30 死刑囚



 リフトで下に降りると空中都市に上がらなかった騎士達が出迎えてくれた。

 

「マジで勇者様だ……すげぇ……っ」


「あのっ、握手! 握手してもらっても!」


 コイツら普通の姿の時はそんな素振り見せなかったってのに。

 だが、俺は勇者だ。その要望に応えなければ。


「私の身体は一つですので、一人ひとりに対応させていただきますね」


「「「うおおおおおおっ!!」」」


 彼らの要望に応えて行くと、その塔の内部にいた子どもたちも集まってきて。

 騎士の途中で「時間がかかりすぎですな」とジルが辞めさせていた。

 

「勇者様、そのようなことは今後控えていただきますよう」


「すまないな。魔王を倒したことをこれだけ喜んでもらえるのが嬉しくて」


 そう話すとガルーが誰にも見えぬように口と鼻を手で覆い、親指を立てていた。

 カロリーヌも腹が痛いのか、お腹の少し下辺りを押さえて泣きそうな顔になってる。

 ガルーの言ってくれたとおりに振る舞うと、良いように回るな、助かるよ。


「では、王国に帰ったら握手会なるものをしたら如何でしょうか!」


 カロリーヌが横から来て、ジルを確認するように見上げる。


「勇者様とお話をしてみたい者は大勢います! ですので! いや、まずは騎士達でそれを練習してですね、人を募るという形で」


「そういうのは任せるよ。私はそういうのに疎いから」


「しょ、承知致しました!!」


 カロリーヌが勝ち取ったと言わんばかりに拳を突き上げると、騎士の中から「わあ!」という声がいくつか聞こえた。元からそういうの計画してたのかしらね。


「でも、帰ったらまずは凱旋とかしたいなぁ」


「しましょう! ぜひ! 我々が警備をさせていただきますので!」


「ははは、頼もしい。ありがとう、カロリーヌ」


「はぅあっ!! い、イエッサー……! マイロードっ!」


 俺はお前のロードじゃないぞ。国に仕えてる騎士だろう。


「それで、手配は出来たのか?」


「ハッ! ご案内致します!」


 ジルがそう言うと、地上にいた騎士たちが胸に手を当てていた。

 なんだなんだ、手配?


「なんの手配をさせていたんですか?」


「勇者様は298年も封印されていた訳ですから、戦争前の練習のようなものですよ」


 随分と配慮をしてくれるな。まぁ、死なれたら困るってのもあるか。

 じゃあ、その練習とやらをしっかりとクリアすれば、戦争に──待てよ。

 もし、その練習で不甲斐ない姿を見せたら、戦争に行けなくなる可能性もある……?

 本番前の練習で調子が悪い奴は戦争どころじゃない。特に、この身体はコイツらにとって重要だろうからな。

 

「楽しみです」


 目に炎を灯してそう呟く。俺はやるといったらやる男だ。

 そうして案内された場所は、監獄内の広場だった。

 

「今回、勇者様の練習台になるのはこの三体の囚人ですね」


 俺達が着く前につれて出されていたのは俺の背丈の二倍はあるアンスロ達。

 足に鎖を繋がれ、口には金属で作られた口輪が嵌められている。

 狼獣人だ。毛並み、闘氣、まだ若い。20歳くらいか。

 それが、なんでここに。


「この者達は戦争の犯罪者として聖王国が引き取った者でですね。魔法の実験に使用をしているんですが、勇者様の練習として使えるならばと思いまして」


 魔法の実験……?

 って、コイツら……まさか、昔みたいなことをまだしてるのか!?


「実験に使用をしているのでしたら、大丈夫なのですか?」


「ええ。今、戦争中ですので」


「これ以上ないほどの豊作ですとも」


 監獄長と副長がそう説明をするのを聞き、無意識に拳を力強く握っていた。

 コイツら……本当に、変わってないんだな……。

 

「……何の実験ですか、お聞きしても?」


「治癒魔法が主ですね。それか、体内に壊れる寸前の魔石を埋め込んで、魔石が復活しないかとか」


「っ……!」


 だから、アンスロ達の身体にはえぐられたような痕があるのか。

 そして、それを倒せと? 散々、汎人に都合の良いように扱われたこの青年兵を、俺に、殺せって?

 腹の底に黒くどんよりとしたモノが渦巻く。


(魔力も……年齢にしては良い。よく修練しているのがよく分かる)


 魔族の身体になったから相手の魔力量をよく感じる。

 ジル程度ではない。ただ、ノルマンほどの魔力は感じる。その中で紫毛のアンスロはカロリーヌほどの魔力を持っている。

 俺よりも魔力が多い。それに、アンスロは戦闘民族だ。力勝負でも負けるだろう。


「……」


 だが、俺が勝つ。

 それは魔力や力では測れない所で、だ。


「これから獣王国に行かれると聞きました。アンスロを殺す練習にもなりましょう。ささ、武器はそちらを使われますか?」


「ああ」王国側が用意した武器を揺らし、首を動かす。「こだわりはないが」


 持っているのは腰から下げれるタイプのロングソード。

 昔に使っていたのと同じ程度の重量、同じ長さというのがミソだ。 

 

「では、勇者様の準備が出来ましたら、始めましょうか」


「その前にこの三体は何をしたんだ? 戦争犯罪をしたと言っていたな」


「彼らは今の戦争中に剣王国の砦に爆薬を仕掛けたのです。火薬武器の使用は認められていますが、拠点の破壊行動などは禁止されています。戦争と言えども、我々は獣ではなく、理性のある人間ですから」


(どうせ、人間同士が定めた勝手な戦争の法かなんかじゃろうな)


 クディの小言に俺も頷く。


(自分たちが決めたことを魔族やモンスターにでさえ押し付ける生き物だからな)


 それに兵器で破城槌は使うし、地下からトンネルを作って爆発をさせていたこともある。

 あれから298年も経っているが、お前らはどうせ変わっていない。 


「起爆される前に剣聖の嫡子であるアルベルト様が捕らえたのです」


「それで、聖王国につれてこられたと」


「剣王国では切れ味を試すくらいでしか使えないでしょうから」


「その場合、捕虜を傷つけたとして、私も戦争犯罪には問われませんか?」


「……といいますと?」


「私が生きていた時代は捕虜や馬を悪戯に傷つけ、殺すことは戦争法違反でした」


 俺の話を聞いた監獄の長は眉を潜めたが、理解をしたようで。


「ハッハッハ! それでしたら心配は要りません。彼らは捕虜ではなく、死刑囚です。彼ら自身が戦争犯罪を犯していますので、その心配は要りませんとも」


「補足をしますと、捕虜や馬を傷つける戦争法は今も残っていますが、汎人類われわれにだけ該当します。異人種を捕らえて何をするとしても罪には問われませんよ」


「そうか」 


 そういい、俺は三人のアンスロの方を向いた。


「……」


 ごめん。

 コイツらを代表して、俺が君たちに謝罪をしよう。

 文明が進化しようとも、技術が発展しようとも、着る服が豪華になろうとも。

 そこに生きている人間の脳みそが同じであるなら、どうしようもない。


「では、勇者様、よろしいでしょうか」


 その言葉に逆手で腰から剣を抜き、手元で回して握った。

 ウズと口角が疼く監獄長と騎士たちの顔を見ないようにして、相手アンスロを向く。

 

「それでは! 開始!」


 監獄長の合図によって彼らのつけられていた拘束具が外れ、一体の白毛のアンスロが飛び出した。

 ──ゆら。


「おお」


 あの一瞬で、身体強化系の武技を使ったか。

 魔力を鎧のように纏うことで攻撃を通りにくくさせ、自身の基礎能力を大幅に向上させる。


「ああ──」


 駆ける、駆ける──駆けて目前まで来るまでその姿を見つめて。

 片足を切り落とそうとしたが、武器を構えてないのが見えた。

 咄嗟に殴りかかられた手を止めると、ふわっ、と。


「勇者様、ナモー様のためにお力をお貸しいただけませんか?」


 そう言われた。

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