第2話 秘密②
怒りながら出ていった竹内と入れ違いに保健室の星野先生が入って来た。
「ごめんね〜ちょっと用事でぬけてたのよ」
高音で弾けるような声の主が前野が横になっているベッドまでやってくる。
「出たな妖怪」
辛辣な前野の言葉に慌てる友也…
「こら!何言ってん…ぷふ」
注意はするが我慢できず笑みを漏らす。
キョトンとする星野先生。
三十代だと本人は言うがどう見ても五十代にしか見えない星野先生。
中学生男子ならちょっと本気で握れば折れるんじゃないかと思うような細い手足。
塗り絵?とツッコミたくなるようなヘッタクソな厚化粧。
生徒達のあいだでは「魔女」もしくは「妖怪」と言われているが、本人が可愛らしい性格なので好かれてはいる、前野のような例外もいるが。
「どれどれ〜」
そう言いながら前野の前髪を片手であげた星野先生はその空いたおデコに自分のおデコをくっつける。
「うん。良かった!熱はないわね」
ニコっと笑う星野先生。
顔を真っ赤にしながら前野が吠える。
「ななな!何やってんだよババアてめぇ!」
どんな暴言にも動じない星野先生。
「あらヤダ!中学生の男の子には刺激が強かったかしら。ごめんね〜」
ウインクをしながら前野のほっぺを指先で突っつく。
言葉にならない怒りを前野はベッドにぶつける。両腕でベッドをドンドンと…
二人のやり取りに我慢出来ず友也がお腹を押さえて笑う。
〜放課後〜
友也の買い物に付きあったので、いつもよりだいぶ遅くいつもの道を歩いて帰る。いつも学校帰りの小学生が遊んでいる公園も今日は人気がない。ぼけーっと薄暗い公園を眺める前野の目に見覚えのある姿が。
ん?…妖怪か?
昼間の仕返しでもしてやろうと星野先生の元へと近づく前野。だが、落ち葉を踏む音は消せずに星野先生に気付かれてしまう。
「あれ!前野くん。今帰りなの」
少し疲れてる感じの星野先生の姿に少し意表をつかれた前野はなにか憎まれ口でもと思っていたが、普通の返事しか出来なかった。
そんな前野の視界に男の子の姿が。おそらくまだ幼稚園生くらいだ。
「え!先生の子?」
思わず聞いた。
ゆっくりと優しく微笑む星野先生は
「うん…今は」
少し意味ありげに答える。
聞きたくても聞けない前野の挙動に星野先生が答える。
「ごめんね変な言い方しちゃって。年の離れた妹の子なの。だけど、あの子を産んですぐに事故でね…だから私が引き取ってお母さんしてるんだけど…」
思いもよらない話にまだまだ子供の前野にはどう言えばいいのかわからず黙り込んだ。そんな前野をみかねてか星野先生が静かに話し出した。
「私って結婚どころか恋愛もろくにしてこなくてさ、そんな私が突然お母さんだよ。妹があの子を産んだのが三十代。でも、引き取った私はもう五十前だよ。そんなんじゃあの子が可哀想でね。頑張ってせめて見た目だけでも若くいようって。今まで数回しかしたことない化粧したり若い言葉意識したりね」
前野は胸がキューっとなった、痛いと思った。
浅はかだった自分を反省した。
「見た目なんてどうでもいいよ!」
考えるより先に言葉に出ていた。言葉を発した前野自身が驚いたが、勢いでそのまま続けた。
「先生が保健室にいつもいてくれるからオレは俺たちは安心できるんだ。この子だってきっとそうだよ。先生が…お母さんがいてくれるだけでいいんだよ」
前野の言葉に星野先生が驚く。
「ビックリ!まさか前野君がそんなこと言ってくれるなんて。やだ嬉し」
少し照れる前野に星野先生は続ける。
「そうだ!前野くんにパパになってもらおうかな」
ニコっと笑う星野先生。
「ふふふ!ふざけんな!」
前野が吠える。そして、二人で笑い合う。
「じゃあそろそろ行くね」
星野先生が立ち上がる。
「そうだ前野くん…今日のことはみんなには」
秘密ね…
そう言って男の子の手をひいて歩いていった。
前野からみたその姿はどう見ても親子だった。
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