第6話 ここで未来の主人公と絡んどこ
散乱する食べ物や道具、木の破片や石材の破片、ボロボロの破れた衣服、汚れた毛布や枕、生気を失い下を向く人々、泣き叫ぶ子どもたち。
辺り一面が砂嵐にあったのか、そこらへんに砂の山が散乱している。
これが今のブサ村の現状だった。
「え、な、何があったんだ」
部下たちは慌てる。俺も慌てそうになったが、よくよく思い出したら、本編が始まった時、ブサ村なんて村は無かった。
さっき聞いた時に気づいておけば良かった。アゴ村もブサ村も本編で一度も聞いたことがねえ。てことは二つとも無くなっていたんだ。
「ああ、旅のお方ですか?」
村長なのか、顎に長くて白い髭を生やした初老の男性が目の前に来た。
旅というよりもと俺たちは盗賊なんだが、それは言わない方が良いというのは、誰にだって分かる。
「いえ!! 俺たちは盗賊だ!!」
バコッ!!
何言ってんだこのバカ!! 誰だか分からないが、思わず左隣の奴を殴っちゃったよ!
「何するんですかオカシラ!!」
おいバカ!! まだ分かんねえのかよ!!
なんか見た目は委員長とか言われそうなシャキシャキした顔しやがって。
「いえいえ、良いんですよ旅のお方。いえ盗賊方。ここにはもう何もないのですから」
何も無い。確かにそうだ。周りには泊まるどころか物資とか食料とか何もかもが足りない。この場所に用がある奴はいないと 言っても過言じゃない。
でも、少し事情を聞いてみた方が良い。
「あの、ここで何かあったんですか?」
俺が一歩前に出ると、その男性は少し身を引きモジモジし始めた。何だ? 何か怖がらせてしまったか? そうか、村がこんなになって盗賊なんて恐怖の対象に決まっている。
「あ、すみません。惨事に盗賊など来てしまいましたら、そりゃ困りますものね」
「い、いえ!! 違います!!」
やはり怖がっているのか、男性は慌て始めた。
「そ、そういうわけではありません!! ただ……」
「ただ?」
するとその男性は、ポッと頰をほんのりと赤らめて目をつぶり、かぶりを振った。
「そ、そなたのような女性を見たのは久しぶりでな。ちとワシには刺激が強くて……」
いや思春期かよ!! あんたいくつだよ。
「と、ともかく、刺激が強すぎるだけで恐れているわけでは無いからの。少しだけ離れるぞ?」
その男性は、そ〜っとこちらからほんの少し離れていく。多分、この距離じゃないと落ち着かないということなのだろうか。
「あの、こちらで何があったのですか?」
「…………ん? すまん、もう一度話してもらえんか?」
「……あのぉ、こちらで何がぁ、あったのですかぁ!」
「…………あのよぉ? あの世こちらで間違いないでがすってか?」
「拉致が開かねえわ!! 近づくぞ!!」
俺がズンズン進んで行こうとすると、その男性は「はわわわわ」とあたふた慌てている。
いや、あんたのその慌て具合は全然需要が無いからな? ドジっ子長老って属性が何で無いかって分かるよな? 需要がないからだぞ? だからそのはわはわするのやめい!
「オカシラ!!」
うおっ、びっくりした。
急に大声出すなよ。振り向くと先程、委員長めいた部下がキッチリカッチリ物事決めそうな顔をしていた。
「オカシラ、突然近づいてしまってはこの御老体の身体に悪いです。オカシラが近づいて突然の心拍数の上昇で心筋梗塞になってしまいましたら厄介なことになります。ここは慎重にことを運ぶべきかと」
お、おお……面倒くさいけど確かにその可能性は否めない……若干不安症過ぎないか?
てかコイツめちゃくちゃ気を違うんだな。
なんで盗賊になってんだろう。どう見ても取り締まる側の性格と顔だろ。
「お、お主、この距離なら大丈夫だ。しっかりと聞こえたぞ」
「おお、そうか」
「ああ、ついでに彼にこう伝えてくれ。誰がミイラ寸前の皺くちゃ老人だ!! とな」
「お、おお」
誰もそんなこと言ってねえだろ。
「大変失礼しました!! 申し訳ありません!!」
お前は耳元でいきなり声を張り上げるな。
アイツよりまずこっちが心臓麻痺とかになるわ。
気を取り直して、話を聞く。
「突然のことじゃった。今が昼だから3時間ほど前じゃろう。朝方にまだ全ての住民たちが畑仕事など、いつもの仕事をし始めた時じゃ。パーソンワームの群れが襲ってきた」
パーソンワーム、たしかこのゲームのモンスターでランクがD級だったはず。でもそれは単体の話で群れを成している時のチームワークは良く、下手するとCやB級に及ぶ可能性もあるモンスターだ。
「あっという間じゃった。ワシらの家や店を根こそぎ荒らし、村人や中には子どもも拐われもしてしまった。これほど情けないと思ったことはない」
そんなに速かったのか。俺が想像していたより統率力が強いな。
「それはまた……妙な話ですね」
お、さっき行く時に話した右隣の男、イケメンが反応した。
「パーソンワームはあまり知性が高くなく、チームワークが高いところがあったとしてもやはり村一つを素早く制圧するのは考えられません。もしかしたら別のモンスターの可能性はありませんか?」
「あり得ませんな、あれは確かにパーソンワームでした」
返答が早いな。それに妙に冷たい。もしかしてイケメンに対してあまり良い思いが無いのか?
だが確かに同じモンスターと見間違えることがあってもおかしくない。
例えば今のパーソンワームは茶色いが似ている身体のモンスターにはレッドガイワームという赤色のモンスターもいる。
ちなみにレッドガイワームはパーソンワームより、凶悪で強いモンスターだ。
色だけで全然違うから現地の人からすると、ややこしいのかもしれない。
「ともかく、あやつらはワシらの村を荒らしてしまった。そして、ああぁ……何ということじゃ」
なんだ? 突然、物憂げに頭を抱え始めたぞ。
「ここをさっき子どもたちが来てな。俺たちがやっつけてやると言って、パーソンワームを退治しに行ってしまったんじゃ」
は? 子ども? しかもその子どもって
「あの、その子どもって頭になんかバケツみたいなの被ってませんでしたか?」
「ん? ああ、かぶっておったな」
「あと、もう一人は髪型がボサボサでモジモジしてキョロキョロしている男の子じゃなかったでしたか?」
「おお! そうだあったぞ!! お主、もしかして知り合いなのか!?」
そうだというわけじゃないが……う〜ん。
「そうなんですか!!? フローの姉御!!」
ちょ、ちょっと委員長は暑苦しい。
「まあ、少しだけ有名なんで知っていまして。あはは……」
なんか理由、微妙かな。
「ふむ、そうか……できればあの少年たちの手助けをしてほしいのじゃが……お主たちは人数も多いし……」
まあ、確かにそうだがコイツらが納得するかな……後ろを見ようと思ったけど、なんか今ここで部下の様子を伺うのは頭領として情けないような気がするから出来ない。
「礼はできる限りしていきたい。まあこの有様じゃ。せいぜいギリギリで一日の宿泊スペースを村全体使用することしかできんが」
まあ、それだけでやる気に満ち溢れるわけは無いよなぁ。だって盗賊だし。
「もし、足りなかったら……ワシのお守りをやろう。これは一つで百万あたりはするじゃろう」
そう言って村長は、どこからかネックレスを取り出した。それを見て驚いた。
そのネックレスは『堕天女神の涙』という激レアアイテムだった。晴天の青空と雷鳴轟く暗黒の雲が重なったような、神々しくも禍々しくもある宝石であった。
売れば百万なんてもんじゃない。
人生最低十回分の資金を得られる。
まさかこんな所で会うとは。
「これで……引き受けてくれないか……もうワシのような老獪にはこれが限界でな」
顔を見なくても分かる。村長がどんな思いでそのネックレスを渡そうとしているのか。
「……村長、手、震えてるぜ」
「ぬ、お、おお、そうか……はは……見苦しいものじゃな。誰かを助けるために何も力になれず、何かを捨てることも躊躇うなど……」
「そうか、なら……」
俺はネックレスに手を伸ばし、そして村長の手を握った。
「お主……」
「じいさん、アンタそのネックレス。もしかして自分の命より大切なもんじゃないか?」
「それは……」
バカやろう、答えなくても分かる。
こんなにレアなアイテム、いや……。
「こんなに美しい宝石、どこを探してもねえよ。大切な物、なんだろ。何よりも大切な」
「お主……分かってくれるのか?」
「分かるさ、答えなくても。その宝石は本当に珍しいし、それに、それを手放そうとする今のあんたの顔が今にも泣きそうだからな」
村長は息を呑む。先ほどまで視力の低下なのか、あまり開かれていなかった目が開かれた。驚愕に満ちたその顔は、どこか喜んだいるように見えた。
「大切なモンは、離すな」
村長の手を一本一本、堕天女神の涙に触れさせた。
もう俺の心は決まっていた。
「野郎ども、あたしの心は決まった」
後ろを振り向いたが、コイツら、なんだよ、いい顔してんじゃねえか。
「ついてきてくれるか?」
ウォオオオオオオ!!!!!
戦いの雄叫びと咆哮がなる。
もう全員、心は決まっていた。
「行くぜヤロウどもおお!!!」
ウォオオオオオオ!!!!!!
叫ぶ頃にはもう俺は歩いていた。
まあ、ここで未来の主人公と何か絡みとか恩とか作っておくのは良いかもな。
久しぶりに、ずいぶん何百年ぶりに滾ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます