第17話 性格は服にも現れやすい
五時間後
「君は、人を殺すのは悪いことだと思うかい?」
「……分からないです」
無理矢理変にふるふわ真っピンクで、全身リボンだらけのフリフリの服を着させられたこの状況に、おれはどう答えたら良いか分からない。
「そうか、分からないか……」
そしてさっきからアーサアは、何も入っていないのにコーヒーメーカーを、じ〜っと見ている。
「賊人としてさぁ、それってどうなのかな……倫理とかいちいち気にしていたら盗賊として生きられないと思うんだけど……自分たちの与えられた生活水準の何もかもが普通未満ならさ、奪うしか無いよね? そん時にさ、他の人にとかそんなこと考える奴は、俺からしてみれば、馬鹿だよね。だって他人のためにとか言って、良い人でいたいだけの気遣い弱者だ。そんなんじゃあダメだよ。奪わなきゃ、そう思うよねぇ?」
そう言うと、ゆっくり首をこちらに向けてきた。これは同意しないと殺されることを示唆しているのが分かる。
しかし、そんなことを察する必要は無い。
「私もそう思います」
俺自身もそう思ったからだ。
アーサアは何も言わずじっとこっちを見る。嘘か本音か見ている気がした。まあ本音だから別に大丈夫だけど……いや、大丈夫か? なんか見当違いのこと考えて無いよな。
すると、アーサアは表情をフッと空気が抜けるように和らげた。
「そんなに緊張しなくていいよ」
その笑顔は、何も知らない奴、特に女ならなんて純粋そうな顔、なんて思うんだろうな。まるで王子様みたいだって。
だが生憎こちとらそこまで安い女じゃないんでね。そんな笑顔で絆されると思うなよ。
「そうだ、飲むかい?」
またも甘いマスクを被り接してくる。
なんなんだこの態度の変わりよう。
ギャップ狙って優しさチラつかせて食いつかせようって魂胆か?
こっちはお前がどんな奴か知ってるんだよ。そんな雑なマスクで喜ぶわけねえだろ。
「結構です」
「なんだ、残念」
爽やかな声を出すと、再びコーヒーメーカーの方を向く。
「奪うことこそ、人間の本質、そう思わないかい?」
今度は一体何を言い出すんだ? しかもなんか質問が抽象的すぎて分からないし。
「どういう意味ですか?」
「どういう意味? 僕にとってはそれがどういう意味? だよ」
なに言ってんだこいつ。
「奪うことが人の本質だと思うかい? そう聞いたんだけど。それの答えがどういう意味? こっちのセリフだよ。君、よくママやパパに言われなかったかい? 人の話を聞きましょうって」
どうしよう。すごくムカついてきた。
「人の話を聞かずに、同じことを聞くのは人によっては侮辱だよ? 今回はたまたま僕だったから良かったものの、僕以外だったらちゃんと怒ってくれるよ? じゃあ何で僕は怒らないのか。怒る以前の問題なんだよね。もう呆れてるんだよ」
頭から血が昇るのが分かる。なぜコイツは人の神経を逆撫でするようなことを息を吐くように言えるんだ。同じ人間として恥ずかしい。
そんなことを思ったが、その心の声は決して悟られてはならないし、声に出していってもいけない。
それほどコイツと俺の実力に差があることは分かっている。だから反抗的な態度はとらないのが吉。
「仕方ない。僕がどう思っているのか聞かせてあげようと思う」
小馬鹿にした口のニヤケが本当にムカつく。
「人は奪うことを中心として生きている。それはなにもいつも誰かの物を盗んでいるという意味では無い。そうじゃなくても僕たちは何かを奪って生きている。例えば食べ物はほとんどが動物の命を奪って生きている。動画だって何かの資材をどこかから奪って製作している。建物も同様のことが言えるよね? つまり僕たち人間は何かを奪うことでしか生きていけない。それに対して君の同意を聞いたんだよ?」
途中でそれ奪ったんじゃなくて拾ったんじゃないか? と言いたくなったがそんなことは最後の言葉でどうでも良くなった。
最後の疑問符が付きそうな言い方がすごく癪に触る。そして結局何が言いたいのか全く分からない。
「さて、そろそろ本題に入ろっか」
まともな会話してないのに、本番もクソも無いような気がするが、それは言ってはいけない。
さて、なんで俺は今こんな状況に陥っているのか。
三時間半前
俺はフォロボシタンのアジトに着いた。
「お待ちしておりました」
出迎えてくれたのはスーツのどこにでもいそうないかつい男。
「着いてきてください」
そいつに言われるがまま着いていくと、大きな白い扉がやがて見えてきた。男がそこを開くと、そこには沢山のドレスが置いてあった。
「どうぞここでお着替えください。今の貴方の格好をアーサア様は認めませんので」
俺は露わになった自分の胸を見る。次に腹を少しつねる。格好抜群のスタイルだと思うんだけどなぁ。
「もしかして、そのアーサア様って欲求不満なの?」
「……あ??」
おっと〜、めちゃくちゃドスが効いた声を出すじゃないですか〜。でも絶対コイツは俺を殺すことは出来ない。
客人を殺すのは命令違反だし、ゲームで見た時、アーサアはこういう命令無視をしたら絶対、その無視した部下を許さず殺すに決まっている。
だからここで俺を殺したら、このイカツイ男の首は飛ぶのは明白。だから今この男は眉間に皺を寄せて、すごく困っているんだろうな。
くっ、とか、くそっ、などと言葉を吐き捨てている。
「さっさと着替えろこの売女!!」
苦し紛れに女性蔑視発言ですか。この世界は、なぜこうも女を侮辱するような言葉が蔓延っているのだろうか。でも絶対このスーツ男……。
「ねえねえ、おじさ〜ん」
「あ? なんっ……おい!!」
あ〜あ〜、決定だよこれ。俺の上半身の裸見てこんなに狼狽えているなんて、絶対経験ねえよ。
この男に限っては、今度、売女とか言ってきたら、うるせえ童貞、とか返そう。
「ッチ……さっさと着替えろ!!」
なんだよ、何も言ってこねえな……だがこうも思惑通りの反応してくると……あ〜やばいな、多分女性特有のダメないたずらごころが出てきた気がする。
少しハンガーにかけてあるドレスを見る。
その中を見て、あるドレスに少しニヤけてしまった。
「ね〜え〜、おじさ〜ん」
「なんだ、あ?」
うん、戸惑っているリアクションは予想通りだ。大小はあるけど首を捻るとは思っていたんだ。
「背中のジッパー、閉めてくれな〜い?」
「うぐっ……!?」
あ〜あ〜、すごく動揺してるよ〜。かわいそうに、てか更に確信したけどこのオジサン絶対女性に慣れてないよ。
「ね〜え〜、は〜や〜く〜」
さっきからすごく調子に乗っている気がするが、仕方がない。だって少しだけ楽しいから。楽しいことはすごく夢中になっちゃうから仕方ないんだ。
ジ……ジジ ジジジ ジぃぃ……
最後に一気にジッパーを引き上げたのが、恥ずかしさを覆い隠すためなのだと俺はなんとなく予想できる。
「ほら、上げたぞ」
「ありがとおじさ〜ん」
やべえ、なんか知らねえけどめっちゃ楽しい。このまま『おじさんも私の組織に入れてあげようか?』なんて言いたくなったけど、流石にそれは調子に乗りすぎなのは分かっていたから、やらなかった。
「着替えたなら進め。いいか、お前はあくまで客人。仲間としてはみなされていない。あくまで駒だ。くれぐれも失礼をするなよ。もし失礼を働いたら、死ぬぞ」
まあ、それは言われなくても分かっていることだ。それにしても……。
「ふ〜ん、そんなに死なないで欲しいんだ〜」
「違う!!!」
本当に予想通りの反応するなコイツは。
こっちも楽しくなる。
「じゃ、行ってくるね〜」
「サッサと行け」
冷たくあしらっているのの、その男は名残惜しくこっちを見ていた。
そして俺はそのまま進み続けると、真っ白な扉が見えたから入ると、そこにアーサアがいた。
全身真っ白なスーツを着て、コーヒーをマグカップに淹れていた。こんなに真っ白な服を着てコーヒーって、付着した時のこととか考えないのか? コーヒーって結構色素濃いのに。
そう思った時、今気づいたのかクルリとアーサアはこっちを見た。そして顔をクシャッとさせて爽やか笑顔。
「や、君がフローだね。どうぞ、こっちに来て腰掛けて?」
「はい」
一歩足を進ませようとしたが。
「待った」
アーサアは突然止めた。見るとアーサアは顎に手を出して当てて目を細め、眉間に少し皺を寄せて、難しい顔をしている。
「う〜〜〜〜ん……少し、そのドレス……趣味が悪いなあ」
え? そうか? 詳しいことは分からないが、露出はそんなに多く無いはずだが。
「うん、君、こっちを着なさい」
そう言ってアーサアは全身がふわふわなピンクでリボンをつけたフリフリスカートの服を持ってきた。ドレスやゴスロリとも違う何と言ったら分からない服だ。
ていうか自分で選ぶならまだしも、相手、しかも異性が選ぶ服でこの服を着せようとするのは少し引く。
「あの、さすがに」
「時間が無いんだ速く来た方が良いというか早く着て」
「……」
有無を言わせないその雰囲気と口調に圧倒されて、俺はその服を着るしかなかったのだ。
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