口を抑えて逃げられ無いように囲むつもりだ。


 だが、甘い !

 こんな事もあろうかと、新品の運動靴が部屋に置いてある。

 彼女達に捕まると、エターナルな説教地獄が始まるから逃げるのだ !


 俺は悪く無い、絶対にだ !

 幼馴染みは大切に思っているが、それ以上に俺自身が大切なんだ。


 幸い、俺の部屋は二階だが屋根づたいに外に出ることが出来る。


 靴を持ち、窓を開けると……


「何処へ、お出かけかな、弟くん ? 」


 春姉(はるねえ)茨城春香で居た。


 ゲェェェ、先手を打たれただと !

 口にも顔にも思っていることは出さない。

 普段は優しい春姉だが、怒るとシバカれるからな。



 ◇◇◇◇


 今、俺は正座をさせられている。


 俺の目の前には、春姉を筆頭に愛ちゃん、舞ちゃん、冬香が代わる代わる説教や質問責めをしている。

 他の幼馴染み達は遠巻きに見ているが止める気配も無く興味しんしんに見詰めていた。

 栞ちゃんだけは申し訳なさそうに頭を下げている。


 某、眼鏡大臣みたいに聞いているフリが出来れば良いのだけど、長年一緒に居る彼女達には通じるワケでも無くて……


「聞いているの、弟くん !?」


 普段は優しい春姉が一番怒っていることが問題なんだ。

 学年も違うから尚更、疎外感を感じているのだろう。

 ここで反抗しては説教が長引くだけだ。


「もちろん、聞いているよ、春姉

 ただ、恥ずかしかったから皆に黙っていただけで悪気はなかったんだよ。

 本当だよ、信じてよ、春姉、みんな ! 」


 俺の渾身の演技に春姉や愛ちゃん達が押し黙る中、


「騙されてはダメですよ、皆さん !

 兄さん恭介の演技なんですから !

 まったく、反省しているんですか、兄さん ! 」


「そうそう、お兄ちゃん恭介の口元がヒクヒクしているのは、何か企んでいる時だからね。

 ボクや冬香ちゃんには、お見通しさ ! 」


 冬香、さくらの妹コンビにはバレていた……

 こうして、洗いざらい吐かされた頃には疲れ果ててグッタリしてしまう俺を真弓ちゃんと栞ちゃんが慰めてくれる。


 まさに鉄壁の布陣の彼女達には敵わないことを、改めて思い知る。


 彼女達の想いには気付いている。

 俺は、何処かの鈍感系主人公とは違うのだ。


 ただ、今の関係を壊したく無いから、誰かを選べずにいる。

 もうすぐ、中学生……まだ時間はある。

 いつか、誰かを選ぶにしても後悔をしないようにしたい。

 間違っても、何処かの鬼畜系主人公のまことみたいな事だけはしたく無い。


 もう少し、もう少しだけ……今の居心地の良い関係を……


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