第8話
珍しく昼頃に帰ると、キャミソール姿の君がリビングの床で伸びていた。
かたわらには健気に回り続けるオンボロ扇風機。
その首根っこをつかんだままうつ伏せに寝転がってイビキをかいている君。
ツインテールは八の字で、ロングスカートはしわくちゃで。
そしてイビキは盛大で。
なんだかもうあんまりにもあんまりなその姿に、かける言葉が見つからない。
見なかったことにするべきだろう。
うん、そうしよう。
……そんなこんなで僕は彼女をアイスキャンデーでねぎらってあげることにした。
冷凍庫から召喚したアイスキャンデーをテールのほっぺたに置く。
びくっと肩を震わせて驚いたかと思うと、ゾンビのように伸びてきた腕が僕の手首ごど
べっとりと汗ばんだ肌に、今度はこっちが驚かされる。
「ずっとこんなとこで寝てたの? エアコン壊れたって言ったじゃん」
するとテールはビシリと扇風機を指さし、よろよろと腕を下ろす。
「……ぬるい」
アイスよろしく、今にも溶け出しそうだった。
「ん? あぁ、その扇風機ももう古いからなぁ」
アイスキャンデーをほお張りながら、最後の力を振り絞るようにキッと睨みつけられる。
……言いたいことがわかるから不思議だ。
「いや、ごめんごめん、ホラ、ここマンションじゃん? だから他の号室の人のもみんないっぺんに寿命きちゃったみたいでさ。中々都合がつかなくて。
僕も家空けてること多いしさ。……まぁ、だからそんなに困ってないんだけどね」
この季節、バイト先は当然エアコン完備だ。
「わたひがほまるんれすけど」
頬張ったままで器用にしゃべる。
よっぽど手放しがたいらしい。
「実家は?」
突然、あさっての方に寝返りを打つ。
ついでにさりげなくスカートを直す君。
ツインテールも、さっと手ぐしでゆって整える。
そんな仕草がいかにも君らしくて、僕はクスリと笑ってしまう。
「わかった、じゃ、テールが代わりに応対してね。お金は払うから」
「え?」
「え?」
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