その後
──そして、私は。
あれから五年がたってなお、彼にあの言葉を告げずにいた。
あの夏、あの岬で、私の目的は果たされた。にもかかわらず、私は未だに彼と共に旅を楽しんでいる。
彼は無事に大学を卒業した。就職もしたし、より広い部屋への引っ越しも果たした。そして、普通二輪免許の取得まで成し遂げてみせた。
四十馬力を誇るエンジンが咆哮する。左手には、午後の日差しに燦然と輝く海。右手には果てしなく広がる大平原。道端で休んでいた名も知らぬサイクリストが、手を振ってくれた。
小さくサムズアップをしてそれに応えながら、私は彼の背にそっと頬をよせる。そして心の中だけで呟く。本当はとっくの昔に電話で伝えて然るべき、けれども決して声になんか出してやらない、私の想いを。
──もしもし。私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの。
そしてこれからも、ずっと。
メリー・オン・ザ・ロード 濱 那須時郎 @Nasuhama
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