第21話 未来の主人公との別れ?



「オカシラ!!」


 村に帰って来るとむさ苦しいことこの上ない。ミックとゴンが迎えにきていた。


 もう夜は遅い。だからダンの姿が無いのは当たり前だろう。


「ダンたちは寝たのか?」


「俺ならここにいるよ」


 斜め方向から声がしたので見ると、木の下で腕を組んでいるダンがいた。そして少し目を凝らすと、その後ろの影にボヤンが溶け込むように、隠れて見ていた。


「敵、倒したのか」


「ああ、お陰で……こんな有様だ」


 すると、後ろからゾロゾロと、お二人さっき仲間になった奴らが現れたリプかというから


「えぇ!? なんか行く時より増えているんだけど!?」


 ボヤンが驚くのも無理もない。

 行く時一人で帰ってきたらゾロゾロ引き連れているって、そんなの聞いたことないからなぁ。


「すみません、オカシラー。こんな村にどのような用があるのでしょう。私は早く出て行きたいのですが。先ほどから廃屋のような異臭がします」


 相変わらず、オヴォーは嫌なやつだ。


 それにそんなこと言われたら、誰だって反感を買うに決まっているだろうに。


 嫌な性分してやがる。


「ああん!? いきなり出てきてなんだてめえ!!」


 まずい、ダンの奴が飛び出してきた。

 無鉄砲にも程があるだろ。


「やめろ小僧。お前が叶う相手じゃない」


「は?」


 ダンの敵意はその声の主に向けられた。

 そしてその声の主はミックだった。


「おい、なんで俺がアンタの頼みを聞かなきゃならねえんだ」


「頼んではいない。事実に基づいた客観的視点を教えてやっているんだ」


 その言い方に腹を建てたのか、ダンは歯を食いしばり、その後に食ってかかる。


「てめえ俺より雑魚のくせに何偉そうなこと言ってやがる!! 雑魚兵は雑魚兵らしく死ぬか引っ込んでいるかどっちかにしろ!!」


 言い過ぎだと、止めようとした。


 だが、その必要は無かったらしい。

 というより、止める相手と言葉を間違えていた、


「ほう……お前のような豆粒のクソよりも弱い、か……なら試してみるか?」


 ミックは暗くて深い濁った闇を瞳に宿していた。そしてそのまま腰に手をかけ、何かを取り出してきた。


 それは武器なのだろうか。四方に折り紙を広げたような開き方をしているヤイバの武器だ。


 手裏剣を思わせる形であったが、その形はどの方向の刃も、先端付近が反り返っておりどこか歪な形に思えた。


 そして、手裏剣よりも大きい。


 手裏剣は指で扱える大きさだが、ミックが今持っている武器は、片手いっぱいに刃の部分を持つ構えとなっている。


「二人ともやめろ!!」


 俺の声にビックリしたのか、二人とも目をパチクリさせながらこっちを見る。


 ゾワリ


 あ、やばい。このまま戦ったらダンは死ぬ。何故だか理由は分からない。分からないがそんな気がした。だからミックを止めた。


「申し訳ありませんオカシラ」


 先にミックが謝り、その刃を収めた。


 帰ってきたばかりだからか、今ミックをよく見ると、なんかこの村を離れる前と後で何か違う気がする。


 何が違うのか聞かれると言語化しにくいけど、何か、例えるなら大きな戦闘を終えた後のような、そう、言うならば貫禄というのがついた気がする。


 なんだ? 行く前は少し腹黒くて時々ヘタレくらいの印象だったのに、今はその雰囲気がむしろ消えている。そして、老成したように落ち着いて、岩石のようにドッシリ構えているように見える。


 ホント何があったの!? この短い間でなんか時を超えるとかの経験でもしたの!? 

 それとも現実の一秒が何百年になる部屋に閉じこもった!? 

 じゃなきゃ一○年ボ○○でも押した?


 そのぐらいの変貌ぶりだ。


 少なくとも雑魚キャラが出すことが出来ない雰囲気を、醸し出している。

 

「二人とも落ち着け!!」


 あ、声から誰かわかった。振り向くとゴンが大口を開けて、怒鳴っている。


 その姿はいつもと変わらなかった。

 すごく安心した。

 

「二人とも落ち着け!! オカシラが困っているだろうが!!」

 

 うるさい、元気なのは良いがもっとちゃんとして欲しい。


 あとゴンが引き連れたのだろう。いつの間にか、周りに部下たちがいるのに気づいた。


「よく来たな!! 歓迎しよう!!」


 なんか、俺が連れていたコイツらは何が歓迎しようだよ、と考えている奴ら多そうだなぁ〜。


「あの〜すみませ〜ん。そこの単細胞三人組の三問芝居、そろそろやめてもらって良いですかー?」


 オヴォーはまたそんなことを言いやがる。


 三人の目が細まり、オヴォーに向いてしまう。なのにオヴォーはどこか他人事のような知らん顔してる。こいつ、自分の発言で三人の機嫌が悪くなっているって分かっているのか?


「あれー? みなさんどうしたんですかー?」


 その疑問の声がまたも人の神経逆撫でさせるような、惚けた声をしている。

 

 こりゃ話題を変える必要があるな。

 そして、今ここで変えざるおえない話題といったら……。

 

「あ〜はいはい、お前らストップな」


 一旦、手を止めてあいつらはこっちに首を向けてくる。

 

「あ〜……実はこの盗賊団の名前が決まった」


 直前でひよった。本当はこっちじゃないことを言おうと思ったが、それだとダンたちを巻き込んでしまう。未来の勇者をここで変なことになったら、この物語の根底から台無しになってしまうことになる。


 だから盗賊団の名前という話題を選んだ。

 

 運が良かったのかこいつら、なんかすごく興味津々な顔でこっちを見ている。


「え〜、私フローが頭領を務めますこの盗賊団の新たな名前は……ハイエナ盗賊団」


 ハイエナ……盗賊団……

 

 ……うん、だよな……全員困惑した顔をする。うん、俺もそう言われたらそんな反応になるわ。

 

「…………じゃね?」


 ん、なんかざわめき始めたぞ? なんだ? おまえらそんなに俺の、じゃなかった。アーサアのネーミングセンスがそんなに無いって言いたいのか? 


 少し泣くぞ? いや、てか俺が付けたわけじゃないのになんか俺が付けたみたいになっているけど、これはアーサアが名付けたんだからな? だから俺のセンスがどうとか言ったらそれって自分たちの


「最高じゃないですか!!!」


 ウォオオオオオオ!!!!

 

 ……え? ナニコレ、もしかして逆? 気に入ってくれたのもしかして。なんかこいつらすごくはしゃいでいるように聞こえるけど。


 もしかして嬉しいの?


「ハイエナって最高のセンスじゃあないですかああ!!!!!」


 なんかゴンは歓喜してるし。


「良いです……かなり良いです」


 ミックはほれぼれしているし。


「ふ〜ん、センスあんじゃん」


 なんかダンも褒めてるし、その隣で賛同するように、ボヤンがうんうん頷いてるし。


「オカシラ流石です!!」


 なんかみんな褒めてるし。なんかこれで、いいのか? まあ、良いなら良いけど。


 とりあえず『ハイエナ盗賊団』は好評だということが分かった。


「オカシラー、そんなことよりも話題に鯖にことがあるんじゃないでしょうかー」


 ……オヴォー、お前はいつも余計なことを言う。しかもこれ含めて全部故意なのがすごくムカつく。


 せっかく話題を逸らしたと言うのに。


「え!? まだ何かあるんですかオカシラ!!」


 ゴンは目をキラキラさせている。

 ミックも期待の目で腕を組み、大きく頷きながら見ている。


 コイツらはまだ良い。だけどそれ以外、特にダンに聞かれるのが困るんだ。もちろんボヤンもだがダンに聞かれるのが困る。


「オカシラー、はやくー」


 クソ、恨むぞオヴォー。これで最悪なことになったら全部オヴォーのせい。そういう風にしたい。


 オヴォーのせいで、もう眼前に広がる部下たち全員が覚悟を決めたかのように、信念な顔をして聞いている。もう、心を引き締めるしか無いようだ。


「実は、次の指令が渡されたんだ……そして、次のハイエナ盗賊団の任務は……『チェリジュン』の頭であるジマユをぶっ潰すことだ」


 しばし、呆けたように目をまじまじと見つめていたがやがて雄叫びが上がる。


 アホなのが助かったのか、みな歓喜の雄叫びを発している。でも、そんなの無理だと、絶望していないようで良かった。


 ふと視線の先に、顎に手を当てて考えている様子を見せる、ミックが見えた。


 やっぱりコイツ、なんか変わった。


 ついこの間までとは全く違う冷静さ、あるいは大人びた雰囲気を醸し出している。


「カシラぁ!! いつ行きましょうか!!」


「今日にでも行きますか!?」


「『チェリジュン』のあの薄汚え本性が隠れた面を細切りにして、家におきましょうや!!」


「できるたけ苦しめて殺してやりましょう!!」


 うわ〜……素直に引くわ。

 コイツらやっぱ賊だわ。人の殺し方でこんなに下品にギャハハ盛り上がれる大人なんてコイツらくらいだろ……男の嫉妬ってこわ。


「なあ」


 振り向くと、そこにはダンとダンの背中に隠れるボヤンがいた。恐れていたことが起きようとしているのが分かった。


 頼むから俺が今予想している言葉を言わないでくれ。このままお前は俺らの体験は子どもの頃の思い出として胸に残し、大人になってくれ。そうじゃないと、下手すりゃどうしようもない未来が訪れてしまうから。だから頼む、言うなよ? ぜったいぜったい言うなよ? 頼むからあの言葉だけは……。


「俺も連れて行け」


「ええ!?」


 恐れていた言葉を聞き、声を出したのは俺じゃなくて、ボヤンの方だった。


「な……何言ってんだよ!! 無理に決まってるでしょそんなの!!」


「うるせえなぁお前は」


「だって!! 『チェリジュン』って言ったら五代組織とか言われている盗賊団の一つじゃないですか!! そんなの絶対敵いっこないですって!!」


 バヤンは、歳の割りにはかなりの情報通でもある。この歳で五大組織のことを知っていてもおかしくない。なんとかここで止めてくれ!! ボヤン!!


「お前、よく知っていたな」


「当たり前ですよ!! この話なんて少し習ったりするでしょ!! 子ども塾で!」

 

「子ども塾? それも初めて聞いた」


 え〜? ボヤンは驚いているが、さてこれは、ボヤンのその子ども塾通いが異常なのか、それとも、ダンが子ども塾に通っていないことがおかしいのか。


 まあ、正直どうでも良いことだな。


 ここでコイツらを連れて行きたくない。


 特にダンは絶対嫌だ。ついていくというよりダンが死ぬ展開とか絶対作ってはならない。そんなことしたら魔王とかそういうのよりもなんか大変な未来になりそうな気がする。とにかく、ここは絶対拒否が正解だ。


「とにかくフロー。アンタの盗賊団に俺も連れてけ」


 ふむ、どうするか。その材料となるのは。


「ダン、アンタ、どこから来たの」


「それは、コドグ村」


 よし、とりあえず設定に変わりは無いようだ。コドグ村、それはゲームで一番最初の村だ。その設定ならゲーム通り、母親と二人で暮らしているはずだ。


 そして、俺らと出会った時は、ザコボッコの討伐依頼をこなそうとして、迷っている内に俺らに出会ったという経緯だと思う。


 それなら、攻めるべき所は決まっている。


「そうか、親はどうしている」


 ギョッとしたのが見えた。やはりそうだ、子どもが何日も帰ってきてないなんてことがあったらその母親は心配するに決まっている。なんせ、一人息子なんだから。


「母さんが……家にいる」


「お母さん、心配しているんじゃないか」


「……」


 うん、黙って俯いている。これがゲームだったら母親の思い出を振り返っているに違いない。そろそろこれでラストだ。


「子どもが何日も帰ってきていないなんて状況、親が心配すると思うんだ。それに、なんとなく聞くと一人息子なんじゃないか? それならたった一人の息子ならますます心配だ……だから」


 そっとダンの肩に手を置く。

 よし、どうだこの年上のお姉さんの包容力は!! こんなの年端もいかない男子ならイチコロだろ!!


「……っせ」


「ん?」


「うっせええええ!!!!」


 パシッ

 

 あれ? なんか予定と違う。ここで手を弾かれるなんて聞いてない。てかまさか……。


「そんなの関係ねえ!! つれてけ!!」


 おいおい、マジかよ。


 あの状況でこの返ししてくんの!?


 

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