第19話 新生盗賊団の最初の任務
そのまま廊下を歩いていると、ここに来た時、散々からかったおじさんがいた。なんか知らねえけど、どうも癒されるんだよなこのおじさん。安心すると言うかなんと言うか。
なるほど、これがメスガキムーブしたくなる女の子の気持ちか。
「よぉおじさん、待っててくれたのかい?」
しかし、そのおじさんは何の反応もせずに、フン、と鼻息を鳴らすだけだった。
んだよ、つれねえな。そう思った時だ。
「お前たちに渡さなければいけない物を渡しに来た」
「渡さなければならない物?」
何か特殊なアイテムでもくれるのか?
「これだ、よく目を通しておけ。これはアーサア様からの司令だ」
何だ、任務ってことか。こういうのって絶対汚れ仕事なんだよなぁ。どこかの人物の殺害か暗殺。それから手段は選ばなくても良い窃盗。そうじゃなくても一般人の虐殺なんてのもある。それに充てられたら……。
「ねえおじさん。これどんなことが書かれてあるの〜」
「見た通りの内容だ。変更は無い」
この反応、よっぽど嫌な指令らしい。
覚悟を決めて内容を見る。
「…………ッハ、なんだ、そういうことか」
こういう奴らがやる仕事は、大小関わらず汚れ仕事。そしてもう一つは……。
「さながら鉄砲玉ってところか?」
この世界の盗賊は五大組織なんて呼ばれ方をしている。俺たちが所属している『フォロバシタン』もその中に含まれている。
世界の主な五大組織は次の通りだ。
『フォロボシタン』
『ノミカノズニ』
『ダイサートーノシ』
『クライキマサ』
『チェリジュン』
俺たちに最初に課せられた任務は、『チェリジュン』のトップの『ツンモ・ジマユ』の殺害であった。
こんなの傘下になったばっかりの盗賊団が出来るわけねえだろ。明らかに死にに行かせるようなもんだ。あのクソ変態野郎、妙に気前良く送ってくれたと思ったらそういうことかよ。くそ、やっぱり世の中クソだ。
「これもあの方の命令だ。悪く思うな」
「いきなり組織のボスに乗り込んで死んでこい。これが悪意以外の何があるってのよ」
「そういう意味があるとは限らない」
はあ?? 思わずそんな声が出そうになった。下っ端をいきなり敵の大将の城に突っ込ませる馬鹿がどこにいるんだよ。
なんて言ったら流石に不敬罪とかになりそうだから、言わないように口を閉じた。メスガキムーブはほどほどにしなければならないのは世界の掟だ。
「まあ、あの方だけじゃなく、他人の考えていることなど、誰にも分からないものだ。だから頼まれた者にできることは一つ。それに応えることだ」
なんかこいつ今メチャクチャカッコいいこと言った気がするんですけどぉ!?
なんなの? なんかこっちにアピールしてるの? 男前なところアピールしてるの!?
まあどっちにしても、俺はこのままガードを固めて歩き続けるだけだがな。
男のその言葉で俺たちは会話が終わり、再び歩き続ける。どうやら、大分長く話していたようだ。
気づくと出入口が、近くに見えていた。
出入口はひのきで作ったのか、三人ほどの大きさで格式高い茶色い木材の扉であった。
この扉を開けばこの『フォロボシタン』の本部から出て行くことになる。
「先程の司令、まさか逃げるつもりじゃないよな」
突然、おじさんが聞いてきた。
「それが出来れば苦労はしませんでしたよ」
「しくじるなよ」
「それは、鉄砲玉としての役目を果たせって意味か?」
こちらとしては皮肉混じりの探りを入れたつもりだが、おじさんは鉄砲玉? と首を捻って何のことだと言うような顔をしていた。
それを見て思い出した。そうだった、ここは俺の前世と違うからこの言葉が通じるわけが無かった。
だが、すぐに「……あぁ、そういうことか……」と何かを納得した。
「成功しろと言う意味だ。死んでこいという意味じゃない」
「……分かった」
なんとなく救われた気がした。
「オカシラー!! 大丈夫でしたかー!?」
出ると、変態スーツの部下だった男たちが整列して、深く腰を下ろしていた。お前らは昔の暴走族かよ、とツッコミたくなる。
「うん、まあ、なんとか……」
「大丈夫でしたかオカシラ!! オカシラ!! その格好……まさか姫プレイセクハラでもされたんですか!?」
その言葉に思わずガクッとしてしまった。
てか、姫プレイセクハラって何だよ!!
すると、続々と顔を上げた部下たちが、頬を赤らめて、美しい……、かわいい……、などざわめき始めた。
こんな妹が欲しい……
こんな姉がいたら……
嫁にしてえ
おいまて流石にそれは引くぞ。自分のオカシラ嫁にしたいとかは引く。
結婚しよ……
夜とか過ごそう
もうコイツら何人か不敬罪で始末されてもおかしくねえぞ? てか誰か止めろコイツらを。
「オカシラー!!」
お、なんだ? 一人すげえ声を張り上げた奴がいる。声の主を探すが、どうも目の前のコイツらからしている気がしない。かと言って後ろの『フォロボシタン』の本部からしている訳でもない。
「オカシラー!! ここですオカシラー!!」
よく聞くと、その声は少し上からしたので首を上げると、いた。その男は、部下たちの後ろにある木に登り、枝の根元に立っていた。
前髪は全部上げてオールバック気味だが、ストライプ柄のバンダナを巻き、額にカメラのレンズのようなものを付けている茶髪で長身の男であった。
なんだコイツ。
どこか舐めた態度とる奴だな。だが同時に他の奴らとは違う強そうな雰囲気も感じる。
よく見ると、コイツは背中に何本が矢を持っている。このことから射手だというのがなんとなく分かった。
恐らく、さっきあのカミソリ変態の戦闘時に、こいつはずっと木に登るなりしていた。
だから逃げ惑う奴らの中に、この男は見つからなかった。
もしかしたら、あの戦いを見学していたのかもしれない。
だとしたら……とんだ野郎だな。男が女を見捨てるなんて、男の風上にもおけねえ野郎だ!!
……な〜んて言葉、周りのコイツらは納得するかもしれないが、この男は納得しないような気がする。それどころか、最悪の場合、軽蔑しかねない。
根拠はねえがあの人を見下げたような、薄笑いがそう言っている気がする。
「オカシラー!! どうしたんですかー!? 俺のことを見て。もしかしてこの顔にピンと来た感じですかー!? いや、カチンと来た感じですかー!?」
野郎……なら、俺がいうべき言葉はこれだ。
「ああ、来たぜ。お前の状況判断の鋭さによ」
「ほお、流石はオカシラですね。俺の能力の高さに気づくとはかなりの慧眼。脱帽です」
「だが、同時にかなりのビビりだってことも分かった」
ピシッ
ニヤけ面にヒビが割れるような音が聞こえた気がした。あ〜こいつ、典型的な強者傲慢オレ様タイプだな。こういうタイプってのは煽り耐性全く無いのがお決まりなんですわ。
「見ていて何も援護しなかったっていうのは付け入る隙が無かった。出来なかったということで、良いかな?」
おーおー、目尻がピクピクしてやがる。
こりゃよっぽど腹が立ってんな。
「あの状況で、貴方に俺の援護は必要ありませんでした。それに、なぜ俺が貴方を援護しなければ無いのでしょう。どこの馬の骨か分からない肉人形に」
相変わらずこういう奴らって本性出ると口悪くなるな。
「なるほど、あたしの戦闘に見惚れていたのか?」
「自惚れないでください。それほど貴方を過大評価していませんよ」
おーおー、売り言葉に買い言葉。
コイツ全然引かねえ。てか、今気づいたが周りの奴らが全くと目に入らない。普通、さっきまでヤンキーの尊敬の姿勢をとっていた連中だ。こういう奴がいたら、なんて口の利き方なんだと責める奴がいてもおかしくない。
しかし、今、誰一人としてあの男に注意をする奴はいない。
かと言ってこっちを見てニヤニヤするなど、舐めた態度とっている奴もいない。
全員、むしろあの弓の男の方を睨んでいる。反感をかなり買っているが、誰一人として噛み付かない。
ケッ
とつまんなさそうな顔するだけで何もしない、いや、出来ないのか?
つまり、この中であの弓の男だけ別格に強いということか?
「お前ら、いい加減にしろ」
そこで意識を逸らされた。隣に案内のおじさんが立っている。ここまで見送りに来たのか? 律儀なもんだ。
「ここでおっぱじめるな。やるならどこか別の場所にしろ。じゃないと、俺、だけじゃなくアーサア様が直接始末しにくるぞ」
これはチェックメイトだ。流石に一番上が出向いてくるなんてことがあったら、こちらはひくしかない。
いくら煽り耐性が無くても、流石にこれに反感することは無いはずだ。そんなにアホじゃないだろ。
「そうですね、分かりました」
まあ予想通り、弓矢の男は顔を元のニヤけ面に戻していた。
「申し遅れましたオカシラ、俺の名前はオヴォーと言います。よろしくお願いします」
そう名乗ると、オヴォーはつまさきを合わせて、右手を前に置き、小さくお辞儀。
なんとも気取ったポーズで、嫌味な野郎だ。絶対Sだなコイツは。そんなことを思っていると、パッとオヴォーは顔を上げた。
「すみません、先程は失礼な態度をとってしまいました。あ、さっき話しかけたのは今のような自己紹介をしたかったからなのです。いや〜お恥ずかしい限りです」
ウソつけ、今にも喉からそう声が出てきそうになった。
「それでオカシラ、どういう指令が来たのですか? 国の重役の暗殺? それとも新たな戦争の火種でも撒きましょうか? それともどこかの村や町の住民の虐殺でしょうか」
「『チェリジュン』の頭をつぶす」
しん、と静まった。それは一瞬で終わり、疑惑のざわめきがなり始める。どいつもこいつも本当なのか、正気かと言う声ばかりであった。
「それはなんの冗談ですかオカシラ」
一筋、頬から汗を流しながらオヴォーは尋ねる。おいおい、そんなに偉そうな態度しておいてめちゃくちゃビビってるじゃねえか。
「冗談でもなんでもねえ。俺らは『チェリジュン』の一番上のトップをぶっ殺せと命令が来たんだ。行くしかねえだろ」
ざわめきはまだ止まない。
「非現実的です」
やがてオヴォーの声にみな静まった。
「今の俺たちの実力であの五大組織の一つを潰すことなんてできません。そんな命令、むしろ死なな行けと言われているようなものです」
「ああ、まあそう言ったんだろうけどな」
「なっ!?」
その声にますます周りは再び、さっきより大きくざわめき始める。おいおい、周りもそうだが、なんでオヴォーまで驚いた顔してんだよ。こいつ案外情報に疎いのか?
「恐らく、上は間接的にアタシたちに死ねと言っている。それが今回の五大組織の一つ『チェリジュン』の討伐する命令だ。俺たちは死ぬことを期待されている。死んで情報として帰ってくることが期待されている。死体として」
そう、死体の傷や、どういうふうにやられてしまったのか調べるかもで相手の攻撃の武器を推測したりする手法は、この世界では使われているはずだ。
「オカシラ、まさかこの任務、死ぬつもりで引き受ける気ではありませんよね」
いよいよ余裕ない無表情のマスクをオヴォーはかぶり聞く。その答えは決まっている。
「そんなわけねえだろ」
「ではことわ
「受ける」
「なっ!?」
ざわめきが更に上る。
「何を考えているのですか!? 全員死ぬ気ですか!?」
あくびが出てくるほど退屈な質問だ。
「そんな訳ねえだろ、指令を受けて、無茶な任務をきっちり解決するんだ。それなら全て解決だ」
「何!? 馬鹿な!!」
しばらく周りは皆口々に話し合い、何か言葉を交わしている。
「そんな実力が私たちにあるとでも?」
オヴォーは不安な顔して俺を見ている。
「あるさ、それに、俺らは盗賊だろ? 何も懐から相手を突かなくても良い。相手が気づかないうちに魂を盗み取る、これほど面白いのは無いだろう?」
むぅ……。オヴォーは口に困ってしまった。何か考えているみたいだ。
お、俺、乗った!!
一人手を挙げると、そこからもう波だった。次々と俺も俺も手を挙げていた。
少年みたいに単純な奴らだ。
だが一人長い顔をしている者がいた。
「オヴォー……どうする?」
「…………のり、ます……」
それはか細く、小さな声だった。
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