第11話

 いつものごとく勝手に部屋まで上がり込み、ツインそっちのけで布団に不法侵入。けれど暑苦しいということもあってか、どうにも寝つけなかった。

 健気に首を振り続ける新品の扇風機は、大ぶりな割に涼しくない。


 すっかり目が冴えてしまった。

 彼の枕に頭をのせ、眠気の復活を待つ。

 そうしていると扇風機の風に混じってタバコの匂いが漂ってくる。


 匂いは外からだった。


 文句を言ってやろうと身を起こすと、ツインがベランダのふちに座り込んでいた。膝の上では携帯の画面が光っている。

 やさぐれた様子でタバコをふいている彼に、私は網戸越しに話しかける。


「またあの人と話してたの?」

「……うん」


 前ほど不機嫌ではなさそうだ。

 ツインは、どこか懐かしそうに笑っている。


 十数秒くらいの沈黙のあと、ツインはポツポツとしゃべり始めた。


「実はさ、僕高校中退したんだ。三年の夏だったかな?」


 知ってたけど、言わないでおこう。


「空っぽな三年間だった。このままこうしていても、生きてる意味がない気がした。クラスメイトが映画のエキストラに見えた。僕はそうなりたくないって思った。……だから、辞めた」


 それだけだよ、と言いつつツインは続ける。


「長谷川とはその高校で知り合った。二年間同じクラスで、三年のとき別になった。アイツだけは別枠に見えたよ。辞めたあともときどき僕を気にかけて電話をくるんだ。お節介なやつだよな」


 私は何も知らなかったんだ。

 そう思い知らされた。


 辞めた理由も、彼の想いも、私は今まで知ろうとしなかったんだ。

 気づいて、布団の中に顔をうずめた。



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