第9話

 バイトから帰りシャワーを浴びながら、僕はふと思った。


「……暑い」


 タオルを巻いて脱衣所を出ると、リビングのソファに君がいた。

 もしくは双子の不法侵入者か。


「ねぇ、プール行かない?」


 僕の前ではこんなだが、これでテールは結構泳げる。

 君は一瞬だけこちらを見て、またすぐに向き直った。


「服、着たら?」


 部屋に引っ込み、服を着直してから再度言う。


「プール、行かない?」

「……」


 ツインテールは身じろぎもしない。

 まさかまさかのガン無視だった。

 そっちがその気なら、僕も強硬手段に出よう。


「ねぇ、ホラ、行こうよー」


 言いながらわきの下をこしょぐる。

 うつ伏せになってスマホの画面を見ながら、君はくすぐったそうに身をよじる。

 テールは案外こういうのに弱い。


 そのうち、声を抑えて笑い始める君。

 猫背になって抵抗する。

 もっともっとこしょぐってやった。


「ちょ、やめっ……」


 笑っているのを意地でも悟られたくないらしい。

 ……バレバレなんだけどな。


「わかった、わかったから!」


 ツインテールを振り乱し、君はついに根を上げる。

 今回は僕の勝ちだった。


 壊れたままのエアコンの代わりに、新品の扇風機がせっせと回っていた。



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