第10話 幹部の威厳と奥にいた最悪の男
「なあ、何でお前らが前なんだよ」
「ちょっ、ダン……あまり刺激しないで」
「おい、何でお前らが前かって聞いたんだよこの足手まといブラザーズ」
「「ああん!?」」
「調子にならない方が良いよ。今お前らが滅多な目にあったねえのはオカシラの温情のおかげだ。ありがたく思えよガキ」
「歳上に対して失礼だろ!!」
「いや、たしかに先頭にいる姐さんなら分かるんだけどよぉ、お前らに指図される資格はねえんだが。大体お前ら俺らより弱えだろ。せいぜいザコキャラ程度の実力だろ」
「やめろお前ら」
全員が息を呑んだりビビったのが分かった。流石に主人公がすぐ調査に乗るガキだから仕方ないってのはあるが、この態度は看過できねえな。
「おい、ダン」
「な、何だよ」
「今のはどう考えても徹頭徹尾お前が悪い」
「あ!? んだとお!?」
ため息をひとつき、そして立ち止まってゆっくり顔を後ろに向ける。ダンの足がすくむ姿が見える。
だよな、そんな風になるよな。
性別とか身長とか見た目なんざ関係ねえ。
己より圧倒的な実力者が凄むような態度取ったら、やっぱ怖がるよな。俺もそうだったから分かる。
「な、なんだよ」
少し声が震えているし、これ以上はいじめないで端的に伝えよう。
「村人の救出が目的なら今の下りは不必要だ。違うか? いつ村人が無事で済まなくなるか分からない」
「グッ……」
まあ正論だから黙るしか出来ないよな。
そこで変に言い返してくるのが、真の成長できないクソバカなガキだ。
大人でも何に対しても、取り敢えず言い返すのが舌鋒力が強いことだと、勘違いしているバカがいて困る。
「分かったよ……」
分かってくれたならよろしいと思い、再び前を見て俺は歩く。
「姐さん」
その言葉に止まる。
「……ダン」
「なに?」
「アタシの名前はフローだ。お前の姐さんじゃないし、オカシラでもねえ。覚えておけ」
「分かった…………なあ」
「なんだ」
「名前は分かったけど姉さんって呼んで良いか?」
「勝手にしろ」
まあ呼び名なんざどうでも良い。再び歩くと、全員歩き始めた。
あとは何事も無く終わってくれたら良いんだけど。
そのまま俺たちは、砦の奥に行く。
砦なんて表現したが、もう周りが茶色でゴツゴツの石や岩混じりの土の地面。
これはもう洞窟と言った方が適切なのかもしれない。まあ、元々は地中に住むようなモンスターがこんな砦ダンジョン作るのが異例なんだよな。
そのまま慎重にしかし、なるべく早足で動いていると、やがて視界の奥に、開けた場所が見えた。
「あ、早く行こうぜ!」
ダンが一人先陣を切ろうとしたが、それを俺が手で行く手を塞いで止めた。
「待て」
「何で止めるん……」
「しっ」
ダンの言葉を人差し指を立てて途中で止めた。てっきり不平不満を言ってくるかと思ったが、意外にもダンは両手で自身の口を塞いで黙った。
「奥に、なんか変な影がある」
そう、奥は何故か壁に火でも焚いているのか妙に明るい。そして、その明かりに明らかに大きい人間の影が見える。しかも形からして、縛られておらず立っていると考えて良い。
「本当ですね、アレは何なのでしょうか」
ミックもそれに気付き、目を凝らす。
ゴンも、前のめりになりその姿を確かめている。
「なあ、何したんだよ。さっさと行こうぜ。捕まってる奴らがどうなっても良いのかよ」
この未来の主人公にしては頑張ってる。
後ろでボヤンがダンの服の裾を掴んで抑えているが、その必要はなさそうだ。
さっきまでのダンなら、考えなしに突っ込んで行ってもおかしくなかったが、今は頑張って抑えている。まあここは、俺の指示が必要だろう。
「なるべく気づかれないように近づこう」
四人はそれぞれ頷いた。
俺たちはそのまま足音をなるべく立てずに歩く。さて、中にいる奴が何なのか考えは必要がある。ここにはボスはいないはずだ。
ここで、未来のラスボスの魔王が出てきたとしたら、もう一貫の終わり。
全滅、若しくはダン以外は全員死亡なんて事態になる。そんな事態になるのはなんとしても避けたい。
「お、オカシラ」
「ん?」
ミックの声がしたので、振り向くと思わず目を丸くした。ミックがさっきより少し後ろで棒立ちしている。
しかも目を掻っ捌くように見開き、まばたきすら許さない。そして全身から汗が大量に噴き出ている。そして歯をガタガタさせている。これは間違いなく恐怖している。
気づいたんだ。奥にいる奴が何者なのか。
「お、おお、お、オカシラ……引きましょう」
その言葉にダンが鼻の穴をブワッと大きくして口を開いたから、それを俺が手で静止した。
「どうしたミック。あれが誰なのか分かったのか?」
するとミックは逆に、信じられないと言うように顔を引き攣らせてこう言った。
「オカシラは分からないんですか? あれが、あの人が誰なのかを」
は? もしかしてこの盗賊組織の……。
「何ごちゃごちゃ話してんだよ……いるんだろう!? そこに!!」
やばい、とっくに俺たちの存在に気づかれていた。
「おいおい、お前らよぉ良い奴らじゃねえか。聞いたことがねえぞぉ? 人を助ける盗賊なんてヨォ……もしかしてお前ら、今さら義賊ってのに憧れを持ったかぁ!?」
ぎゃっハッハッハと笑う声の主。
でも何だ? 俺はコイツを知っている。
この話し方に笑い声、ゲームの物語にいたのか……あ、まさかこいつ、サブミッションにしか出てこない敵で『フォロボシタン』の傘下組織の代表だった男だ。名前は確か
「悲しいなぁ、兄ちゃん悲しいぞぉ? クンチャ兄ちゃん悲しいなぁ」
そうだ、クンチャだ。戦闘能力がバカ高いから、一回チャージからの『あばれぶちかまし』がやばかった。あれで何回かゲームオーバーになった。
しかも、途中からHPが少なくなると、敵とか味方とか関係なく暴走状態になって攻撃を仕掛ける『あばれブッチブチかまし』が更にやばかった。
単体攻撃だがほぼ防御力を無視したような規格外の威力で運が悪いと、そこでゲームオーバーになる。
しかも確定二回行動で、三回から四回行動が時々出来るようにもなる。
ゲームの時は、クンチャの他に雑魚敵が湧き出て来たから、時々そいつらが暴走状態なら技を食らっていく時もある。
あと、自分で自分を攻撃することもあるから、そこら辺で何とか勝利することができる。
だけど運が悪いと一発でやられる四大トラウマメーカーの一人だ。
正当に進む物語では戦うことがないし、見逃してしまう人も多いキャラだ。けどコイツたら戦ったプレイヤーは二度と戦いたくないらしい。俺もある意味戦いたくない。
なんか性格とか行動、そして立ち姿が気持ち悪いんだよコイツ。
「おおぉおお〜〜い、なぁあ〜んで無視するんだよぉ〜。兄ちゃん、泣いちゃうぞぉ?」
ずるずると身体を引きずるような歩き方をして出てきた。
そこに見えたのは、髪の色はピンクと茶色が混ざっていて、前髪を全部上げている。なのに途中から髪が肩に届くほど長いからか、前に下がっている部分がありオールバックの途中で終わっている髪。
別に髪が長かったりしているのは良い。それに顔立ちは普通にイケメンで、身体も細い。
問題はその衣服の格好だ。
着ているのは白いワイシャツ一枚だけ。
それは別に良いが、なぜかボタンを一番上だけを閉めて他は全部開けている。
そして下着をつけてない。だから上半身が完全にはだけでいる格好をしているんだ。
しかと暴走状態になると、さらに衣服の体積が減る。腕の部分が切れ始め、さらに進むとワイシャツの下の部分が切れ、最後は左半身だけの裸になる。
これがまだわかりやすくマッチョとかだったらまだ大丈夫だった。中にはネタキャラ染みるかそんぐらいの話題くらいのキャラだった。
だがこいつの肉体はメチャクチャ痩せていて、腹筋なんてものは無い。しかし胸だけが何故か男性的な部分を、申し訳程度に強調させていた。
だけど筋肉に見えない。ほんの少し丸みを帯びている。それが何とも気持ち悪かった記憶がある。
さっさと倒して進ませたいほど気持ち悪かった敵が、現実となって今ここにいる。最悪の気分だ。
てかこいつら俺を知っているのか?
「無視するなんて、兄ちゃん傷つくな〜、なあ〜ミック〜」
ミック!?
隣を見ると、直立しながら手先をブルブル震えさせているミックがいた。
「またちゃあんと躾しないとなぁ〜ミック」
「あ……あ、あ、ああ……!!!!」
次の瞬間、溜まっていたものが溢れるかのように、ミックは青ざめて悲鳴のように泣き始めた。そして膝から崩れ落ちて泣き崩れた。
汚い高笑い、そしてミックの悲鳴が俺の鼓膜を揺らしてくる。
この異質な状況に、改めて危機感を抱いた。だけど、どうすれば分からなかった。
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