第5話

 本屋から帰宅すると、廊下の途中に明かりが漏れていた。

 ぴっちり閉ざされた脱衣所兼手洗い場の引き戸から、シャワーが流れる音がする。


 テールが入浴中らしい。

 でなければ度胸のある不法侵入者だ。


 手洗いついでにのぞこうかどうか迷っていると、シャワーの音が止んだので慌てて退却。

 しばらくすると脱衣所の戸が開き、濡れ髪の君がひょっこり顔を出す。


「変態」


 冷え切った眼差しを頂戴ちょうだいする。

 しかも弁解の余地なくすぐに引っ込んでしまった。


 その後台所へ向かったかと思うと、冷蔵庫を開き、取って置いたアイスをペロリと平らげてしまう。


「君の分も用意しておいたんだけど……」


 聞くや否や、再び冷凍庫を開き、二つ目に手をつけ始める。


 制止を振り切り、高速で平らげて行く君。

 不意にその手がピタリと止まる。


 頭にキーンときたらしい。

 眉をひそめてうんうんうなる。

 ツインテールもピコピコ揺れる。

 その姿がなんとも可愛いかった。


 構わず気合いで食べ切ると、満足したのか、僕にしてやったりという顔をして君は帰って行った。


 けれど合い鍵を忘れていったのに気づき、君はちょっぴり恥ずかしそうな顔で戻ってきた。

 おでこにはもう汗が浮かんでいた。


「これだから、夏は嫌い」


 僕は結構好きだった。



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