後編
次の日の朝早く、僕達は目的地へと向かった。
今更だけど僕は最初福岡にいて、その後九州を少しずつ周ってから本州山口に入り、アヤちゃんとそこで会って慎、雅夢と再会していた。
約五時間後。
着いた場所は明石海峡大橋の近く。
そこから海の向こうを眺めたが……。
「ほんとあそこだけ晴れてるな」
慎がそこを見ながら言うと、
「うん。正確に円形で」
雅夢がタブレットを見せて言う。
気象情報っぽい画面ではたしかにそこが、淡路島一帯を囲むように雲が無かった。
「……どうする? 危ない気もするけど、もしかすると」
「ああ、なんか分かるかもだし、他に人がいるかもだよな」
「うん。それとさ、淡路島には日本最古とも言われる神社があるから、こう言っちゃなんだけど神様が守ってくれてるからかもね」
慎と雅夢が続けて言うと、
「……そうかな?」
アヤちゃんが少しムスッとしたような顔になった。
「え、何か気に障った?」
「ううん、なんでもないよ~」
そう言って可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「よし、じゃあ行こうか」
僕達は車に乗り込み、橋を渡った。
「なあ、あっちからか?」
先頭を歩く慎が尋ねる。
「うん、遭難信号が出てるよ。きっと誰かいるんだよ」
その後ろにいた雅夢がタブレットを見ながら言った。
「ねえ、それで相手と会話って出来ないの?」
雅夢ならそんなのも作れそうだけど。
「相手側は信号出すだけの物のようだから、こっちから話しかけられないよ」
「そうなんだ。残念」
「てかアヤちゃんは大丈夫か? 歩き辛かったらおんぶするからな」
慎が振り向いて言う。
この辺は何故か道路の舗装が割れていて、でこぼこ道になっていた。
車で行けなくはないが、万が一パンクしたら代えを見つけられないと終わりだからとなって、徒歩で行く事になった。
「大丈夫だよ。もうちょっとなんでしょ?」
アヤちゃんが笑みを浮かべて言うと、
「うん、そろそろ……あ、見えてきたよ」
雅夢が言ったとおり、遠くに鳥居が見えた。
そして神社の境内に入った。
なんだか空気が変わった気がする。
信心深い訳じゃないからこんな時だけ頼るなだけど、やっぱ祈りたくなるよ。
「うーん、電波はここからみたいだね」
雅夢が指す辺りは本殿だったので行ってみた。
そこの前で呼びかけてみたが、返事はなかった。
「聞こえてねえのか、それとも誰もいないのか……よし、入ってみるか?」
慎がそう言ったが、これって入れるものなのか?
「ん? 待って、なんか通信が入ってきてる?」
え?
「えっと……これかな?」
雅夢がタブレットを操作しながら呟き、
「よし繋がった。もしもし、聞こえますか?」
話しかけるとタブレットから低い声が聞こえてきた。
” これから話す事は、今この世界に起きている事についてだ。よく聞いてくれ ”
「え、ちょっと、どういう事ですか?」
雅夢が尋ねるが、相手は返事をせず話を続けた。
” 最初の小さな不幸が、黄泉の力を取り込んだ。それが次々と同じような不幸と合わさった。そして地を照らす七つの光もそれに取り込まれてしまった。そのせいで今、そうなっているのだ ”
「えーと。あの、もう少し分かりやすく話してくれねえか?」
慎がそう言うと、
” すまぬ。私はこういう言い回ししか出来ぬ ”
あ、ちゃんと返事してくれた。
「そうかよ。ところであんたどこの誰だよ?」
” 私は君達がイザナギノミコトと呼ぶ者だ ”
「……え、マジ、ですか?」
慎がちょっと口調を改め、
「あ、そうか。ここの御祭神はイザナギノミコトとイザナミノミコトだ」
雅夢が得心したように言うと、
” そうだ。それと知っているかもしれぬが、この島こそが最初の地にして大地の中心となる地。だからここを落とされたら、大地そのものが危なくなるのだ ”
「……それだったら神様がなんとかしてくれませんか? ってできるならやってますよね」
僕が思わず言うと、
” すまない。今の私ではここを守るのが精一杯だ……。だから頼む、君達で不幸の元凶を断ってくれ ”
「いや、そう言われてもどうすればいいんですか?」
” それは……ん? ”
「え、どうかしましたか?」
” な、何故だ? 私が気づけなかっただと? ”
「え、だから何が」
” ふ、不幸がそこにいる……? ”
「へ?」
「不幸不幸って、あんたが何もしないからこうなったんでしょ」
「え? ……うわあああっ!」
アヤちゃんが……宙に浮いていた。
そして黒い霧のようなものに覆われていて、妖しい笑みを浮かべている。
「な、な、どういう事だよ?」
「まさか、アヤちゃんがイザナギ様が言ってた」
慎と雅夢が言うと、
「ぬふふふ、逃さない」
アヤちゃんの目が光ったかと思うと、
ドォーン!
” ギャアアアー!? ”
轟音と共に本殿が爆発し、イザナギ様の悲鳴が聞こえた。
「これでもう邪魔する奴はいないね……ぬふふふ」
また妖しい笑みで、燃え盛る本殿を見つめていた。
「あ、ま、まさか?」
「神様を……?」
慎と雅夢は真っ青な顔で震えていた。
「……ね、ねえアヤちゃん。何で?」
「大悟お兄さん達みたいなさ、優しくていい人ばっかりだったらよかったのに」
「え?」
「少しの間だけど楽しかったよ……えいっ」
最後に見えたのは、アヤちゃんの悲しげな顔だった。
「うん、もうここも黒い雲に覆われたね」
アヤは空を見上げた後、足元に落ちていた三つの人形を拾い、
「ぬふふふ……これからもずっと一緒にいようね」
少し悲しげにそれらを抱きしめた。
隠された秘密 仁志隆生 @ryuseienbu
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