第4話 異世界ヤクザ(盗賊)
「戦略とはなんだと思う?」
ミンミン街
異世界と言うにはやや現代的な風景が目立つ街。
高層ビルがいくつも建ててあり、太陽の光で充電する腕時計を皆つけている。服装もスーツが多い。地面も土というより石材で均されている。
あまり馬車は目立たずそれより、電気で走る自動車が見える。
但し、周りにまだ馬車が多いからか、ライトレールのような自動車が線路を少し緩やかに走っている。
車道は無く線路だけだ。きちんと歩道と車道に分かれているわけじゃない。
一目見ると綺麗な未来都市とされてもおかしくない。
だが少し歩けば目につくのは、地面に転がる燃える燃えない生ゴミがぶちまけられた道やゴミ箱。そして同じように道路に我が家のように寝ている住民たち。
もう少し行くと、ジャラジャラとアクセサリーやら武器やら、金属をやたらつけている人間や、腕に死人の死相が描かれた入れ墨をしている男女。
中には全身に細かく人を食っている鬼や、人間の断面図を入れ墨にしている者までいる。
もっと奥に行けば、そこは昼なのに夜の街が広がっている。
具体的に説明するには難しいほど、男女の欲望が色めきだっている。
名状できるとすれば、酒池肉林。
その四文字がこの街の中心地であった。
そんな性欲の中心地に相応しくない、簡素で味気ない高層ビルがある。その高層ビルに極上のステーキをナイフとフォークを使い食べている、白衣の男がいた。
「聞いているのかい? ベイビーヘッド」
「はい、聞いております。今、考えていました」
すると、その白衣の男は、わざとらしくため息をついた。
「そんな簡単なこと、難しく考えなくて良いよ」
その興醒めにも似た冷めた声に、髪の毛がツンツンとした目が大きめのスーツの男は少し恐れ慄く。
「も、申し訳ありません!! アーサア様!!」
声が震えるベイビーヘッド。
上の言うことには絶対に逆らわないし、そうしてはならない。あまり自身より上の者がいない彼でさえこの始末。
着ている服や顔立ちや男性整った胴体肢体筋肉はホストの様なのに、その厳しさはヤクザそのものである。
「まあ良い、戦略とは神の作品だ」
「神の作品、ですか?」
何を言っているのかまるで分からないが、それを悟られることは死を意味する。
「そうだ、もし神が人間相手に全てに侵攻するなら、完全勝利は前提だ。圧倒的であることが当たり前。そうだろ?」
「ハッ!! そうであります」
「そう、小さな穴まで見過ごさず神は人間の全ての思考を読み取り、更にはその行動も全て読み、智略を働かして圧倒的な勝利を得る。そして人間たちはまるでそれが自分たちの未来を全て見られている。つまり、どうあっても死ぬのを悟らされる。故に最後には全員が祈りを捧げるだろう。神に祈りを捧げ命乞いをしながら死んでいく。その愚かな言動に天上の神たちは予想通りだと笑う。それが戦略だ。つまり、神がなす戦略は圧倒的で相手が全て慈悲を求める。これはもはや一つの完璧な作品だ。僕の言いたいことが分かるかい? ベイビーヘッド」
「ハッ!! それは……」
答えることができない。なぜなら途中から何が言いたいのかさっぱり分からなくなったからだ。だから聞いていないのだ。
もしそれがアーサアにバレたら何をされるか分からない。どんどん汗が滝のように溢れ出てきてしまう。
「それは……つまり、神、その……」
「そうだ、僕は神になりたい」
なぜか勝手に自分で答えを言ったアーサアにベイビーヘッドは驚く。同時にホッとする。
「僕は、神の領域に入り、この世を僕の作品にする」
(……何を言っているのかさっぱり分からない。第一、自分は人間なのに)
すっかり困り果てるベイビーヘッド。
アーサアが何を言っているのかまるで分からないから、まともに会話したくない。
アーサアが一番上になってからそれが一番の彼の悩みであった。
「ところがだ、大変なことが起こってしまったらしい」
「と、言いますと」
何か重大な失態を起こしてしまったのかとベイビーヘッドは不安になる。
「ああ、そうだ。大変なことだ」
アーサアはチャンネルをテレビと似たような情報機器に向ける。
ピッ
そこには、とある報告が載っていた。
その内容は、ざっくばらんに言うと『ザコボッコ』が殺されたという内容だった。
『ザコボッコ』とは『ザコバッカ』というアーサアの組織『フォロボシタン』の傘下組織の頭領のことだ。
よく酒グセ女グセが悪いことで有名だがアーサアは気に入っている。
そして傘下組織の中でも末端中の末端組織である。
「ザコボッコは良い奴だった。毎日、僕に女をあてがってきたり、高級時計や銃とかくれようとしてきたんだ。別に誰も欲しいものというわけじゃなくて、断ったんだけどアイツはそれでも何か僕にあげようとしたんだ。可愛いだろ?」
「ハッ!! そうですね。彼は可愛いです!」
最も、ベイビーヘッドは分かっていた。
それは媚びているのだと。
ザコボッコはアーサアに何かをあげることで、自分の立場を良くしようとしていた。
だがその効果はほとんどない。なぜならもしそれが効いていたら、末端中の末端組織の頭領にさせられることは無い。もう少し良い役職に就いても良い。
だがそれが叶わなかったということは、アーサアへの媚び献上は、全くうまくいかなかったということだ。
だがアーサアの言葉を否定してはならない。それは暗黙の了解であった。当たり前の決まりであった。絶対に首を振ることは許されない。そのはずだった。だが……。
「んなわけねえだろどう考えても可愛くねえだろ。キショイとしか言いようがねえだろあんなクソ面。あんなのが好きとか女でも男でも趣味悪いどころの話じゃねえよ。それともお前はそう思うの? お前は吐瀉物と結婚できるのか?」
「それは……」
「……答えろ!!!!!!」
ベイビーヘッドが答えに窮していると、アーサアは怒鳴る。
アーサアの言うことに反対してはならない。そのはずなのにアーサアは明らかに不機嫌になった。
腹が立ったのか、アーサアは立ち上がる。
「おい、ベイビーヘッド、お前は何だ? え? アイツのこと好きなのか? あの排泄物が好きなのか!?」
最早ベイビーヘッドの耳にアーサアの声は入っていなかった。アーサアの足音が耳の中を木霊して、全く話している内容が聞こえなかった。
「そんなわけねえよなぁ、お前だってアイツのことは嫌いだもんなあ……おい、なあ、返事しろ!!」
「ハイ!!」
ベイビーヘッドは頭を下げたまま返事をする。それを聞いてアーサアは心の底から侮蔑の表情。
「お前、ホントにダメだな。ただのイエスマンじゃねえか。自分の意見言わない自分の意志を示さないそもそも自分の思考を立たせないし自分が無い……いつからそんな肉人形になったんだ!? おい!!」
「申し訳ありません!!」
その返事を聞いて暫しの硬直時間。
それは、アーサアの舌打ちで解けた。
「ッチ!! だからお前はここで限界なんだ。永遠のNo.2いや、ナンバー……まあいいか。もう何番でも良い」
ベイビーヘッドは顔面蒼白。残像が見えるほど素早く顔を上げた。
「そ、それはどのような意味が」
しかし、アーサアは何も答えない。
そっぽを向き、自分の棚に置かれているピンク色の臓器のような物を気持ちよく眺めている。
「それは、私を降格処分ということでしょうか!?」
反応はない。
「それは、私は側近として不十分ということでしょうか!!」
反応なし
「そ、それは……それは私を死体処理するという形で消えてもらうということでしょうか!?」
クルリとアーサアはベイビーヘッドの方を向き、侮蔑の表情。
何を言わずともベイビーヘッドは確信した。アーサアが自分を殺そうとしているのだと。
呼吸を整うことができなくなり過呼吸に。
身体が疲れてもいないのに、汗が滝のように溢れ流れる。
汗が目に入ったからか、視界に映るアーサアの姿がブレてきた。
「あぁ……ああ、あぁぁあぁ! あア!!」
逃げたかった。それか土下座をしたかった。だが恐怖で全身が動かない。
アーサアがゆっくりこちらに手を伸ばし、更に、ゆっくりゆっくりと靴を鳴らしながら近づいてくる。
その足音は死神の跫音。死までのカウントダウンなどと錯覚してしまう。もう声を上げることさえできない。
そのままゆっくりと近づいていく、と思っていたら急にアーサアの手が目の前に。
あまりの恐怖に至近距離にまで近づいてきたのさえ気づいてなかった。
そのままアーサアは、ベイビーヘッドの頭に手をかざす。
そのまま数秒、時が刻んだ。
たったの数刻、だがベイビーヘッドには気が遠くなるほど長い刻。
いよいよ彼は覚悟したその時。
「良い子だ」
なんとその手は引っ込んだ。そして次にベイビーヘッドの目に映るは、満足気なアーサアの表情。
「よく逃げなかったね。あそこで逃げていたら、君のことを殺していたよ」
それを聞き一気に力が抜けた。
安心したからではない。ベイビーヘッドは自身が強運であることに安堵した。
つまり、もし少しでも動くことができていたら、自分は殺されていたのだ。なんとなく自身の強運、そして恐怖心に感謝した。
「これからも励め、死に物狂いでな」
「ハッ!! ありがたきお言葉!!」
そう言い、勢いよくベイビーヘッドは頭を下げた。それを見てアーサアは満足気。
「さて、対策を考えようか」
「対策、ですか?」
突然、話が違う方向に展開したからベイビーヘッドは驚いて顔を上げる。
「ああ、とりあえずだ。まずザコボッコを殺した端数の埋め合わせの者を呼ぼう。そこで見極めなきゃならない。そいつが、賢者か、それともなんの足しにもならない他と同じ有象無象のカスゴミあるいは、地球の排泄物かをね」
そう言ってアーサアは一枚の書類に目を通す。そこにはザコボッコを殺した女の写真が載っていた。本人に気づかれないように撮ったのか、女はそっぽを向いている。
「楽しみだよ、フロー・アダプト。一体どんな女なのか」
そう言うと何故か指を鳴らす。その瞬間、紙は燃えて一瞬で塵と化した。
ベイビーヘッドは相変わらず何を考えているか分からずただ頭を下げるばかりであった。
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