第11話(後編)ゲーム本編ではできない攻略方法






「死ンねぇえええ!!」


 瞬間、赤い血飛沫のオーラが天井に広がっていく。まずいと思いつつもクンチャを見る。


「おい、なんだよアレ」


 思わず声が出てしまった。そこには髪以外の全身が真っ白になり、なのに、目だけは血溜まりのように真っ赤なクンチャの姿が見えた。こんなの、ゲームしてた時は無かったし、どの情報にも載ってなかった。


 全くもって見たことが無い姿だ。

 そしてもう一つ気づいた。


 既存の情報と照らし合わせると、クンチャ側には味方がいない。だから暴走状態でクンチャの攻撃を防ぐには、クンチャが暴走により、自分に自害するしかなかった。


 そしてその可能性は低かった。


「待ってねて? ミックぅ。今お前をがいほうしてやるがらな? な?」


 まずい、まずい攻撃しない……と!?


 ギュウウウウぅううう


 何だ急に!?  


 雑巾みてえに、あたまがし、ぼ、ら、れ……。


『……め』


 うるせ


『……のめ……のんで……れ』


 うる……せ、ぇ……


『のめええええええ!!!』


「うぜええええええ!!!」


 

 轟ッ!!!!!

 

 途端、赤と橙の中間の色彩の炎が鞘から吹き出した。


 その吹き出し方は、まるで爆発の様だった。


 鼻に火薬特有の焦げ臭さ、目に暴力的な炎にも似た閃光が眩ましてくる。皮膚がチリチリと刺さるように熱い。口の中に熱気が篭り、重くて息がしづらい。


 その後に、今更の如く爆破音がこだまし、耳をつんざいた。


「……あ?」


 無理もない。いきなり自分とは関係ない爆発が起きたら、誰だって妙に思う。クンチャはこっちを見ると、血溜まりの赤目をぎょろぎょろさせてこちらを凝視。


 何かを言おうと片手をこちらに向けたがやめた。その理由はなんとなくわかる。


 俺もだ。今の爆破音で多分耳がイカれてる。多分クンチャの方も同じだ。今アイツも何も聞こえなくなっている状態だ。

 

 だがここからどうすれば良いか分からない。ダンとかも上手くやれていると良いが、あと耳は回復するのかこれは。


 すると奇妙なことが起きた。


 クンチャが発狂しているのだ。


 なんて言っているか分からないが、大口開けて何か叫んでいるような恰好になったかと思うと、いきなり両手で頭を掻きむしりガンガン頭を振り回している。


 これはどう考えても発狂している。

 こうなると、もうどうしようも無くなったのか、鞭を手に取ったが、ただ振り回すことしか出来なくなったいる。


 しかも鞭も半分ロクに本来の長さに伸ばすことができず、威力も弱まっていることがわかる。だが、なんで急にこんなにこいつはこんなことになった?


 ゲームをしてた時、暴走状態になったことはあるが、攻撃が全く機能しなくなった時は無かった。何がコイツをそうさせた?

 

「……っこえねえええええ!!!!」


 突然、音が聞こえるようになった。

 後、さっきまで耳が聞こえなかったからか耳の感触が全くしなかったが、今は誰かが耳を触っているのが分かる。


 視線を後ろにズラすと、俺の耳を触っているのはボヤンだった。


「ぼ、僕が回復魔法使いました!」


 そうか、ボヤンは回復魔法が得意なキャラだった。異常状態を回復することができてもおかしくない。


「ありがとうボヤン。後は任せてくれ」


「もちろんそのつもりです!! 早くさっさと倒してください!!」


 今言った感謝の言葉を思わず取り消したくなった。


「きこえねきこえねきこえねきこえね」


 そうか、クンチャはどれだけ暴走しても耳が聞こえりゃなんとかなったのか。あの暴走状態の血溜まりの赤い目は、視覚が失っているんだ。


 そうと分かれば、今が最初で最後のチャンスだ!!


 刀を見る。もう視界の揺れも、縛られるような頭痛もしない。だが何が起きるか分からない。そしてマゴマゴしている場合でもない。

 

 足音を立てずになるべく素早く歩き始める。できる限りクンチャの背後をとることを意識して歩く。


 人というのは不思議なもんだ。こうやって視覚聴覚を失い、さらに理性まで失うと、自分ではもしかしたら辺り一面満遍なく動いて攻撃しているつもりなのだろうが、現実は一定の方向にしか身体は向いておらず、そこばかり攻撃しているものだった。


 つまり、一番隙だらけの状態だ。


 ジワ……


『……め……のめ』


 くそ、頭がジワジワ何かが来やがる。

 でも確実に、確実に近づいている。

 このまま終わらせる。


 まだ、クンチャは同じあさっての方向に鞭を乱雑に振り回している。まるで癇癪を起こしている馬鹿なガキだ。


 俺は違う、この刀の頭痛の原因も多分、分かった。


 この刀、俺の心理状態で使い易さが変わるんだ。


 速くしないととか焦ったり、緊張するもカタカタ揺れて抜けにくくなる。殺意を込めすぎたり、興奮しすぎると頭が痛くなったり平衡感覚が鈍くなる。


 この刀の性質なのか、俺が未熟か、それともどちらも原因なのかは分からない。


 だけど今の俺にできる対策は一つだけ。


 心を落ち着かせることだ。


 心を静かにし、冷静に、冷静に考えていくことだ。決して頭に血を登らせすぎず、顔から汗が噴き出るほど焦らず、冷静に対処するんだ。頭はクールに、行動はホットに。


 そして……。


 もう刀がクンチャに届くまで僅かな距離へと近づいた。


「フロー!!」


 分かってるよダン、そう叫ぶな。そいつが今、意識を戻したのか本能か知らねえが突然、瞬く間に、俺に標準を狙い定めたことなんて。


「調子に乗んな女ぁ!!」


 クンチャがこっちに向けて鞭を振ろうとする動きが、スローモーションのようにはっきり見える。


 運が良かった。ある意味クンチャ、お前には礼を言わなければならないな。


 この武器の扱い方を教えてくれたようなもんだからな。


 頭はクールに行動はホットに、そして……「殺意は一瞬に」


 





 チンッ


(……は?)


 クンチャは耳を疑った。いや、もうとっくに聴覚は失っていたから、聞こえるはずがないがそういう問題ではなかった。


 彼は本能で最後の最後にフローの姿を捉えた。そして渾身の一振りをお見舞いしようと腰を捻り思い切り腕を振るった。


 しかし、その振るおうとした時に、その音は聞こえた。


 クンチャはその音がした事実を疑った。

 信じることができなかった。


 まるで


 先ほどまで、刀を構えていたはずだ。

 それなのに、鞭がしなる直前に鞘に収まるなんて


 それに気づいた時、もう彼の胴体と脚は分かれ、地面に落ち、フローの腰の部分に視線が等しくなっていた。








 ボトッ


 今まさに鞭を振ろうとした男の胴体は、俺の背丈より圧倒的に下の地べたに転がった。


 大口を開けたまま微動だにしない。


 死んだことに気づいているのかも怪しい。







 ふと、コイツを倒した時の映像を思い出した。


 確かクンチャは、幼い時に両親から少女趣味を強制させられていた。女の子の格好をさせられて、母親も父親も溺愛していた。


 少女が着るような服、仕草、文字の綺麗さ、言葉遣い、趣味、ありとあらゆることを強制されていた。


 だがクンチャ自身はそれに疑問を持っていなかった。むしろそれを好んでいた。


 だが一つだけこまるのが両親は、少しでも間違うと鞭でお仕置きをしていた。少しの間違いで人生は終わりだと、躾けられていた。


 だがその割には、父親は浮気して他の女性と交わり妊娠させて、無理矢理その子を堕ろさせていた。母親は芸能界の上の人々だからか、男性俳優や男性アイドルをビップルームに連れ込み、たくさん遊んでいた。

 

 二人とも十分に間違っていたのだ。


 ある日、クンチャは家庭教師に性的な被害を受け、その怒りで家庭教師を意識不明の重体にしてしまった。

 

 両親は警察に電話するよりまず、クンチャに怒鳴り散らした。その時、クンチャは家庭教師から両親の所業を聞かされていた。


 だからなんとなくカマかけて質問したら……。


「お前……なんで」


「あんた、どこでそれ聞いたの!?!?」


 聞いた順番はどうあれ、二人の反応で家庭教師の言ったことは事実だと理解できた。


 そこから殺意に目覚めた。


 その頃のクンチャは俺の前世で言う中学三年生あたりの歳だった。


 三人を殺したことを知っても何も驚かなかった。


 特に両親は散々、鞭で拷問された痕跡が家全体の部屋と両親にあった。


 それがクンチャの過去だった。


 過去知っても全く同情できない。

 ていうか、今のこの屍体、死んだことを理解しているのかも分からない。


「化けて出るなよ」

 

 そんな感想しか持ち得られなかった。


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