第3話 前世からの恨み?


 何だ? まさか俺は死んだのか?


 目の前には何もない、脚の感触も無い、匂いも無ければ音もないし何も見えない。


 何だ? ここは一体どこだ?


 俺は確か自分の盗賊団の男がクソすぎたからあの黒い刀を取って……。


『嘘だろ……クソ……なんだよそれ……』


 誰だ? どこから声が聞こえる。


『イヤだ、ここで終わりかよ。せっかく』


『何で? 何でアタシなの!? だってアタシは』


『こんな、こんな世界なら、生まれなければ良かった!! クソ!!』


 何だこれは、あちこちから男や女の声が聞こえる。中には年端もいかない子どもの声さえ聞こえる。


 耳を塞ぎたくなった時、暗闇の中で少し空間が揺らめいているのが見えた。それはさっき見たオーラと同じだ。ゆらゆらなんか揺らめいてすごく不吉だ。


 目にまともに見えるのがそれしか無かったから、それをじっと見ていたのが悪かった。


 その揺めきが突然、俺に向かって放たれた。目に入って染みてくる。


「なんだこ、うぐ!!??」


 口の中に入ってくる!! あの変な揺めきが口の中に全部入ってくる!!


「やめっ……!?」


 突然、頭の中で映像が流れてきた。


 戦いに巻き込まれる、モンスターに襲われる。ヤクザなのか借金の取り立てか何かで処刑される。海に落とされる。遊び半分で殺される。


 死に方は様々だった。その映像が頭の中に一気に流れてくるから痛い。頭がすごく痛くなった。


『ワレラノイシヲ……ウケトメヨ』


 あ? 何だ? どこから声がしやがる。


『ワレラノオモイヲ、ウケトメヨ。ワレラノスベテヲウケトメヨ!!!』


 分かった……「分かったからもうやめてくれ!」


 精一杯叫んだ。この声が納得して消えてくれることを願いながら、力一杯叫んだ。声が枯れて喉もボロボロになる感覚に襲われたけど叫んだ。叫び続けた。






 


「おい!! なんだてめえ!! なんか反応しろや!!」


 気づくと元のボロボロのアジトにいた。

 

 私は何してたんだ? たしかこれから子どもの勇者が来るからなんとかしなきゃいけないから、適当にアジトの物置き場を漁って。

 

 そしたら……。

 

「おい!! 反応しやがれ!!」


 そうだ、コイツに襲われて私は……。


 あの時も……あの時もだ。

 村にいた私を……いや、なんだ? 違うこれは自身の記憶じゃない。


 ていうか俺は……いや、今は何も考えるな。

 こいつを殺すことだけを考えろ。

 

 混乱を振り払うように俺は刀を抜いた。


 それと同時に、黒く禍々しいオーラが噴き出した。力が溢れてくるのが分かる。自然と手に力が入ってくる。血管が浮き出るほどだ。


「なんだてめえ……その格好は」


 ふと見ると目の前の男は顔面蒼白で尻込みしながら立っている。何が恐ろしいのかと疑問に思い、首を傾げた。だがその仕草は相手からは舐めていると勘違いしたようだ。


「てめえ!! すっとぼけやがって!! いいぜ!! ならとっとと死ねい!!」


 さっきまでの蒼い顔が真っ赤っかになり、顔に怒りを帯び、蛮勇引っ提げて身をかがめて踏み出そうとしている。


 さっきまでの俺ならそこで怖気付いていたかもしれない。だけど今は全く怖くない。

 それどころかコイツの怒っている表情がなんか間抜けに見えてきて笑いそうになる。


 俺が馬鹿にしているのを感じたのか、ますます赤くなっている。


「女だからって容赦しねえ。全身切り刻んで今夜の晩メシとオカズにしてやらぁ!!」

 

 お前それ意味分かって言ってるのか?

 すげえ気持ち悪いこと言ってるぞ?


 その気持ち悪い声明が終わらない内にそいつは走り出していた。 

 だが、そいつが最期の言葉なんて考えもしなかっただろうな。

 

 チンッ


 一瞬、え? と言うような顔をしたように見えた。だがそんな顔をしたかどうかはもう判断できない。


 なぜなら、もうコイツが生きていた証拠となるのは、さっきまでアイツが持っていた割れた酒ビンだけなのだから。


 酒ビンは見事に割れ、床に破片が、ばら撒かれている。


「最期まで汚い……グッ!?」


 その途端、頭に激痛が襲いかかってきた。


 それと同時に映像が流れてくる。


『オメェ、嬉しいだろ? オレ様に身体を弄られてヨォ。いずれ『フォロボシタン』の頭領になる男に寝取られるなんて光栄なことなんだぞ? な、嬉しいだろ? な? な?』


『い、イヤ!! 近寄らないで……やめて……やめて!!』


 アイツの汚い顔面が迫ってくる。それを映像の主がすごく嫌がっている。その後に凄惨な事態が流れるのは見なくても分かったが、そこで,映像が途切れた。


 頭の痛みは消えたが、汗がすごい勢いで出している。思い出したかのように身体の重みがすごくある。疲労感だ。多大な疲労感が俺の身体なら襲いかかったんだ。


 ドタドタドタドタ……


「ど、どうしたんですか!! カシラ!!」


 うおっ、すっかり忘れていた。こんなボロボロなアジトで最低な男でも部下はいるんだった。ここが見つかったらやばい。始末されてしまう。


「カシラ!! なっ……!!」


 だが時は遅かった。もうそいつらはゾロゾロ現場に入ってきた。多くの部下が目を見開き、俺と酒ビンや床などを見渡している。


「こ、これは……お前がやったのか……」


 まずい、バレちまった。ここでの一番上のリーダーが殺されたとなったらやばい。下手すると散々身体を弄ばれ殺される。


「お前がやったのかどうか聞いているんだ答えろ女!!」


 もう覚悟を決めるしかなかった。


「ああ、そうだ。アタシが殺した」


 全員が息を呑んだり、アホのように大口を開けたり、目を更に見開くなど驚愕の反応をした。しかし、それは一瞬でそれぞれ顔を見合わせて何か話し始め、どよめきになる。


 あ〜こりゃ連戦だな。

 こうなりゃヤケだ。刀を抜こうとした時だ。


「待て!! いや、待ってくださいおカシラ!!」


 あ? 予想と違う反応だ。てっきりリーダーを殺されたから襲いかかってくるもんだと思ったが、違うのか?


「我らの新たなオカシラになってください!! お願いします!!」


 お願いします!! 見るとその場にいる全員が土下座をして頼み込んでいた。


 これは予想していた展開と全く違う。


 どういうことだ?


「やった……ついに俺たちやったんだ……あいつ、どんどんおかしくなってきたからな。正直、死んでよかった!!」


「ああ、毎日毎日、自分たちの物資を独り占めしてその半日で食い尽くすんだから、前から最悪だったんだ。そしてじぶんは多くの物資に手にいれて、俺たちにはほとんどくれない。最悪だった。あいつはリーダーにしちゃいけない奴だった」


 部下たちは元自分たちのリーダーの悪口をたのしそうにいいあっている。まさかここまでアイツが人望無いとは思わなかった。


「というわけで、俺たちはみんなあんたに従う」


 さっきの言葉を踏まえると、部下たちが口々に俺に従うことを誓ったので、どれほどアイツが嫌われていたのかが分かった。


 そしてこの夥しい土下座している人間の数。こう言わざるを得ない。


「分かったら今日からお前らは俺の部下だ」


 そう言うとそいつらは飛び上がった。

 そんなに前のアイツが嫌だったのだろうと思いそうになったが、こんな声も聞こえててきた。


「女師匠とか女リーダーとか姐さんとかアネゴとか、女の人が一番上の組織にすごく憧れてたから最高だ!!」


「ああ!! 昔だったら情けないとか思うのかもしれねえけど、もう俺たちは寧ろ上の女にリードしてもらいたいからさぁ!!」


「リードってお前デート気分じゃねえか!」


 などなど様々な様子で喜んでいる。

 なぜだから分からないが、少し喜びそうになった時だ。


「まあ、少し注文するならもうちょっとセクシーだとな」


 なぜかは分からんが、その言葉にどこかカチンときた。


「まあ少し背が高くても良いよな?」


「それは言えてる」


 ッチ、こいつら、胸のラインで身体がずれること考えたことねえな? 胸が大きいと重いしそれなりに身体の姿勢の邪魔になるんだよ。


 まだ女ならまだしも、絶対その苦労知ることが無い連中に言われたらただ腹立つだけなんだよ!!


 なんて言いたかったが、何か疲れた。

 さっきの戦闘の疲労か?


 まあどっちにしても、これから大変なことが起こるのは分かる。


 なんせ、最低な奴とはいえ、自分のリーダーを殺しちまったんだからな。


 俺らの一番上の組織『フォロボシタン』に目をつけられるのは間違いない。


 三ヶ月に一回、その組織グループ全体で会議がある。そこでバレたら、その場では何もされないとしても、絶対、組織から問題視されるし目をつけられる。


 なんとか手を打たなければならない。

 さあ、どうしたらいい。




 


 


 

 

 


 


 



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