第8話 主人公に遭っちゃった


 少しさっきのが引きずってしまっている。

 

 不安だ。なんかコイツら見限っているんじゃないか、なんて不安が襲ってくる。


 チラと左を見ると、委員長はキョロキョロと辺りを見渡している。


 まあこいつは大丈夫そうだな。

 

 チラと右を見ると、イケメンはゆっくり俯瞰するように辺りをじっくり見渡している。


 なんか見事に動と静を感じさせる二人だな。両者個性が全く正反対だ。


 でもイケメンの方がどこか賢そうに見える。


「なんか異変あったか? いけ……」


 今更ながら気づいた。俺コイツらの名前まともに知らない。名前、聞いた方が良いか?


「どうしましたオカシラ」


 う〜ん、そうだよな。心の中でもイケメンって呼ぶのはちょっと失礼だよな。あとなんかよく分からない劣等感が出るし。


 ちょっと怪しまれるかもしれないが、今までのリーダーを考えると名前を知らなくても問題無いようにも思える。


「いや、そういえばお前らの名前ってなんだったかな〜って」


 大丈夫か? 怪しまれないか?


「あ、な〜んだ。そんなことですか。僕はミックです。アルヴィン・ミック。よろしくお願いします」


 良かった、怪しまれてない。爽やかスッキリ笑顔で答えてくれた。


「私の名前はゴン・ガググーラです! よろしくお願いします!」


 まあコイツはそんな気がした。でも万が一のことがあるからひとまず安心。


 それにしても、この二人は言葉を交わせば交わすほど何で盗賊団にいるんだろうと思わされる。


 まあ言葉遣いが丁寧の盗賊だっているだろと言われたらそうなんだが、なんせあのここがザコボッコの盗賊団なだけに謎だ。


 それにゲーム本編のプロローグにも、この二人はいない。まあ雑魚敵で盗賊団員Aとか盗賊団員Bとかの表記だったのかも知れないが。


 でもこの二人ってそんな扱いで良いキャラじゃないと思うんだけどなぁ。でも、それは今ここにいるからそう思うのかも知れない。


 何も知らなければボロボロシャツに、バンダナの絵で統一されても違和感は何も無い。


 そう考えると、この二人もそうだが、外で戦ってくれているアイツらの存在を認知していないのが申し訳なくなってきた。


 これからゲームやる時、安易にザコ敵を無碍に扱わんどこ。もうやる機会は無いけど。


「オカシラ」


 その時、いつの間にか前に進んでいたミックが俺たちの前に左手をかざした。


 声をかけようとしたが、この真剣な表情、間違いない。敵が近くにいる。


「耳を覚ましてください」


 耳? 

 言われた通り耳を覚ましてみると……。


 キィン    キン キィィン……!!


 聞こえる、何か硬い物同士がぶつかり弾けるような音が聞こえる。ん? ちょっと待て。

 

 キイィン……〈くそ、なんだよこいつ……〉……〈うわあああ……〉


「あ!!」


 思わず隣を見ると、ゴングも俺と同じく隣を見たから、顔を見合わせた。


 いた、たしかに人の声が聞こえた。それも子ども声だ。あの性格は間違いない、主人公の声だ。


「間違いない、先に着いた子どもの声だ。きっと村長が言ってた子どもたちだ」


「そうなんですか? 罠の可能性も」


「いや間違いない。アタシを信じろ」


 少しミックは逡巡していたが、やがて仕方なしと頷いた。


「分かりました。行きましょう」


 

 

 走り出して数秒後。


「「うおあああ!!」」


 キィィィィン!!!


 うわ、なんか主人公たちがやられそうな雰囲気の声を出している。速く行かないと間に合わない。


 カタ カタカタ カタカタカタカタカタ


 ん? なんだ、腰についている刀が震えている。なんか様子がおかしい。でも刀の様子を見ていたら、その間に主人公がやられてしまうかもしれないし……。


 ガタ ガタガタガタ!!   ピチャ


 ん? 何この水の音は。


 ピチャ ピチャ ピチャ    ピチャ


 なんかが垂れている? しかもこの臭い……。不安に思い立ち止まり刀を見ると、鞘の鋒の部分からポタポタと血が滴り落ちているのが見えた。


「は!? は!?! は!?!?」


「どうしたんですかオカシラ!!!!!!」


「ゴン!! なんか刀から血が垂れてきたんだけど!!」


「なんと!! 気持ち悪い!!!! 捨てましょう!!!!!!」


「いやこれアタシの武器!! 捨てられないよ!!」


「いえ!!! 捨てましょう!!」


「嫌だ!!」


「あの二人とも落ち着いてください! そんなに叫ぶと……」


 あれ? 今気づいたけど物音が消えた?


 さっきまでキンキンと金切音とガンガンと破壊音が耳つんざくほど聞こえてたのに一瞬で消えた? なんか嫌な予感がする。


  トントントンドンドンドンドンドドドドドドドドドドド!!!!!!


 ギャオオオオオオオズ!!!


 やばい、なんかデカイ顔が三つ付いたドラゴンか虫なのか分からない茶色いボスクリーチャーっぽいのが来たあああ!!!


「逃げるぞ!!!」


 そんなこと言うまでもなく、私がそう言った時には、全員足を動かしていた。


 ギャオオオオオオオ!!


 咆哮しながら壁や通路の地面を削りながら前進してくるなんて怖すぎる。なんて凶悪なんだ。


 チラと後ろを見ると、足が蜘蛛のように多く形も似ている。胴体がすごく太く、あれを丸ごと斬るなんて輩がいたら間違いなく剣豪として優秀。そして上には巨大な顔が三つついている。どれもパーソンワームと同じような顔だがデカイ、デカすぎる。なんかレーザーとか出してきそうで怖い。


 あんなのゲーム本編にいたか? いや、今そんなことはどうでもいい。さっさと逃げなければ。


 再び前を見て全速力で走ると、スゥゥゥ、と空気を吸うような音が聞こえてきた。


 嫌な予感がし、後ろを振り向くとそこには、そのボスクリーチャーの3つの顔が大きく息を吸い、喉いっぱいにその吸った空気を溜めているのが見えた。


 まずい、あれが何をするのか俺には分かる。二人に知らせないと。


「二人とも顔つけろ。後ろからレーザーとかの光線が来る可能性がある!!」

 

 それを聞き二人も後ろを向いた。


「まずい!!」


「更に全速力でいきましょう!!」


 そのまま俺たちは全力で逃げる。

 

 スゥッ!!!


 急に呼吸音が止まった。間違いない、来る!!


 後ろを振り向くと、見えた。三つの顔が少し上を向いているのが。レーザー攻撃じゃないのか?


 ブッベェ!!!


 音がした後、それは俺たちの進行を止めようとするように、前へ、あるいは俺たち目掛けて飛んでくる。


 その音は吐瀉特有の音であった。

 つまり、三つの口から胃液なのか溶解液なのかは不明だが、その類いの攻撃だった。


 ベタベタと茶色の固まりが周りに落ちてきて、異臭と汚い液体を撒き散らす。そして、それが落ちた地面が、ジュウウウ……と焼かれたような音を出していることから、地面を溶かしているのが分かる。


 レーザーとかもキツイけど、こういう罠設置する系も嫌だ。というか今に関しては当たったら溶けるとか死ぬとかじゃなくて普通に臭そうで嫌だ。なんか肉しか食ってなさそうだから息とか胃の中とかが尋常じゃないほど臭そう。そんなの絶対食らったらやだ。


 チラリと振り向くと。


「ウソだろ!? もうこんなに近づいているのか!?」


 罠に溶解液に気を取られすぎたからか、足音が大きくなっていることに全く気づかなかった。それに気づいていれば、今、先ほどよりも自分たちに近づいているのに気づいていた。


 もう少しで、手を限界まで伸ばせば届きそうな距離に届いてしまう。まずい、これは間違いなく絶体絶命のピンチ。


 刀……使うか?


 そう思った時だ。


「ンのぉ〜、いい加減こっち向けやこのデカブツ!!」


 聞き覚えがあるやんちゃな男子の声が聞こえてきた。


 ズサッ


 同時に何かが刺さった音が聞こえた。


 するとボスクリーチャーが急に止まる。


「待て、なんか様子がおかしい」


 俺はそう言って止まる。後ろの二人も同じく止まった。


 俺たちの視界に、ボスクリーチャーが無表情で静止しているのが見える。何か異変が起きたのだろうか。そして……


 ヴォオオオオオオオオ!!!


 空気をビリビリさせるほど大きい雄叫びを上げ私たちに背を向けた。


 そのまま叫んで大暴れしている。


「何をしているのでしょうか」


 ミックと同じく俺たちも狂乱したようなボスクリーチャーの様子を見るしかない。


 しかし、だんだんボスクリーチャーの騒音に混じり、金属音、そして少年の小さな悲鳴や挑発が聞こえてきた。


「オラオラオラオラどうしたどうしたこのデカブツぎよおお!!」


「ひっ! あ、あの、あまり挑発しない方が……」


「うるせえ!!」


「ひっ、すみません!」


 まるで漫才をするかのような言葉の応酬と金属音が聞こえてくる。これは間違いない、主人公たちがボスクリーチャーと戦っているんだ。


「そろそろこれで決めてやらぁ!!」


 ハキハキした声が聞こえた時、ボスクリーチャー越しに赤い光が放たれる。そして次の瞬間。


「オラァア!!」


 ドッッッッッッッ!!!!


 爆発音と共に砂煙が辺り一面に舞い視界が見えなくなった。それどころか砂煙が目に入りそうだから両目をつぶった。


 数秒後、目を開けるとそこには、先ほどまで暴れていたボスクリーチャーがうつ伏せに倒れているのが見える。


 そして、ゲホッゲホッ、と乱暴に咳き込む音も聞こえた。


「うえっ、砂が入って気持ち悪いんだよくそっ」


「ダ、ダン君、あの技は派手すぎるからこんな狭い通路で使うのは良くないかも」


「うっせ!! 勝てたから良いだろうが! いちいちビビるんじゃねえよおめえは!!」


 あ、主人公たちが見えた。そう思った時

あっちも俺たちに気づいた。


「あ? お前らなんだ? まさか新手の敵か?」


 一気に血の気が引くのが分かった。

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