第2話 チート武器? をザコキャラが手にしたらどうなる?



 俺たちの組織で一番上の盗賊団の名前はたしか『フォロボシタン』という名前だった気がする。


 こういう盗賊団がいくつあるのか、分からないが、それぞれ対立している。


 モンスターに盗賊、よく考えたらこの世界厄介じゃね? なんでこの世界を選択したんだよ俺。


 いや、そんなことより今はこれからどうするかだ。これからここに勇者パーティが来る。


 まあ正確に言えば少年期の勇者が来る。

 

 シナリオはこうだ。


 実は今俺たちは近くで討伐依頼の対象にされている。森の中で旅人から盗みや殺し、またはそれ以外の犯罪行為を働いたりする輩として。


 もう盗賊という認識さえされていないほどのザコ敵だ。それを子どもの無鉄砲な性格の勇者が俺がやるぜ、みたいなことを言って森に入り、それを後に旅の仲間になる気弱な男の子だけどが止めるけど、それを振り払って進んでしまう。

 

 そして危険な目に遭いながらもなんとか討伐する。それでめでたしめでたしで終わる。これが主なシナリオだ。


 その後に村に訪れた男が師匠になって剣術教えて、その十年後、勇者の剣引き抜いて勇者になる。


 そんなシナリオがあって勇者の旅が始まるのである。


 だからこれは第一章どころが、ほぼプロローグ。俺たちはプロローグで全てが終わるキャラということだ。


 いやふざけんなよ、誰かの人生のプロローグでデッドエンド&バッドエンドのキャラなんて嫌すぎる。ならどうするか。



 勇者を殺す そう、それは考えた。

 だが恐らく不可能だ。何故なら武器が弱い。全くもって武器が弱いし魔法一つも使えない。


 一方で後の勇者となる子どもは現段階で全体魔法の中級攻撃魔法が使える天才児だ。


 天才児で周りに偉そうにするけど、なんだかんだで上手くいく。こんなの俺からしたら大嫌いな設定だ。なんであの主人公をプレイして何にも思ってなかったんだろう俺。


「おおぉい!! 酒!! 酒もっでごい!!」


 うるせえな、なんてことは絶対言えない。


 そう言ったのはこの盗賊団の頭領だ。


 酒浸りでロクに意思疎通が出来なさそうだが、武力ではまあまあ強い。まあ質の悪い棍棒を持っているだけで、魔法や遠距離攻撃がまったく使えないから、子どもの頃の勇者に負けるんだがな。


 酒で酔っ払っているからか、メチャクチャ攻撃を外していたんだよなぁ。まともに当てることできてたら、案外圧倒されたかもしれない。


 だがそれはタラレバの話。現実そうならないのだから仕方ない。現状にて、勇者を殺すことは出来ない。


 だから殺す手段はボツだ。


 なら逃げるのはどうか。


 これは論外。


 ここら辺にもモンスターとかがいるというのに、この装備で生き残れるとは思えない。


 ボロボロの槍に、藁のボロボロスカート。

 そして申し訳程度の茶色い獣の皮みたいなローブを上半身につけている。


 もう半年以上この状態だから、半分、乳房の部分が重いし、周りの男たちが時々チラチラ見てくるのが気になる。まあ格好が格好なだけにほぼ裸だから、そこら辺は仕方ないと思っているし、もう慣れた。


 とにかくこんな装備で森を抜けられるわけがない。だから二つともボツ。


 ならどうすれば良いか、それが分かれば苦労しない。盗賊なら何か良いアイテムでも奪ってないか探すと、一つ使えそうな物を見つけた。

 

 それは錆びた鋼の槍であった。


 すっかり錆びているが、俺のこのボロい槍に比べたらほとんどがマシだ。鍛冶屋に頼んで磨いても良いが、金がねえ。


 こりゃどうしようもねえ、と思った時だ。


「ん?」


 なんだ? さっきまで何も感じなかったけど、よく見ると奥に何か黒いオーラの様なものが揺れているのが見える。


 多分、さっきは影で隠れて見えなくなってきたのだろう。今も目を凝らさないと、影と一体化して見える。


 どことなくやばそうな雰囲気を感じながらも、確かめられずにはいられない。そうじゃなくても、これがこの状況から抜け出す光明になるかも知れないんだ。見えているのは闇黒だがそこは悪しからず。


 早速その影に近づこうと一歩踏み出すと、見えた。そのオーラを放つ物が何なのか。


 刀だ。刀の鞘とその中に収まる刀身が見える。それも全身が黒い。


 そしてよく見ると、鋒に近い部分が仄かにしかし血のように濃い赤が見える。


 妖刀


 そんな言葉が頭に浮かんだ。 


 いかにもやばそうな雰囲気を感じる。

 影と見間違うほど全身から黒いオーラが吹き出しているなんて、絶対やばいだろ。


 それにこんな危険な代物、プレイしてて今まで見逃してきたのか? 何回も初めからプレイしていたがこんなの見たことない。


 もしかしたら影と見間違えたのかもしれないが、それでも細かく操作していたはずなんだが。でも少し興味深い。


 あの刀は絶対神アイテム。しかもリスクがメチャクチャ高い呪いの武器の可能性もある。


 もしそうなら。リスクが大きいということは、リターンもそれなりに大きい。絶対使った方が良い。


 思い立ったが吉日だから、その刀に近づいた。その途端……。


 ズシン……!!


 身体全体が重くなった。


 初めは足だけが重くなり歩きにくくなっているのかと思ったが、すぐにその重みは腰に、肩に、頭にのしかかってきた。


 大きな鉄球を丸ごと背負うような感覚が襲ってきた。

 

 だがそれはあくまでそのような感覚に陥るプレッシャーだ。実際に背負っているわけじゃないから進みにくくなっているだけだ。進もうと思えば進める。


 でもなんだろう、全身が悲鳴のようにサイレンを鳴らしている。あれは絶対に取ってはならない物だと。取ったら最後どうなるか分からない。下手をすれば死に至らしめることも想起させる雰囲気を醸し出している。


 はてさて、どうするべきか。


「オイ……おめぇ……何してんだ?」


 思わず身震いしてしまう。


 酒臭い息と品のない声、これは頭領の声に間違いない。後ろを振り向くと、やはり予想通り頭領がいた。


 背丈が大きく、顔も不恰好なナスビの様に面長くでかい。所々に無精髭が生えてなんかずっと半分白目の状態だ。視力を失っているわけでもないのに、ずっとその状態だ。

 

 一回、聞いたことあるが、酒を浴びるように飲みすぎて白目を剥くのが癖になってしまったらしいのだ。自業自得な理由だ。それに気持ち悪いことには変わらない。

 

 ともかく、今はこの状況を何とかしなければならない。


「えっと……ちょっと珍しい物をみつけて」


 あはは……と笑うと、頭領は無表情だったのが、デレデレと口元をニチャアと笑った。

 

「珍しい? そりゃお前だろ?」


 は? 


 次の言葉を発する暇は無かった。この汚い大男はいきなり俺の首に腕を回してきた。

 頬にチクチクとコイツの毛が当たってきて気持ち悪い。


「お前お前お前ヨォ、なぁんでこんなに嫌らしい身体してここにいるんだ? お? まあまあお前は戦力になったけどヨォ、でもそれだってこの組織の中の話だぜぇ? お前より優秀な奴は山ほどいる。でもお前みたいな上玉が組織に入るのはそうそうねえ。俺らみたいな末端の盗賊なんてヨォ」


 何だコイツ、何言ってんだ? てか臭い。

 酒とかコイツの体臭とかで、色々と臭い。

 気持ち悪い吐き気がする。こんなクソに寝取られるなんて絶対イヤだ。


「なぁ、ありがたく思えよ? 両親がいないお前を引き取ってくれた大親分をヨォ」




 大親分、そう呼ばれたのは俺を拾ってここに寄越した男だった。


 俺は、ここに来る前は貧民で路地裏や、人が見ることがない場所でひっそり暮らしていた。


 両親はいなく、前世の記憶が戻るまでは、ただ毎日を生き残れる様にしようと思っておいた。


 だが、いつもの様に路地裏で、生気なく過ごしていたら……。


「不衛生で汚えガキだな」


 そう言ってこっちに近づいてきた男がいた。正確にはその男と、何人かガラの悪い連中が、俺や他の貧民を舐め回す様に見ていた。


 他の人物にも辛辣な目を向けたり、言葉を口に出したりしていたが、中でも俺に対して相当酷かった。


 俺を見るなり舌打ちし怪訝な顔になり、地面に唾を吐いたりもした。


「醜い汚い面したガキだ」


 何か恨む様なことをしたのだろうか、と思ったのはよく覚えている。それほどその男の態度は悪かった。


 よく見ると、そいつは身なりをきちんとして質が良さそうな黒い服と、白いワイシャツを着ていたが、服の上からでもわかる鍛え抜かれた筋肉量だった。


 顔が優男に見えるせいで、初めはそこに全く注目していなかったが、なぜか俺に向ける口調が強く、荒々しいことから自然にそこに目が向くようになった。


 しかしある日、とある盗賊団が俺がいる町を襲った。その際に俺以外の子どもたちや沢山の大人たちが殺された。


 その中で、俺は震えることさえせず、死期を待っていた。初めから希望がない、そしていつも痛みばかり受けていると、自然と死への恐怖とかは無かった。


 強いて言えば、あの一見上品な見た目しているパワハラセクハラ野郎が死んでほしいと思った。


 しかし、それは意外な形で叶えられた。


「オメェ、中々ガキの割には上玉じゃねえかぁ? あん?」


 そいつらは、俺が死を願っていた男の首と胴体を持っていた。その時の俺は、記憶戻ってなかったし、もう死ぬかと思っていたから、目の前のなすび男が神だと思った。


 そして、全ての証拠消しのためなのか、街全体にそいつらは火を放ち、俺はそいつらと共に行動することになった。


 俺を助けたのが皮肉にも、この組織だった。そして恩を返すために、この組織に入ったと言うわけだ。


 そしてこの状況に陥っている。


 ここまで酷い扱いを受けるのは、話が違うと思うが、そんなこと言ってもこの状況はどうにもならない。


 このままだと俺はコイツに性的暴行を加えられる。ニヤニヤニヤニヤ笑って臭いコイツに人として最悪の屈辱を味わせられる。


「な、嬉しいだろ? 俺に身体弄られる間に合うなんてヨォ」


 ハッとなった。


 それはよく路地裏の夜でたまにやらかす馬鹿な連中の言葉だった。貧民の女性がやめてと言ってもそいつらは止めない。それどころか嘲笑い、うれしいだろ? と気色悪く囃し立てていた。そいつと同じ顔をしている。


 そうか、俺はこんな奴に……。


 カタ、カタカタカタカタ……!!


「あん?」


 それは、今まで、前世を含めて見た事が無かった光景だった。


 刀が、震えているのだ。


 俺はその姿が今にも気持ちを抑えきれず怒ろうとしているように見えた。


「あ? 気味悪い刀だなぁ。コイツみてえに。ま、コイツはまだ身体はいいからヨォ」


 似てる……? そうか、まさか呼んでいるのか? 俺を。


 そう思うと、それに呼応する様にますますカタカタと刀の震えが大きくなった。


「あ? うるせえ刀だな。待ってろ、な? 待って、ぐ!!?? てめえ!!」


 俺の答えは決まっていた。

 油断したこの男の腕を思い切り噛んだ。

 気持ち悪いが仕方ない。


 窮鼠猫を噛むではないが、突然の痛みに男は耐えきれず俺を解放。


 もうやるべきことは決まっている。

 一目散にその刀の元に駆け寄り刀を手で握った。


 カチ!!


 その音は今までの人生で聞いた音の中で、一番スッキリする音だった。俺はこの為に転生したと言っても過言では無かった。

 

「あ? おまえ俺様に逆らう気か!? この売女クソ野郎!!」


 そいつの暴言を全部聞く必要はない。


 俺は刀を鞘から引き抜いた。


 カシュッ!!


 刀身を抜く時に目覚める金属音が響く。

 その瞬間、全身の力が漲った気がした。


「てめえ……!! ひっ」


 さっきまでニチャアと嗤っていた男が一瞬で怯え切ったのが分かった。


 無理もない、多分、俺はすごく醜悪で凶悪な笑顔をしている自信がある。アイツからは今の俺がどう映っているんだろうか。


 俺が見ているモノと同じなら、死屍累々、怨嗟交わる魂の咆哮を身に纏う紅い女が佇む姿が、双眸に焼き付いているはずだ。


 その時、目の前が真っ暗になった。


 


 

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