調査

 次の日俺は一旦出社すると、外回りに出かけるといって家に戻った。嫁の行動を監視するためだ。

 10時頃になって嫁が家から出てきた。俺が目を見張ったのは、彼女が少し化粧をし、よそ行きの服装をしていたことだ。少なくともスーパーやコンビニに買い物に行く格好ではない。

 少し彼女が歩いたところで、俺は後をつけた。角から角へ、物陰に隠れたりして何とか見つからないように用心しながら、彼女を見張った。

「ちょっとあなた、そこで何をしているんですか」

 振り向くと制服を着た警察官だった。

「あ、いや、別に怪しい者では……」

「いやいや。むちゃくちゃ怪しいですよ。ちょっと署まで来てもらえませんか?」

 俺は交番まで連行された。嫁の浮気が気になって調べていたと告げると、警官は呆れ顔でいった。

「素人が尾行なんて、いかにも挙動不審ですよ。ちょっとお金はかかるけど、そういうことはプロに任せた方がいいんじゃないの」


 その清水とかいう警官の元上司・肝川宅也が探偵をやっているというので紹介してもらい、早速浮気調査の依頼をした。確実に証拠をつかむなら一ヶ月と勧められたが、費用がかさむので、とりあえず一週間やってもらった。

 ところが期日の一週間後になってもいっこうに連絡が来ない。電話をしても繋がらない。ラインでメッセージを送っても既読にならない。気になって肝川の事務所に出かけることにした。


 肝川の事務所は案の定鍵がかけられていて、中には誰かがいる様子もない。とその時、

「中原さん、どうしてここへ?」

 それはあの交番の警官、清水だった。

「清水さんのいう通り、浮気調査を頼んでたんだけど、連絡がつかなくて、直接来てみたんですよ。だけどこの通り留守で……」

「やっぱり。僕も、急に連絡がつかなくなって気になって来てみたんです。……あ、すみません」

 とそこにビルの管理人がやって来た。そして肝川の事務所の鍵を開けた。清水に続いて俺も中に入った。デスクの上には飲みかけのコーヒーカップが置かれていた。どうも数日は放置されている様子だ。

「あ、中原さんの調査資料、ありましたよ」

 清水が書棚から一冊のファイルブックを取り出した。中を確認すると、嫁の写真いくつも出てきた。俺が尾行した時のようによそ行きの格好だった。ところが、その中には浮気相手とおぼしき男の写真が一枚もなかった。

(浮気じゃなかったのか? じゃあ、嫁はこんなに頻繁にどこへ出かけていたのだ?)

 そんな疑問が胸に沸き起こると、妙な写真が目に入った。

「なんだ、これ?」

 そこには一軒の建物が写っていた。壁が真っ白に塗られた三階建てのビルで、ところどころエキゾチックな装飾が施されている。俺がその写真を手に取りまじまじと見つめていると、

「これ、白秀会ですよ」

 と清水がいった。

「白秀会ってあの……」

 最近ネットニュースで話題になっている新興のカルト教団。多額の献金を取られたとか、入信した身内が帰ってこないとか、ろくでもない噂ばかりだ。

「じゃあ、嫁が足繁く通っていたのは白秀会か。なんてことだ」

「肝川さんもそこにいるかもしれませんね……」

「清水さん、一緒に行きませんか」

「いや、しかし危険ですよ」

「わかってます、どうかお願いします」

 清水は仕方ないという顔で、俺についてくるよう促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る