隠された秘密

仁志隆生

前編

 秘密に触れると、こうなる。

 僕達は身を持ってそれを知った。


――――――


 ある日突然、自分以外の人が消えた。

 僕は他に消えてない人がいると思いずっと探し続け、アヤちゃんや慎に会えた。

 そして、もう一人にも。




「な、なあ雅夢がむ、それ本当かよ?」 

 慎がその彼、雅夢に尋ねる。

「うん。映像で見たけど、この辺り一帯だけ雲が無いんだよ」

 雅夢がアンテナをつけたタブレットに表示された地図をなぞりながら言う。

 聞けば人工衛星から撮った映像を受信してるらしい。

 そんな事民間人ができるのかと聞いたら、やり方次第で出来るって……知らんかったわそんな事。


 あと、黒い雲は日本どころか世界の陸地をほぼ覆っているって……。

 という事はどこも似たようなものか……。


「けどさ、なんでそこいらだけがなんだろな?」

 慎が首を傾げると、

「おそらくだけど、この辺りに今の状況の秘密があるのかも」

 雅夢がそう言って顔を上げた。


「だとしたらどうする?」

 僕も聞いてみるが、

「分からないよ。近くまで行ってみるしかない」

「やっぱそうかよ。しっかしさ、よくそんなの作れるよな」

 慎がタブレットを指して言う。

「そうだよね。雅夢は昔も今も天才だよ」

 僕もそれを見ながら言うと、

「ははは。好きが高じてこうなっただけだよ」

 雅夢は頬をかきながら言った。



 彼もまた小学生時代の友達。

 いわゆる発明小僧でとても頭がよく、それもあって中学は遠方にあるそっち方面の私立に行ったため、やはり疎遠になっていた。

 それがこの近くに来た時に再会できて、今に至る。


「わ~、お兄さんすっごいね~」

 アヤちゃんがそう言って雅夢に抱きついた。

「え、あはは」

 おお、照れてる。


「ねえ、今いる所から車で五時間くらいだけど、どうする? すぐに行く?」

 僕は皆に聞いてみた。

「いや、明日の朝早くにしようよ。今からだと着く頃には夜だし、そこでもし何かあったらね」

「そうだな。俺達だけならまだしも、アヤちゃんがいるからな」

 雅夢と慎がそう言った。

「そうだね。アヤちゃんもそれでいい?」

「うん」

 その日は近くに和風旅館があったので(当然誰もいないが)そこで休む事にした。




 深夜。

 ふと目が覚めて部屋を見渡す。

 何かあった時の為にと皆同じ部屋で寝ている。

 慎はいびきかいている。雅夢もスウスウ寝ている。

 だがアヤちゃんがいなかった。

 トイレでも行ってるのかな。

 そう思って横になったが、なかなか寝付けなかった。


 しばらく経ったが、アヤちゃんは戻ってこない。

 何かあったのか?

 僕は起き上がり、懐中電灯と途中で手に入れた木刀を持って部屋を出た。



 女子トイレの前に来て呼びかけてみたが、返事がない。

 悪いと思いつつ中に入って明かりを照らしたが、どうやらいないようだ。

 

 その後旅館中探したが、いなかった。

 じゃあ外へ出たのか?

 そう思って玄関まで行くと……。

「え?」


 戸の向こうに大きさからして、大人の人影がそこにあった。

 まだ他の人がいたのか、それともゾンビか何かか?

 とにかく声をかけてみよう。


「あの、すみません。誰かそこにいるのですか?」

 聞こえてないのか違うのか、反応が無い。

 どうする? 

 いや、アヤちゃんに何かあったらと思い、戸を開けてみた。


「あれ?」

 そこには誰もいなかった。

「目の錯覚? って、それはともかくアヤちゃんは……え?」

 庭を照らしてみると、そこになんて言えばいいか。

 日本神話に出てくる女神様のような服装や髪型の、綺麗な女性だった。

 コスプレでもしれるのかって、

「え、えと、あなたも無事だったのですね」

 その女性に話しかけると、彼女は少し笑みを浮かべた後……スッと消えた。


「ふぎゃああああ!」

 思わず尻餅をついてしまった。


「おい、どうした!?」

「何かあったの!?」

 どうやら僕の声で起きたらしい慎と雅夢が走ってきた。


「い、いや、人がいたんだけど、消えた」

 僕が女性がいた場所を差して言うと、

「おい、寝ぼけてた訳じゃねえよな?」

 慎が若干疑りながら言い、

「ねえ、アヤちゃんは一緒じゃなかったの?」

 雅夢が辺りを見渡して言うと、

「う、うん。だから探してたんだよ」

「あたしここにいるよ」


「うわあああっ!?」

 いつの間にか僕の後ろにアヤちゃんがいた。

「……ってアヤちゃん、どこにいたの?」

 気を取り直して聞くと、

「星が綺麗だなって思ってそこで見てたの」

 そう言ってアヤちゃんがさっき女性がいた場所を指した。

「え、ずっとって、そこに誰かいなかった?」

「ううん、いないよ?」

 アヤちゃんは訳が分からないといった感じで首を傾げた。

「え……?」


「今回はどうやらお前が寝ぼけてた方だったな」

 慎が腕を組んで言う。

「う、うんごめんね」

 僕は立ち上がって皆に謝った。

「いいって。それとアヤちゃん、大悟が心配して探してたんだから」

「うん。お兄さん、ごめんなさい」

 アヤちゃんは可愛らしくお辞儀した。

「いや、無事だったならいいよ。さて寝ようか」

「うん」


 その後布団に入ると、すぐに眠くなって寝てしまった。




 皆が寝静まった頃。

「綺麗だなんてありがと、ぬふふふ」

 アヤは小声で呟いた。

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