第7話 オカシラの威厳
肝心なことを聞くのを忘れていたのに気づいたのは、村から離れてしばらくなことであった。
「あ〜やべぇ、あ〜」
「オカシラ!!! どうしたんですか!!」
真っ先に委員長が俺の異変に気づいて声をかけてきた。
「パーソンワームはどこに向かって行ったのか聞くのを忘れたんだ」
「なるほど!!! それは由々しき事態ですね!!」
「うん、悪いが少しトーンダウンしてくれないか?」
少し声が大きすぎる。
「う〜ん、恐らくあそこだと思います」
そう言ったのは右隣のイケメン。
指差した方向を見ると、そこには土で出来たのだろうか、茶色い砦のような建造物があった。
そうか、たしかパーソンワームとかの巣はああいう造りをしていた。なら、あの中に攫われた子どもたちがいる可能性は高い。
そして恐らく、もう未来の勇者、もとい主人公が侵入している。これは人間を捕食している暇なんて無い。そうだとしたら、攫われた子どもたちはまだ無事だ。無事を祈るしかない。
「よし、あそこに進むぞ」
俺がそう言うと、全員、聞き分け良く頷き従う。しばらく歩いていくと、砦が近くで見える距離まで近づいた。
さっきまでいた所よりも、やはり近くに行くとその大きさに驚くばかり。
現代にいた時の高層ビルとはまた違う大きさを感じる。なぜか全体的に威圧感や禍々しさを感じてしまう。
多分、高層ビルは別に災害対策はしているが、盗賊団などの荒くれ者たちの住処というわけじゃなかったから、威圧感や禍々しさはなく、そのかわり癒しも神々しさも無い質素な造りだったんだと思う。
だがこの砦は、モンスターのアジトだ。
やはりそれなりに入らせないようにするため凶悪さを際立たせた造りだ。
だが良いのか? そんな造りで。
これじゃあまるで何かやましい物やましいことをしていますよ、と言っているようなものだぞ?
だけどここは異世界、そういうのを見れば宝の匂いがしてきてワクワクしてくる。
それが冒険者の性というやつだ。
まあ俺たちは盗賊だけど。
少しだけ子どもたちのことを忘れていた。
目の前の怪しいダンジョンからする宝の匂いに釣られて忘れそうになる。けど忘れるわけがない。
「お前ら、今からこのダンジョンの目的を表明する」
突然こんなことを言い出した俺を、後ろにいる部下たちはどう思うのだろうか。何か変なものでも食べたんじゃないか? と思ったんじゃないか?
はは、その可能性はあるがそれは前世の学生時代までだ。今はバリバリに当たり前のことを言うつもりだ。満を持して後ろを向くと、やはりキョトンとした顔をしている。まあそれで良い。
「アタシたちは盗賊だ。盗賊ってのは全て奪う者のことを言うんだ。そうだろう? だから、全てを奪う。パーソンワームのこの砦で子どもたちもパーソンワームの宝も何もかも根こそぎ奪ってやろうぜ!!」
ほんの一瞬、部下たちは顔を見合わせたが、すぐにそのキョトンとした顔がみるみる内に興奮の色に変わる。
ウォオオオオオオ!!!
そうだ!! やってやりましょうオカシラアアアアァア!!!
全く、コイツらは一々雄叫びを上げないと気が済まないのか? それにしても大分、盗賊としたら板についてきたような気がする。
侵入者!! 侵入者!! 侵入者を発見!! くりかえす!! 侵入者!! 侵入者を発見!!
あ、なんか機械的なサイレンの音と声がする。なるほど、そういうセキュリティ魔法も設定してあるのね。
ゲーム思い返してみればそんな魔法あったわ。よく、スニーキングとかそういう類の所であったなぁ。なんて言ってる場合じゃない!! 急いで……。
ギギギャーーーーギギ!!
ギギギャーーーーギギ!!
ギギギャーーーーギギ!!
ギギャーーーース!!!!
あ、なんか夥しいと表現するのが適切なほど、沢山出てきた。
「てんめえええらなんだああぁあ!?!? 今日二度目の侵入者なんて聞いてねえぞ!!?」
「あのガキどもと一緒にゲリクソにしてやろうぜあああ!!!!」
「そうだなぁあ!! 所詮人間なんざ、クソにたかる蝿よぉ!! 食べられるだけありがたいと思えやあゴラァァア!!」
うわ、すっげえガラ悪い。じゃなくてこの状況はまずい。
コッチはまともな武器が揃っていない。
人数も相手の方が多い!! これはどう見たって不利だ。ここは退却した方が。
「お前ら!! ここは……」
ゴォオオオオオオオオ!!!!
ギィャーーーーーーーーーーー!!!
え? なんだ? 何が起きている?
なんかコイツら火を吹いてるけど何が起きた?
「オカシラ!! 皆言われずとも分かっております!! ここは焼け酒を用いるコイツらに任せましょう!!」
委員長が自信満々に言っているのを聞いて気づいた。
『焼け酒』
これはよく焼酎と間違えられる道具である。あまりにもアルコールが高くて、なんらかの補助魔法が混ざった結果、呑んだら火を吹けるようになる酒だった。火を吹ける代わりに酒に強くない者が飲むと、しばらく何も味をまともに感じないことがある。よっぽどの物好きでなければこの酒を美味く感じることは無い。
てか普通に不味い。もちろんアルコール度数は激高。子どもに呑ませたら死ぬ確率大(大人でも適量以上呑んだら死に至ることがある)なので、呑むのは危険である。
正直、こんな作戦を俺は考え付いていない。たまたまこの盗賊団が持っているアイテムだった。
そうか、たしか不味いし危険だからこの
『焼け酒』は他の酒より安いんだった。
まあ、売り場も少ないけど。
「オカシラ、先に進みましょう!」
イケメンも先に行くのを促した。
「あ、ああ!! そうだな!!」
行くぞ、と先を進みながら思うことがあった。
そうか、アジトを出た時からちょくちょくとこの二人が話しかけていたがなるほど、そういうことか。どうやらこの二人が頭領の右腕左腕らしいな。
まあどっちが右腕でどっちが左腕かわからないけど。
俺たち三人は、走り続けて砦の中に進む。
そしてそのまま突っ切って行こうと思っていた。そう、思っていたんだ。だがそれは出来なくなった。
「あ〜……そりゃ、そうだよな……」
入り口に入ってすぐの所で俺たちは止まってしまった。
そこには、多くて一列四人渡れるほどの通路が伸びる。だがその通路は建物の壁と壁の間の一部の床に過ぎなかった。
その通路の両脇には、真っ暗な穴が見える。それに加えて、振り子のようにギロチンが左右に揺れている。
間違いなくトラップである。
しかし、少し様子がおかしかった。
なぜなら左右の壁に矢が突き刺さっていたり、時折、地面にも一本の矢が刺さっているのが見える。
これは間違いなく誰かが通った跡だ。
そしてそれは間違いなく主人公だ。
未来の勇者御一行がこの通路を通った証拠だ。しかもこの様子だと、丁寧に罠を全部発動させていったと見える。
地面、そしてギロチンや矢が突き刺さっている壁や床付近に血痕は無い。
もしかして罠を全部発動させたのに、一回もダメージを喰らわないで通ったってことか? おいおい、あいつらどんだけ強いんだよ。
こりゃ序盤の中ボスがザコボッコだったらやられてるわけだ。
「オカシラ、ここはどうしますか?」
「時間は無いがここは慎重に一人ずつ行こう」
まあ二人がどう思うか分からないが、ここで一人で行くのを言い出した俺が、コイツらに先に行けなんて言うのはリーダーとしてどうなの? てなるから俺が先に行こう。
「まずは俺から先に行って良いか? 罠とかも確かめなければならないし」
流石に先に行って置いて行くことは考えないだろう。
「はい、賛成ですオカシラ」
イケメンは快い返事を、委員長はうんうんと十分納得ているような笑顔で力強く頷く。
コイツは暑苦しいな。
「よし、行ってくる」
よし、まずはあのギロチンが気になるな。
左右の振りは速くないが、それを逆手にとって油断させて罠を仕掛けている。
全く、なんていやらしい真似をしてくれるんだ。
まあいい、大体の罠の位置は分かってるし、ここはギロチンに注意して進めば……。
ギュン!!!
……あっぶね〜〜!! 思わず背筋思いっきり伸ばしちゃったよ!! めっちゃビビッた!!
進み始めて一歩目、地面から鉄の床槍が飛び出してきた。
いや、ホンットすみません。舐めてました。
異世界のダンジョン舐めてました。
いやらしいなんてものじゃありません。
意地が悪すぎる!! 初めから殺しにかかってるじゃん!!
「「オカシラ!! 大丈夫ですか!?」」
あ……やば……今リーダーとして少しやっちゃいけないこと考えちゃった。これやったら威厳も減ったくれも無くなる。下手すればザコボッコより威厳が無くなる。そんなこと考えちゃった。
コイツら先に行かせたい……コイツらで罠がどこにあるか確かめてもらいたい。
でもあんなに自信満々で先に自分が行くとか言っちゃったから、今更替わってとか言いづらすぎる。
どうしよう……どうしよう……。
「オカシラー、替わりましょうかー?」
「お願い!」
やっぱ良いわ!! 男は顔とか筋肉とかじゃない!! 気遣いが一番だわ!!
「えーと……まずこれは……ここに槍があって……あ〜……お、やっぱり通路の側にちょっとスイッチめいたものがあった。やっぱモンスターが作ったダンジョンだからこういうのはありがちなんだよね〜……じゃなきゃ自分たちが入れない可能性あるし。こっち、こっちも……っと……まあ、あとは確認しながら……よし、着いた」
アイツが通り終わった時には、もうギロチンの罠でさえ発動していなかった。
「オカシラーー着きましたーー。もう罠も発動しないと思いますよ〜」
「…………うん、分かった」
うん、俺さっきのお前の言葉とか聞いた上でなんて反応すれば良いのか、まるで分かんないんだが。
でも叱ったり怒れない。なぜなら罠を解除してくれたから。
「じゃ、じゃあ行こっか」
「はい!! オカシラ!!!」
うん、なんかこの気張り具合が和みになってしまうとは思わなかった。
そのまま俺たちは先に進んでいく。
「この先に主人公がいるのは明白だ。急いで行こう」
一抹のモヤモヤを抱えながら、俺たちは先に進む。
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