第9話 子供のころは誰だってやんちゃ



「おめえらなんだ!?」


 クソガキだ。絵に描いたようなクソガキだ。


「ダン君、そういう態度は良くないんじゃ……ひっ!!」


「うっせえんだよお前は!! 名前の通りボヤンボヤンしやがって!!」


 乱暴な男の子が気弱な男の子を殴っている。これイジメじゃねえか。


 思い出した、主人公の仲間で最初の男の名前はボヤンだった。それで子どものころは、いつも主人公に名前を揶揄されながら今みたいな扱いを受けていたんだ。


 ゲームプレイしていた時はそんなに気にしてなかったけど、これヤバいな。コンプラに絶対引っかかるだろ。そうじゃなければ主人公のヘイトすごいことになってるだろ。


 散々ボヤンを蹴り続けていたかと思うと、急にこっちを向いた。


「おい!! おめえらどこの奴らだ!? 俺らについてきて何企んでやがる!!」


 え、ヤバい。何かすごく警戒されている。


 下手なことはできない。ここは静かに答えた方が


「歳上に対する態度がなっていねえぞ小僧」


 え?


「まともに会話ができないゴミガキに答えることは無い。まずは会話の仕方を子宮からやり直して学んだくださいクソガキ」


 え? なんでミックがそんな態度とってんの?


「んだとおおお!?!?」


 ヤバい、今にも襲ってきそうだ!!


「ちょ、ミックミック!!」


 急いでミックの手を引いて囁く。


「お前何であんな態度とったんだよ!?」


「すみませんオカシラ、俺はああいうクソガキたちを見ると、バラバラにしたくなるタチなんです。だからつい抑えきれなくて」


「いや、だからと言ってあれは無いだろ!?」


 しかも、何気にガキどもって、ボヤンも対象内なのか?


「お前そういうのは止めろ。仮にもあれは……子どもなんだぞ?」


 危ねえ、思わず勇者とか主人公とか言いそうになった。だけど安心するべき時じゃなかったらしい。ミックの顔が曇り始めた。


「え……オカシラ、まさかビビってるんですか? その子ども相手に」


 何だこいつ、いきなり嫌な嗤い方するじゃねえか。鼻で笑って人を小馬鹿にしたよつな目しやがって。


「まあ、よく女は子どもに優しいと言いますが、オカシラのそれは生易しすぎますよ。そんなんじゃ子どもに舐められますよ?」


 こいつ、何気に女を馬鹿にしてるような発言だな。これは俺がガチの女だったら激怒してたかもな。


「だからと言って子どもに喧嘩を売るなよ」


 するとミックは肩をすくめて、かぶりを振る。


「相手の挑発に乗れば相手と同レベルと言いたいのでしょうか? それはよく聞く負け犬の文言ですよ。挑発されたり舐められたり喧嘩を売られたら圧倒的な実力を見せつけて痛めつけるのは礼儀でしょう。その言葉は戦いを好まないフリして、何とかしてでも自分の意気地なしさを誤魔化したい我が身可愛さの弱虫野郎のセリフですオカシラ」


 こいつ、言わせておけば……、いや、ここで仲間割れをしている場合じゃない。


「俺あ嫌ですよ? こんな年端もいかない風が吹けば飛ばされるような連中に舐められるなんてよ」


 だから挑発するなって……あ。


「誰がクソザコのガキだ?」


「は?」


 ブルォオオオオ!!!


 そんな効果音がなるほどの強烈なボディブローがミックに入った。


「がはぁ!! あ……ぁ……ゲボォ」


 やっぽど痛かったのか、ミックはその場にうずくまり、多分吐いた。どうする、これで治ってくれれば良いが。話しかけようと思い、咳払いをすると。


「何してんだおまええええ!!!」

 

「は?」


 まさかここでゴンが飛び出した。ゴンとミック、さっきまでそんなに繋がりがあるようには見えなかったけど、そんなに怒ることだったのか。


 今までの丁寧口調や丁寧にしようとする態度がウソのようだ。


 キィィィィン!!


 ゴンのボロボロの剣は、なんとダンの錫杖に似た杖で弾かれた。


「なっ……ぐはっ!!」


 そのままゴンは杖によって弾かれた。


 これには驚いた。確かにゲーム内で主人公はメイクでき、メインウェポンも決めることができた。


 それが後の勇者の剣などと呼ばれるようになる。そして子供の頃は、そのメインウェポンとなる武器を使用して戦っていくのだ。


 剣だったり槍だったり斧だったり銃であったり双剣やガンランサーなんてのもあった。


 その中で最も使いにくいし、あまりプレイヤーが選ばない杖を主人公のダンが持っているとは思わなかった。


 しかもそこで新たな不安も生まれる。


 実は、超低確率で子どもの頃のメインウェポンアイテムがその時にしか、手に入らない武器を使用する場合がある。


 例えば剣であれば、普通なら鉄の剣だがたまにミラクルファイトソードと云い、攻撃した時に、HPとMPと時々異常状態も回復する効果がある剣を使用する時がある。


 多分、今持っている杖はそれと同じような激レアアイテムだ。


 錫杖のような形をして、その中心に、何やらルビーのように綺麗な赤い球体の宝石が埋まっている。あんなアイテム見たことない。


「おい! てめえで最後だからな!!」


 そんなことを考えている時間を与えないってか。ダンが俺に向かって杖を向けてきた。


 くそ、ここはやるしか無いか。


「おいおいどうした? さっきの奴らに比べるとヘッピリ腰だぜ? まあ、女だから仕方ねえかもな?」


 っつーかさっきから、女だからとか、流石の俺もちょっとカチンときた。


 チャキ

 

 いつでも刀を取り出せるように、柄に手を当てる。ダンは舐めているのかニヤニヤしている。その時だ。


「だ、ダン君! 気をつけよう!」


 ダンの横からボヤンが出てきた。


「あ、あの人の武器、なんかやばそうだから女だからといって油断せずに行こう!」

 

 立ち、流石に二体一はきついか?


「俺の邪魔すんじゃねえよ!!」


 しかし、ダンはボヤンを払い除けるように、片手を前にする。


「なに勝手に混ざってやがる! こんな奴、一対一で十分だっての!!!」


 は? それは無いだろ。


「最低でもお前の助けは必要になってない。これは俺一人でやるべきもんだ」


 大丈夫か俺、勢い余って殺してしまわねえか?


 そんなことを考えていると、戦いの火蓋は切って落とされた。


 

「モエル!!」


 は? いきなり魔法攻撃? しかもこの呪文は炎の中級魔法。プロローグで持ってるべき魔法じゃない!! 咄嗟に左に移動しモエルを避ける。

 

 俺が避けたのが予想外だったのか、ダンの顔が少し歪む。


 そのままモエルを連続で唱えていく。


 だから俺はそれを交わし続ける。するといきなりダンが近づいてきた。そして、次の瞬間、コマ送りしたかのように、素早い動きで切り掛かってきた。


 この技は『れんぞくぎり』だ。


 素早い動きで相手に一瞬で二回切りつける。その動きがあまりにも速いからその技名になった。

   

 ゲームで何回か見たことあるから覚えていてよかった。


「は!? これ躱すか!?」


『れんぞくぎり』を躱されたのがそんなに驚くことだったのか、明らかにダンが動揺している。


 チラと見えたが、ボヤンは目を見開き、前の二人も信じられないと言う目で俺を見ていた。何はともあれこれはチャンスだ。


 刀を取り出した。その途端ダンはギョッとする。まあ無理もない、自分の技が避けられてしかもこんな黒くて赤い刀なんて見たことないのだろう。明らかに動きに隙ができた。


 そのまま、俺はダンに突っ込む。


「は、ハゼル!!」


 その瞬間、周りが爆発に追われる。

 これは、この世界のこと何も知らなければ初見で躱すことはできなかったかもしれない。だけど、知っていたから伏せて交わした。


 勝利を確信したいのか、ダンは辺りをキョロキョロ見渡している。


 その姿はやはり子どもであることを物語っていた。

 

 俺は立ち上がり、素早くダンに再び一直線に突っ込む。慌てているのか、ダンは俺の姿に気づかない。


「ダンッ!!!!」


 ボヤンが叫んだ時にはもう遅かった。


 俺はダンに刀を振るった。


「くっ!!        ん?」


 ダンが目を開けると、そこには自分の胴体に刀身を当てている俺が見えたはずだ。そして自分の胴体が、切り離されていないことに対し、不思議に思っていることだろう。


 俺が刀を引くと、自分の胴体の部分を触っているのだから。


「お、お前、どういうつもりだ」


 解せない気持ちと、負けを認めたく無い気持ちが混じっているのか、ダンは歯を食いしばり睨みつけて問いかける。

 

「あのな、話聞けって。アタシたちはここの近くにある村からお前らも助けるよう言われたんだよ」


「あ? 何でアイツらが俺たちの心配すんだよ。村人は俺らが助けるって言ったのに」


 多分、まだ疑っているなこりゃ。


「君、村の人の話とかろくに聞かずに去っていったでしょ。村の人が困ってたよ、大変なことを引き受けさせてしまったって」


「……ッチ」


 どうやら覚えがあるようだ。舌打ちすると、罰が悪そうに顔を背けた。


「まあ何にせよ、これで落ち着いたと思うから、後は村人を助けるよ。お前らもそれで良いか!?」


 俺は後ろでやっと立ち上がった二人に問いかけた。二人とも渋い顔で頷いた。


 やっぱりこの世界の男性、特にこういう賊の男は女や子どもに負けたり舐めた態度をとられると許せなくなるのだろうか。


 俺にはあまりよくわからない感覚だ。


「……だ」


「ん?」


「言っておくがここのボス倒したのは俺だからな!! お前が倒したわけじゃない!! だから俺より上だなんて思うなよ!!」


 まあ、この主人公は女であってもこの性格なのは変わらないと思うがな。

 

「分かった分かった。それじゃあ、先に進んで村の子どもたち助けるぞ。お前らも行くぞー!!」


 なんとなく気まずかったから、俺は先に進んだ。


「おい待てよ!!」


「ま、まって!」


「「待ってくださいオカシラ!!」」


 後からアイツらがついてくる声が聞こえた。これでとりあえずチュートリアル的な所はクリアーしたのかな、とこの時は思っていた。


 まさか、奥に進んだらあんなことになるとは思っていなかった。

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