第13話
「今日は来ないの? 彼」
「なっ!?」
レジ横で突っ立っていると、突然店長に話しかけられた。
いつの間に後ろへ回ったのか、私の下ろした髪を掴んでからかうように二つにわける。
「……今日はずっとバイトですよ」
「ふーん」
振りほどきながら答えると、店長は意味ありげな流し目で見つめてくる。
大抵からかっているだけなので、下手に反応してはいけない。
平常心、平常心。
「そんなに寂しいなら、オバサンが慰めてあげよっか?」
「ちょっ……」
後ろからゆるく抱きしめられ、思わず動揺してしまう。
オバサンなんて言ってるけど、店長はまだまだ若いし、私なんかよりずっと綺麗だ。
からかわれこそするけど、ツインと違ってピエロみたいな印象はない。
綺麗で大人な頼れるお姉さんという感じだ。
実際少し、尊敬しているところもあった。
背中に当たる温かい感触。
店長独特の美容院みたいな香りは、爽やかでちょっぴり甘い。
大人の色香に頭がぼーっとなる。
「……おーい。テールちゃん?」
ひらひら横切る手のひらに、私は遅れてハッとなる。
抱きついたままのぞき込んでくる店長に、再び意識が飛びかけた。
「ダイジョブ?」
「大丈夫、です……」
首にからまった腕をほどき、さりげなく脱出。
この人は、夏も冬もおかまいなしに、やたらとスキンシップが多い。
平日はそのくらい暇だからまだわかるけど、戦場と化す休日の仕事終わりに寄りかかってくるのは本当にやめてほしい。
……あったかくて、やわらかくて、途端に眠くなってしまう。
「まっさかあの子が、あーんなイケメンに化けちゃうなんてね」
「わっ」
今度は背中にのしかかってきた。
右手に掲げたガラケーで、待ち受け画面を遠い目で見つめる店長。
そう、この人は、ツインのことを知っている。
……聞いた話では、彼の過去も。
思えば私がツインと初めて会った日も、こんな風に店長と二人きりの平日だった。
ちょっぴり曇った小雨の日、彼は突然ここに来て、並んでいる服でも店長でもなく、まず真っ先に私を見た。
「でも、あなたもあなたで随分変わったんじゃない?」
「そうですか?」
「そうよ」
ふふふとあやしく笑って、店長はまたガラケーの待ち受けを開いた。
「……あなたも、そう思うでしょ? 長谷川くん」
「え?」
声をひそめたそのセリフは、ほとんど聞き取れなかった。
────────────────────────────────────
この小説のトップページ(表紙)または最新話のページの『★で称える』の+ボタンをいっぱい押したり、ハートを押したりして応援していただけるととてもうれしいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます