第17話 茨城恭介 ②

【栃木雄仁side】


 ウワァ、絵に描いたような小悪党だべさ。

 鷺田脛夫サギが、いつものように自慢話を始めただべさ。


「ボクちゃんの家が、お金持ちだと云うのは 田舎っぺのお前でも知っているだろう。

 聞いて驚け ! ボクちゃんのお父様は大江戸グループの不動産部門の中にある関東支社の営業部長なんだぞ !

 どうだ、驚いたか !」


 確かに驚いたべ、オラ達が……

 しかし、茨城恭介が無表情な方が驚いたべ。

 何時もは笑顔を絶やさないのに……


「おい、聞いているのか、田舎っぺ野郎 !」


 茨城が反応しないことに腹を立てたのか、鷺田が茨城の胸ぐらを掴んだ。

 今回ばかりは、茨城恭介の肩を持つんだべ。

 鷺田の奴は、ことあるごとに『茨城』や『栃木』を田舎者扱いするのが気に入らないんだっぺ。


「痛ったったったった ! 離せ、田舎っ……


 茨城に胸ぐらを掴んでいた腕を逆に掴まれて叫びだす鷺田。

 それまで黙って見ていたシャイアン粕谷剛(かすや たけし)が動き出したっぺ。


「シャイアン ! コイツ、生意気だからヤっちゃってよ ! 」


 シャイアンに助けを求めている鷺田

 一方で、茨城もシャイアンも一言も話さないで、にらみ合いをしている。

 パッと腕を離された鷺田はシャイアンの後ろに隠れて、


「バーカ、バーカ、お前なんか、シャイアンにヤられちゃえ ! 」


 シャイアンの後ろから挑発する鷺田……最低だべ。

 それにひきかえ、茨城もシャイアンも一言も話さないべ。

 二人とも普段は普通に話しているから、無口キャラと云うワケではないんだべさ。


連れ(友達)がスマナイ……」


 頭を軽く下げて、その場から去って行くシャイアン。


「待ってよ、シャイアン ! 」


 悔しそうに茨城をにらんだ後、あわててシャイアンを追いかけて行く鷺田


 あの乱暴者のシャイアンが黙って去って行くなんて珍しいこともあるんだべさ。

 だけど、一歩も引かない茨城恭介は、オラ達のライバルにふさわしいと、あらためて思ったんだべ。



 ◇◇◇◇◇

【鷺田脛夫side】


「くそっ、くそっ!」


 通学路を脛夫は一人で歩いていた。

 先ほどの茨城恭介とのトラブルで無様な姿を見せたことで彼の機嫌は悪い。


「それもこれも全部、伸美太が悪いんだ!

 そもそも、シャイアンもシャイアンだよ!なんで茨城にまで遠慮なんかしているのさぁ!」


 あの事件から疎遠となった伸美太のことをシャイアンは未だに気にしていることに脛夫は納得していなかった。


 あんな愚図でノロマな奴なんか放っておけばいいのに。


「そうだよ、アイツら、なんかズルしているに決まっている!」


 茨城も伸美太もボクちゃんより貧乏なのに、周りには女の子達からチヤホヤされている。

 ボクちゃんの方が、ずっとお金持ちなのに !

 シャイアンはてになら無い。

 でも…………間違いは正さないとね。

 ボクちゃんの頭脳にかかれば、アイツらなんて……






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