第16話 霧の中の賢者
「まずは、お互いに自己紹介でもしておこうか。
私の名前はコフ・グトゥ。
嘗て大罪を起こした大馬鹿者だ。
君達の名前は?」
「ライヒ」
「アルファよ」
「…偽名か、まぁ良いだろう。
では、私の昔語りに付き合って貰おう」
今から一万年以上前、永遠の命を生命に授ける賢者の石の生成に成功した五人の賢者がいた。
この五人の賢者は自らが作りだした賢者の石を使い永遠の命を手に入れたのだ。
だが、これが全ての間違いの始まりだった。
永遠の命、それは人が皆夢見た理想。
そんな者が目の前にぶら下げられた人類が行う事等そう多くはない。
そして、人類はその数少ない選択肢の中から愚かな選択をした。
戦争の始まりだ。
賢者の石を完成させた五人の賢者を巡っての世界大戦の始まり。
この戦争は熾烈を極め、人類を衰退の道に引きずり込んでいった。
そうして、残されたのは荒れ果てた大地に、僅かばかり生き残った人類と五人の賢者達だった。
五人の賢者は二度とこの様な悲劇が繰り返される事がない様に、人類の徹底した管理を行うべしと考えた。
そうして立ち上げられたのがテトラグラマトン教団と言う宗教組織だ。
五人の賢者はこの宗教組織を使い人類の統治を始めて行った。
最初の頃は宗教組織として上手く行っていた。
だが、人類の総数が回復し、教団の組織力が巨大化するになるにつれて、教団は腐敗を始める事になっていく。
そして、教団の中枢を治めていた五人の賢者の内四人は、肥大化した組織を効率よく運用するための人員を確保する為に、賢者の石の生成をし自らと同様の永遠の命をもた存在を生み出すべしと声を上げたのだ。
だが、賢者の内の一人はこれに異を唱えた。
また、以前の様な戦争が起こるのでは無いかと危惧をしたのだ。
だが、そんな意見は封殺される事になる。
四人の賢者は、賢者の石の生成に踏み切ったのだ。
だが、賢者の石の生成には五人の賢者の協力が不可欠だった。
四人の賢者だけで生み出す事が出来たのは、賢者の石の完成間際の生成物「命の水」であった。
五人目の賢者に秘密裏に作り出された命の水。
しかし、五人目の賢者は命の水の生成が為された事を知った。
そして、五人目の賢者は嘆き悲しんだ。
何故ならば、賢者の石の材料とは、人だったからだ。
五人目の賢者はこれに憤り教団を抜け雲隠れをした。
その後は情報を集めつつも、自らの無力さに苛まれただ無為に時間を過ごすだけの存在になったというわけだ。
「そして、永い年月の果てに、そんな無能な賢者の前に二人の若者が姿を現した。
私が施した強固な結界を通り抜ける程の才能を有した存在が今目の前に…
これは、運命なのだろう。
才能がありしかもそれが異世界よりの来訪者という特異な存在。
…私は疲れたのだ。
お前達がどの様な存在なのかは解らぬが、前途有望な若者である事には変るまい。
故に、私の全ての知識を授けよう!」
コフ・グトゥ、いや五人目の賢者はそう声高らかに声を張り上げると、魔力を隆起させた。
一万年という長い年月を生きた存在の掛け値無しの全力の行為に私達は言葉を出すことさえ出来ずに立ち尽くした。
「さあ、受け取り給えライヒよ。
これが私の全ての知識と力だ!」
急速に開放される魔力にコフ・グトゥの肉体は耐えられなかったのか、身体の端からサラサラと崩れていく姿が見える。
それと同時に、私の中に膨大な知識と共に魔力が注がれる。
私は、必死にその膨大な知識と魔力を支配下に置く様に意識を集中させる。
ともすれば、意識がバラバラになる程の苦痛が身体を襲うが、そこは一万年を生きた賢者の技能なのだろうか。
その一歩手前の状態を維持して、急速に私へと知識が魔力が流れ込んでくる。
そして、どれだけの時間が経ったのだろうか。
そこには誰も座っていない椅子がただ存在していた。
「貴方大丈夫!」
「あぁ、問題は無さそうだ。
だが、いきなり色々と詰め込まれたせいで目眩がするよ」
「なら、一度皆の所に戻りましょう」
「そうだね、色々と話さないといけないことがあるし」
「本当よ、貴方が異世界の来訪者とか、本当寝耳に水よ」
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