第5話 二つの村 どちらを進むか
「持ち物は全部持ったか?」
はい!! オカシラ!!
「今この場にいないメンバーはいるか?」
いません!! オカシラ!!
「忘れ物してないか?」
はい!! オカシラ!!
「じゃあ、出発するぞ!」
ウオォォオオオ!!!
大熱波大熱風の歓喜の雄叫びが俺の耳をこだます。うるさいけど、こんなに盛り上がっているのは正直言って最高だ。
自分の人生で今までこんなに誰かを従えたことは無かった。そして、全員が俺のことを尊敬してくれる状況だって無かった。
正直に言うと浮かれている。今すぐ奇声を上げてタップダンスを踊ってしまいたい気分だ。だが俺はオカシラ。謂わば一番上の頭領。
そんなに浮かれた態度を取るわけにはいかない。一番上は一番上らしい態度を貫く必要がある。
「オカシラ」
ふと、右隣にいるバンダナをつけた男が声をかけてきた。と言っても全員同じようにボロボロの服にバンダナをつけていて誰が誰だか分からない状態だ。
でも、俺は右隣にいる男を見てハッとしてしまった。
イケメンだ。
顔がメッチャ良い。
なんていうか今は髭が濃いが、これ髭を剃ったら絶対さわやかなイケメンになるのが確信できた。いやもうダイヤの原石だなこりゃ。宝石が好きな人の気持ち分かったぜ。
「オカシラ?」
「ん? ああ!! ゲホンゲホンゲホン」
いかんいかん、顔に見惚れている場合じゃない。しっかりオカシラとして話を聞かなければならない。
「どうしたんだ?」
「いえ、行き先はどちらにしましょうか」
……へ? 行き先?
思わず立ち止まりそうになったが、混乱を招きたくないから平静でいなくちゃ。
「……え〜、ゴホン!! どちらに、というのは、どういうことかね?」
「えと、アゴ村かブサ村ですね」
なんか妙に聞き覚えのある名前だ。
だが私は二つの村がどういうのか分からない。だから決めることはできない。
でもそこで全くわからないという選択肢をすれば、部下の信頼は大幅にダウン。
ならどうするか。
「なるほど、じゃあここで少し情報整理だ。二つの村の特徴を整理しよう」
「え? オカシラが決めて良いのですが……」
「いやいや、私たちはもう長いこと先程の場所で過ごしすぎた。行き先の一手を考えるだけでも慎重にならなければいけない。だから情報を整理する必要があるんだ。もしかしたら前来た時とは状況が違うかもしれないしな。何か……その……事件が起きて村が壊滅しそうになっている場合もあるからな」
これでどうだ?
「……なるほど! 確かにそうですね! 情報機器とか新聞とか見ることができなかったし、情報整理が必要ですね!! いや〜流石オカシラです!!」
「そ、そうかそうか、くるしゅうない」
あっぶね〜!! 上手く誤魔化せた〜!!
それにしてもコイツ、随分と簡単に騙されたなぁ、大丈夫か? なんか詐欺とかに簡単に遭いそうだぞ?
「えーと、そしたらまずアゴ村でしたね」
よし、説明よろしく。
「ん〜、村人はアゴが濃いめじゃないとダメという風習があって」
いやどんな風習!?
「だから泊まる時、結構苦労しましたよね。あれでザコボッコはあんまり剛毛じゃないから村に宿屋や野宿スペースに泊まるのを断られて」
そうだったんだ。アイツめっちゃ毛がありそうだったのに、全然毛が無いんだ。
意外……。
「だから初めはザコボッコも食い下がって反抗したけど、アイツが酔っ払ってたってこともありましたけど、村人の方が強かったから追い出されたんすよ。それであそこに野宿することになったじゃないっすか」
村人より弱い頭領って……威厳もへったくれもねえな。それで俺に負けるって……あいつ……かなり不遇なキャラだな。
「まあ、あとは食べ物が濃い、とかそんなくらいですかね」
「そうか、因みに私は大丈夫だったのか?」
そこでさりげなく俺の今の状態は毛が濃いのかどうか他者に聞いて確かめる。
前世の記憶が蘇ったら、全然俺はそういうことに気を配って無かったことに気づいた。
だから俺自身が濃くないと思っても、他の奴らはどう思うのか分からない。
「う〜ん……」
するとそいつはマジマジと俺を見つめる。
身体の隅から隅まで徹底的に見ている。
少しだけ恥ずかしいが我慢だ。しばらく考えるようにそんな態度をしていたが、やがて腕を組み……首をかしげた。
あ、アカン、こりゃダメだ。顔が何か困っているのが分かる。きっとどう返事をすれば良いのか考えてるんだ。
大丈夫です、これならOKです。
なんて言ったら俺は剛毛だと思われてることが分かるし、女性にこういうこと言うのは失礼。そういうことは分かっているから何か別な言葉を探しているんだ。
それに今は俺が頭領だし、上から好印象を与えられないのだろうと悩んでいるのかもしれない。
分かる、俺も歳上でも歳下でも、年齢分からない人であっても、そういうこと聞かれたらメチャクチャ返事に困る。
それで悩んでいる内に、自分の考えを見透かされて、もういい、と止めて不機嫌になったり、その場で帰ったりするんだ。
難しい、難しいよな女性の心。
まあここでは俺が女性なんだがな。
「え〜〜と……」
「いや、大丈夫だ。大体どういうことか分かった」
うん、こういう時に異性の部下を困らせてはいけないな。そういう異性の気遣いというのが必要だ。
よくよく考えたら、上の立場の者がこういう評価を聞くのは半分パワハラセクハラめいているような気がするからな。そういうのは良くない良くない。
「あ、すみません」
「別に良い。それでブサ村についてはどんな感じだ?」
「あ、はい。ブサ村はまあそれなりの大きさの村ですね。宿屋や野宿スペースもあるので泊まれます。別にアゴ村のように特別な体毛が濃いとか薄いとかそういうのは無いです」
「そうか……ちなみに食べ物とかはどちらの方が豊富だ?」
「そうですね……まあブサ村の方ですよ」
よし、決まりだ!! なんとか誤魔化すことが出来た!!
「よし、お前ら!! 今ならブサ村に行くぞ!!」
オオオオオオオオーー!!!
決意の雄叫びが上がる。何というか元気良いなコイツら。いや、そうじゃねえな。今までが元気なさすぎたんだな。
あのザコボッコが劣悪すぎる環境で飲み食いも出来ずずっと同じ所にいたんだから。
「そうですね、あ、そういえばオカシラ。ブサ村の経路は覚えていますか?」
……あ〜そうだった。覚えていない。
「えっと……今回は頼めるか?」
「了解です!! フローのオカシラ!!」
そう言ってそいつは敬礼をした。
一瞬フローって何だと思ったが、多分私の名前だ。あのザコボッコにも呼ばれなかったから今まで忘れてた。
まあ分かることが出来て結果オーライだ。
さて! ブサ村に進もう。
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