第18話「まるでキミはハイエナのような女だな」
それで今こんな感じでいるが……こいつ、性格が悪すぎるだろ。何かゲーム本編より性格悪い気がするのは気のせいか!?
てか、自分の言ったことに対して、少し質問しただけで、人の話をしっかり聴いてくださいってとんでもないパワハラだろ。てかこの格好させるのも少しセクハラじゃね!?
顔が良いからって何しても許されると思うなよ!? 大体お前の歳けっこういってるの知ってるんだからな!?
「どうして、いや、どうやってクンチャを殺したのかな」
……は?
「ん? もしかしてまた人の話を聞いていなかったのかな? 答えないということは。質問もしたらだめだよ? 今度は……ないから」
瞬間、全身の毛がざわめくのが分かった。
悪寒、なのに瀑布の如く流れる汗、一瞬にして変貌した。さっきまでのどこか鼻につくイケメンはいない。そこにいたのは、例えるなら主に人間解体が趣味な殺人鬼のような狂気含む脅威を放つ化け物だった。
俺はあの時のことを思い出しながら答える。
「刀で、斬り……まし、た」
化け物の眉間の皺が深まる。
「ふ〜ん……それだけ? なわけないよね?」
「はい、えっと……音、そう、音で耳を機能させなくして」
あれ? そういえば何であの時、爆発が起きたんだ? たしか、刀を抜こうとしたら。
ふと腰につけてある刀を見る。今さらだがこの刀ってなんなんだ? あの物置の隅、黒い影に隠れて立っていた。出現場所もおかしいし未だに扱いづらい。平静を保っていないとすぐ持ってかれる。
「ん? もしかしてシカト?」
その時、ズイと化け物の顔が迫ってきた。
「いえ、その……刀を抜いたら……爆発して……その爆発音で鼓膜をぶち破って……」
だめだ、無反応のアーサアが怖くなったからなのか、途中から何を言ったらいいか分からなくなった。
「う〜んなるほど〜」
ふと、声のトーンが上がったから見ると、もうアーサアは元のいやらしい顔をした男に戻っていた。そして、顎をさすりながら俺が待っている刀を見ている。
「確かにその刀、な〜んか変だよね〜……ちょっといいかな?」
「はい」
何がいいか分からなかったがとりあえず同意の返事をした。
すると、アーサアは刀に手を伸ばしてきた。一瞬、奪う気なのかと思いそうになったが、この刀は俺以外に引き抜けないと思ったから、警戒しなかった。
すると、突然、ガッとアーサアは刀を掴んだ掴んだ。いきなりの勢いに思わずビビるが、アーサアが刀に触れたのは一瞬だけだった。
なぜなら、刀を掴んだ瞬間……。
「がっっっっっ!!!!!??」
なんとアーサアは白目を剥き天を仰ぐ。
声をかけようと立ち上がったが、その時にはもうアーサアは黒目を取り戻していた。
しかし、しばらくそのまま放心していて何も反応しない。なんか心配になってきた。
「あの……大丈夫……ですか……?」
そう聞いて、何秒か経った後、徐々に両目に焦点が取り戻った。
「…………ああ……だいじょうぶだよ」
どことなくなったりとした言い方がどこか気持ち悪かった。
「なるほどなるほど……そういうことか……」
何がなるほどなのか全く分からないが、アーサアは何かを納得したように、何回も頷いている。しばらくそうしていたが、やがてこちらを見た。
「君はハイエナのような女だな」
ハイエナ? なんでそんな感想がくるのか全く分からない。何か俺はヤバいことしてしまったのだろうか。
「あの、それはどういう意味でしょうか」
「あ〜いいいい、別に気にしなくていい。全部僕の妄想みたいなもんだし。ただそう思っただけだから」
ますます分からない、さっき刀を触った時ひ何かを見たのだろうか。
見ると、まだアーサアは自身の口に両手をかぶせて何かぶつぶつ言っている。いつまでそうしているつもりなのだろうかと思った時だ。
「よし、決めた」
そう言って口から両手を外した。
何を決めたんだ?
「フロー、キミを正式な同僚として認めよう」
……ん? どういうことだ?
「君が今いる盗賊団、そして、これからキミの盗賊団に入る元ンウチェの部下だった物は全て一つの盗賊団として任命する」
ンウチェが誰なのか一瞬わからなかったが、話の流れからなんとか、皐月の変態スーつのことだと、推測できる。
だがどういうことだ。急に任命の話になるなんて。流れがおかしい。
「どうしたんだい? 嬉しくないのかい?」
心底不思議そうな顔で、アーサアは俺を見る。嬉しがるのが普通かもしれない。だが俺はそれより何で? という疑問の方が大きかった。
「あの、どうしていきなり私を任命したんでしょうか」
すると、アーサアは両手を後ろに回し、椅子に背中を倒した。
「う〜〜ん、なんでか……まあ、あの2人……よくよく考えたら、結構邪魔だったんだよね」
邪魔? いや嘘だろ。嘘じゃないとしてもそれ本当に今思っただろ。だってそうじゃなければあの時、おれにクンチャをどうやって殺したか聞いた時の表情。あれは紛れもなくブチ切れの表情だった。薄っぺらい演技じゃなかった
だが、邪魔だったという言葉も嘘には聞こえない。どういうことか。
つまり俺に聞いた時はキレてたけど今はキレてない、みたいな意味なのだろうか。
いよいよ神のみぞ知るみたいになったが、アーサアは話を続ける。
「そんな邪魔な二人を殺したのは。本当にすごいことなんだよ。だからキミは二人の後釜、つまり代わりだ……どう? あ、もしかすると、格下と同列に語られたからかばんを損ねたかい?」
「いえ、そんなことはありません」
「そ、なら引き受けてくれるよね? 新しい傘下盗賊団として君が引き受けるって」
「はい、是非やらせてください」
社会人らしい了承の返事をかけたのが良かったのか、アーサアはニンマリ笑った。
「うん、こちらとしてもそう言われたら快く受け取るしかないよね」
なにが快く受け取るしかない、だ。さっきまで露骨に不機嫌だったくせに。
「それじゃあ頼むよ、と、言いたいところだが、どうする、名前は」
名前? ああ、盗賊団の名前のことか。
そうか、大体これまでどんな名前だったのかも覚えてないんだよな。たしか『ザコバッカ』って名前だった気がする。
「へい、フロー」
突然、人差し指が目の前に急接近。
「僕がどうか、とか、はいかいいえ、で答えられる質問とかには、なるべく速く答えてくれ。簡単な問題を難しそうに考える愚かなクソは嫌いなんだ。だから基準は五秒、それを過ぎたらキミは僕の質問を無視したと捉える。この世は他者視点が絶対だ。だから僕が言っている今分かるだろ?」
おいおい、屁理屈にも程があんだろ。
なんだよその理論、聞いたことあるけど解釈メチャクチャすぎるだろ!!
「五秒経とうとしてるけど良いかい?」
「はい、良いです!」
すると、人差し指は離れた。アーサアは満足そうに笑っている。
「うんうん、レスポンスは速いのが正義だよね」
そうかもしれないがお前の解釈は絶対悪だ。なんて言ったら死ぬの確定だけどな。
「じゃあ名前なんだけどさ、どんな名前が良い? あ、これは少し悩んでもいいよ?」
なんか腑に落ちない。なんて思っている場合じゃないか。
確か俺の名前は、フロー・ステアウェイって名前だった気がする。俺が頭だから名前を借りてつけるなら……。
「フローナイト盗賊だ……」
「この名前はどうかな?」
おい、俺の答えキャンセルかよ。質問のレスポンスにこだわるならちゃんと相手の答えを聞いとけよ。
「ん? なんか言った」
「い、いえいえなんでも」
さてと、また返事がどうたらこうたらとか言われたら面倒くさいし、見るか。
どれどれ……。
『ハイエナ』
「……あの、すみません」
「ん? どうしたのかな?」
「これ……ハイエナって書いているんですが」
「うん、そうだよ?」
「えっと……これが、名前ですか? ハイエナというのが私の盗賊団の」
「うん、そうだよ? まあ正確には『ハイエナ盗賊団』かな。どうだい? キミにぴったりだと思うんだけど」
いや自分の部下にハイエナの名前をあげるって軽くパワハラじゃねえか!?
「もしかして、不服かな?」
「いえ、ありがたく受け取らせていただきます」
くそ、そう言うしかない。
十分味わったつもりだったがこれが縦社会だった。上からの質問の答えは決まっているし、上から間接的にハイと言えと言われればハイ。イイエと言えと言われればイイエを言わなければならない。
されに反対したり、不服な答えを出したら言うことを聞かない餓鬼だななんだのとされて、評価が落ちたり、降格。最悪の場合、変な理由で馘もあり得る。それが縦社会だったことを思い出した。
自分の組織を、ハイエナと名づけるのを強制させられるのなんて、当たり前だのことだ。
「うん、気に入ってくれて良かったよ」
気に入らなかったら、俺の首をはねていたのによく言う。
「じゃあ、もう用はないから下がって良いよ」
「はい」
俺は頭を下げたがふと、ドレスが気になった。これを聴いたら裸で帰れなんて言われるんじゃないか? と思ったが、黙って行くと盗まれたなんて言われるかもしれない。
「あの、このドレスはどうしますか」
「ん? ああ、着ていて良いよ」
どうやら、俺が着ているドレスに関しては心の底から興味がないようだ。振り向かずに一言返事して終わりだ。
「それよりとっとと行ってくれ。下級人間の匂いがついたからこれから大掃除をしなければいけないんだよ。あの汚物たちも連れてってね。もうとっくに解放して、外で待たせているはずだから」
「……はい、それでは失礼しました」
俺は両手を膝につき、頭を下げた。
俺は少なくとも少し苛立ちを感じていた。
その理由は、もしかしたら部下になる者を馬鹿にされたからかもしれない。だが、それ以前にこのアーサアの人を小馬鹿にしたような態度、表情、声、仕草などが、不快で不快でしょうがなかった。
俺の実力があれば今すぐぶっ殺してやりたいが、今の俺とこいつの実力は天地の差ほど開いている。
だから、今この場では耐えるしかなかった。
そのまま扉を開ける。なぜか分からないが入る時より、扉を開くのは簡単で軽かった。入る時はあんなに重かったのに。
扉を開くと、入る時と同じ豪華な家の風景が見える。どこか暗いと思ったのは気のせいなのだろう。
小さく頭を下げて、扉を閉めた。
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