第7話

 いつも通り勝手に上がり、勝手に拝借はいしゃくしたコップで麦茶を一杯。

 リビングのかけ時計を見るに、彼は当分帰って来なさそうだ。


 暇なので、彼の部屋へ不法侵入。

 敷きっぱなしの布団に潜り込むと、かすかに彼のにおいがした。

 意識せずにはいられないけど、すぐに眠気の方が勝って、私は無事眠りにつく。


 ……どれくらい寝ていたんだろう?

 まどろみの中でアラームに起こされる。


 往生際悪くうだうだ寝返りを打っていると、そのうちそれが電話の音だと気づいて、私はハッと飛び起きた。


「いいよ、が出る」


 いつの間に帰って来たのか、くぐもった声に心臓が止まりかけた。

 ツインが私の前でなんて口走るときは、相当不機嫌な証拠だ。


 ツインは奪い取るように受話器を取ると、私をまたいでベランダに向かった。

 聞こえないようにとぴしゃりと窓を閉められてしまう。

 かなり乱暴な手つきだった。


 それでもカーテンの隙間から彼の表情は見えたし、なんの話かもわかっていた。

 ツインの大嫌いな話だ。


 ツインは私には絶対にしない顔で、気だるそうに相づちを打ち続ける。

 早く終われよと、電話の相手を呪うようにうつむく彼は見ていられない。


 電話の相手は高校時代の同級生だと言う。


 一度私のことを悪く言ったとかで、ツインは顔を真っ赤にして怒った。

 以来彼はその人からの電話を話半分に聞くようになって、私には絶対に受話器を取らせなくなった。


 けど、私はそんなに悪い人だとは思っていない。

 現にあの後その人は会って直々に謝罪したいと言ってきた。

 ツインの気持ちを軽く見ていたって、本気で反省してるみたいだった。


 確か、長谷部だか瀬川だか、そんなような名前だったと思う。

 今は私も知っているくらいの超大手企業で働く非の打ち所のないエリートだ。

 ツインもあの人自体が嫌いなわけではないらしい。


 ならどうしてあんな態度をとっているのか、私は知らない。


 ただ、ツインが私のために本気で怒ってくれたとき、私はこれ以上ないくらいうれしかった。



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